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  • 2024.02.14

書道家・アーティスト 青柳美扇さん<後編> 書道から遠ざかっている大人にこそ、おすすめします

書道家・アーティスト 青柳美扇さん<後編> 書道から遠ざかっている大人にこそ、おすすめします

前編では、仕事として求められた以上は高いクオリティを提供できるように、そして「誇れる自分で」いられるように、「常に準備を整えておく」と話してくれた青柳さん。続く後編では、今後の自分磨きについてお聞きしました。

会場に来た方たちにも
福と笑顔が訪れますように

青柳美扇さんの個展には、高校や大学で書道を実践している学生をはじめ、若い方が多く訪れるのが特徴です。カップルで、親子で、一緒に鑑賞しながら、それぞれ気になった作品について楽しく語る様子も多く見られます。

「7回目となった2023年10〜11月の個展では、立体作品をはじめ作品の置き方を工夫しました。これまでは、少し広めのスペースに、作品をひとつずつ、間隔をとって、美術館の絵画のように展示することも多かった。けれど、私の作品全体・会場全体でインスピレーションを感じてもらいたい、と考えると、もう少し小さな場所を選び、配置の仕方も工夫したほうがいいだろうと。会場に入るとインパクトのある作品がまず目に入って、瞬間で元気になってもらい、進んで行くと入り口からは見えなかった『福』『笑顔』などの明るくユニークな作品がぱっと現れる。来場者はそこで写真を撮ったりして、まるでパワースポットのようになって。会場に来たみなさんにも福と笑いが訪れたらいいな、と考えました」

個展の期間中は、お客様と会話をしたり、作品の前で一緒に写真を撮ったりする青柳さん。来場者にとってはそれもひとつの楽しみになっています。でも、その裏では思い悩む日々も…。

「個展の準備期間はもちろん、始まってからも、もっとよく変えたい、もっとよくしたいと考え続けてしまいます。深夜まで作業して、それでも早朝には目が覚めてしまい、睡眠時間3〜4時間という毎日の繰り返しです。そんな個展期間が終わると、寝込んでしまうのもよくあること。とことんこだわりたい性分なんです。

2024年は、今やっているVRでの作品づくりを進化させていきたい。みんながやっていないことをもっとやっていきたい。書道は楽しいし、どんどん好きになっていきます。だからこそ、現状の形を守っていくだけでは、いつか廃れてしまうのではないかという怖さもあります。だから立ち止まらずに自分を信じて前に進み続けたい。自信の根拠はないけれど、それでも信じ続けることが大事だと思うのです」

立体作品 三次元の筆跡『美』(白)。VRで360度立体的に書いた文字を3Dプリントで出力した作品。自身の代表的な文字「美」の筆跡が全角度から見えるようになっている。立体作品 三次元の筆跡『美』(白)。VRで360度立体的に書いた文字を3Dプリントで出力した作品。自身の代表的な文字「美」の筆跡が全角度から見えるようになっている

形式は自由。
手描きの文字に思いを込めて

書道というと、「子どものときに習ったきり」「再開したいけれど、なかなか…」という人も多いのではないでしょうか。けれど、「大人こそ、もう一度やってほしい」「大人こそ、上達が早い」と青柳さんは言います。

「小さいときに習っていたのは、いわゆるお習字ですよね。私が今書いている『書』は、基礎は同じでもまったく違うもの。今さら…という人がいらっしゃいますが、自由度の高い『書』なら、大人になってからも始められるし、むしろ大人のほうが目で見て書き写す能力が高く、上達も早いんです。

そうやって書を楽しめるようになったら、簡単なお礼状やお手紙を書くのも楽しくなります。メールでどれだけ丁寧な文章をもらっても、手書きでひとこと『ありがとう』と書かれてあるほうがうれしいし、あたたかみもメッセージ性も伝わりますよね。『ありがとう』だけでもいいし、『寒いから気をつけてね』などのひと言でもいいと思います。カードや便箋があればそれでもいいけれど、私はコンビニなどでハガキを買ってその場でポストに入れる、なんていうこともあります。また、手土産を渡すときに、包装紙にそのままメッセージを書いて渡す、なんていうこともあるんですよ」

封筒やカードがなくても、伝えたい気持ちがあればOK。気持ちはおのずと文字に表れて、相手の心に響く…。青柳さんの周囲には応援してくれる人がいつも集まっているのが、それを証明しています。

書道家・アーティスト 青柳美扇さん

「最近、バレエのレッスンを始めました。インナーマッスルを鍛えて、服を脱いでもきれいな自分でいられるように。そして、立つだけでも美しい姿を保てるように。目指すのは、いくつになっても芯のある女性です。強さもありつつ愛嬌とかわいらしさがあることが、理想です。そうなれるように、頑張ります!」

  • 青柳美扇(あおやぎ・びせん) 書道家・アーティスト、書道パフォーマンス甲子園PR大使/1990年生まれ、大阪府出身。世界10カ国以上で書道パフォーマンスを披露。国内では、第99回天皇杯決勝にて約5.8万人の観客を前にオープニングアクトを務めた。2023年5月には世界遺産・高野山に巨大屏風を奉納。ゲーム「モンスターハンターライズ」の筆文字ロゴや、手塚治虫原作の「どろろ」の題字を担当。2021年10月『情熱大陸』(MBS)に出演。2023年発売の著書『毎日、ポジティブ。心が元気になる50の言葉』(ぴあ)では、字体やデザインの異なる50の書を掲載。疲れたとき、元気がでないときのために、手元に置いておきたい一冊です。

    2024年は、チャリティーアート展&オークション「Feel-Love Project MUSIC&ART2024」に参加予定。
取材・文/南 ゆかり
撮影/望月みちか
デザイン/WATARIGRAPHIC