「朝はご飯を食べたほうがからだにいい」ということは誰でも一度は聞いたことがあると思います。ではその理由はなんなのでしょう? 経験的に「食べないと頭が働かない」「活力が出ない」くらいはわかっていても、そのメカニズムまでは知らない人も多いのでは? 今回は、なぜ、朝食は食べたほうがいいのか。その本当の理由について兵庫県立大学 環境人間学部 教授の永井成美先生に伺いました。
永井先生による、朝食を食べるといい3つの理由はこれ。
(1)体内時計を整える
(2)頭のスイッチを入れる
(3)からだのスイッチを入れる
どういうことなのでしょうか。順番に説明しましょう。
健康の源である体内時計を整えてくれる
「人間には、1日(約24時間)を計測できる体内時計が備わっています。睡眠・覚醒、体温や血圧、免疫機能の調整、ホルモン分泌などは体内時計のリズムに合わせて行われており、これらのリズム現象が調和しているのが健康な状態です。代謝のシステムや免疫のシステムも、この体内時計の管理下にある。なので、大元の時計が狂ってしまうとさまざまな体調不良が現れてしまいます。
体内時計には、大きく分けて、主時計、末梢時計があります。主時計は脳(視交叉上核と呼ばれる、目の奥あたり)に、末梢時計は内臓や筋肉、血液中の白血球などからだのいたるところにあるんです。それぞれの時計が約1日周期のリズムを持っているんです。地球の自転は24時間ですが、体内時計が計測する1日はそれより少し長くて(24時間と15分くらい)、少しずれがあります。このずれを調整するために、毎朝規則正しく起きることが非常に重要なのです。
まず、朝の光が目に入ると、光の刺激が視神経から脳内の主時計に届き、主時計がリセット(同調)されて昼夜のサイクルが整います。次に、朝食を食べると肝臓や腎臓、消化器官など、内臓の末梢時計がリセットされます。主時計と内臓の時計は、朝の光と朝食により、昼夜のサイクルを実際の時間と合わせることができるのです。このリセット作用は、24時間おきに繰り返されることで、強力にからだのリズムが作られるので、起きる時間や朝食習慣は、決まった時間にすることが望ましいのです」
「さらに朝の軽い運動は、筋肉の時計のリセット作用に役立ちます。光刺激、朝食、運動の3つの刺激が、朝の同じ時間帯に起こると、体内時計が整い体調がよくなります。逆に、この体内時計が整っていないと、エネルギー代謝やホルモン分泌などのリズムが崩れ、体調不良が起こります」
体内時計の乱れは、生活習慣病や肥満、うつ病などのリスクを高めることにつながってしまう。朝は規則正しく起きて、朝食を食べることが健康への第一歩ということだとわかります。
頭スイッチを入れる=仕事や勉強の効率をあげる
また「脳が働くためには糖質が欠かせない」と永井先生。朝食で、パンやご飯などの糖質を食べることで、血液中の血糖(グルコース)が増え、頭のスイッチが入ります。
「以前、テレビ番組で行った実験で、和食と洋食の朝食を食べたあと、この時用意した2時間集中作業をするとどうなるか、を試しました。両方とも食べたカロリーは同じですが、和食はエネルギーの6割が糖質で、洋食は6割が脂質というものでした。和食を食べたグループは、2時間の作業後も元気でしたが、洋食を食べたグループはぐったりしてしまいました。脳は集中作業をすると大量に血糖を消費します。和食を食べた人は、糖質が十分にとれていたので2時間の集中作業後も元気だったのです」
1日のパフォーマンスをあげるためには、朝食ではしっかり糖質をとることが重要。
「つまり朝食は、頭のスイッチを入れ、午前中の活動を効率よく集中して行うためにも必要なのです」
食後の高血糖が気になるという方で糖質を控えたい場合は、「白米や小麦粉のパンではなく、五穀米や胚芽米、玄米や大麦を混ぜたご飯、全粒粉入りやライ麦入りのパンにすればいいでしょう。これらは食物繊維が豊富で、糖質の吸収を緩やかにしてくれるからです」
からだスイッチを入れる=エネルギー代謝をあげる
3つ目に紹介したい朝食のはたらきは、からだにスイッチを入れ、エネルギー代謝を高めること。
「男女37名を対象に、24時間のエネルギー消費量を連続で調べた海外の研究があります。これによると、朝ごはんを食べる人のエネルギー消費量は約25%上昇するそうです。つまり盛んに体熱が作られていることがわかりました」
「さらに注目すべきは、朝食を食べた人がそのあとに昼食と夕食を食べると、朝食によって午前中に上がったエネルギー代謝が落ちることなく、午後や夕食後にさらに消費量が高まるということ。つまり、朝食は、午前中だけでなく午後のエネルギー代謝も高めてくれるのです。私たちが大学生対象に行った実験でも、朝食と昼食の両方を食べた人と比べると朝食を抜いて昼食のみ食べた人は、昼食後のエネルギー代謝量は増えにくかった。つまりダイエットをしている人ほど朝食は食べるほうがいいのです。朝食を食べることは、太りにくいからだづくりにも役立ちます」
朝食抜きだと1日のエネルギー消費量が増えないため、逆に太りやすくなってしまう。これは意外な結果でした。
「朝食を食べると体温も上がりますから。脳、筋肉、関節の温度も上がり、からだがスムーズに動きやすくなります。スポーツ競技でしばしば午前中よりも午後のほうが良い記録が出るのは、このことと関係しているとも言われています。朝食は、午前中の活動のためだけでなく、午後に大事なイベントがあるときこそ食べたほうがいいのです」
「ちなみに、1日の体温は夕食後が一番高くなります。そして、夕食後をピークに急激に下がります。このときにメラトニンという眠りのホルモンが分泌され、いわゆる『睡眠の門が開いた』状態になります。このタイミングで就寝すれば良い眠りに就くことができますよ」
なんと、朝食を食べることは1日の体温のリズムを作り、その日の睡眠の質まで左右してくれる。朝起きて、朝食を食べることがなぜ大切なのか、おわかりいただけたのではないでしょうか。そうは言っても「朝起きてすぐに何か食べる気になれない」「食欲がわかない」という方もいるかもしれません。
次回は、そんな方のために、どう朝食習慣をはじめればいいのか、どんなものを飲んだり、食べたりすればいいのか。誰でも続けられる簡単レシピとともにご紹介します!
次回は4/26(水)更新予定です。お楽しみに。
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永井成美(ながい・なるみ)
兵庫県立大学環境人間学部 教授
1999年、日本女子大学 家政学部 食物学科卒業。2004年、京都大学 大学院 人間・環境学研究科博士課程修了。2013年より現職。専門は、栄養生理学、時間栄養学、食育(栄養教育)。栄養と健康の関わりについて、胎児(妊娠)期から高齢期のヒトを対象として、実験的、観察的研究を行い、得られた成果を栄養教育の企画や実践に活かしている。
イラスト/山内庸資
構成/梅原加奈
デザイン/WATARIGRAPHIC