体内時計、正しく動いていますか?!

特集/眠りと美の深い関係

先生/肥田昌子(国立精神・神経医療研究センター
精神保健研究所 精神生理研究部室長)
取材・文/大庭典子(ライター)

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"朝の光"で体内時計をリセット!

自分が眠りたいと思うタイミングできちんと睡眠がとれるか、そして朝、快適に目覚めることができるか。これはひとりひとりの体に備わった"体内時計"と深い関係があります。

最新の研究では、体内時計を皮膚細胞から測定できることがわかり話題を呼んでいます。今回は、その研究を発表した「国立精神・神経医療研究センター」の精神生理研究部の室長、肥田昌子先生に睡眠と体内時計の関係について、お話をお伺いしました。

「睡眠は、疲れたからだや脳を休めるためにとるという生理的欲求であることのほかにもうひとつ、"体内時計"の働きとも関係があります。

私たちが1日1回行う、寝て起きる、という行為には、夜→寝る、朝→起きるというリズム性があると言えます。このように約24時間を周期とするリズム性を支配しているのが"体内時計"なのです。

体内時計は、寝る、起きるなどのリズムをつくるだけでなく、ホルモンや体温、血圧などさまざまな生理現象のリズム性をコントロールしています。起きている日中にたくさん分泌されるホルモンもあれば、寝ている夜間に多く出るホルモンもありますが、このようなリズム性をつくっているのが体内時計です。

この時計の周期にはかなりの個人差がありますが、平均はおよそ24時間10分と言われています。最近の研究では、ある睡眠障害の場合、周期が長くなっているケースがあることなども分かってきました。

ただ、個人の体内時計の周期などは簡単に測れるものではありません。正確に測るには、外界の環境情報から隔離された部屋でホルモン分泌リズムを決定し、光、温度、食事、運動、さらには、睡眠をコントロールしながら、数週間入院をしてもらうといった大がかりな調整が必要なのです。

負担を減らし、なおかつ体内時計を測る方法を探った結果、皮膚の細胞を採取し、体内時計に関係する遺伝子の変化量を調べることでその人の体内時計の特徴を見られることが分かりました。現在、私たちはその研究に取り組んでいます。

そもそも、どうして皮膚細胞から体内時計が測定できるかというと、人の体内時計はひとつではなく、細胞ひとつひとつにもそれぞれ体内時計の機能が備わっているからです。細胞ひとつに備わった時計は末梢時計とか子時計などと言われていますが、それらすべての子時計をまとめて統括しているのが、脳にある親時計です。

脳の視床下部の視交叉上核(しこうさじょうかく/SCN)という場所にある親時計は、どうやって動いているか、何を基準に時を刻んでいるかというと、"光"です。目からSCNに直接光が入ることで、脳内にその情報が届き頭やからだが目覚めるのです。動物実験などでこの視交叉上核を取り除いてしまうと、行動やホルモンのリズムがめちゃくちゃになってしまうこともわかっています。

ポイントは、親時計は"光"を浴びる時間によって、体内時計を前進させることも後退させることもできるということ。実は、夜寝る前に光を浴びると体内時計は後退してしまうのです。光を午前中に浴びられず、夜にばかり人工照明の光を浴びて活動していると、時計は後退しつづけ、睡眠時間は遅くずれ込み、朝に起きづらい体質となり、最終的には朝型どころか標準型の体質にもなれない、といった悪循環が起きてします。逆に午前中に光を浴びると時計は前進し、早起きがしやすいからだに。

このときの光は太陽の光でなくても効果があります。それでも太陽光は、人工照明の100倍ものエネルギーがありますので、目覚めにいちばん効果的なのは、やはり太陽の光です。

24時間よりも少し長い体内時計は、光を浴びることによって、毎日リセットされます。ですから、体内時計を整えたい方や早起き生活に慣れたいと思っている人は、寝る時間よりも起きる時間を意識して、"起きて→寝る"という感覚で生活をするといいでしょう。寝る時間には多少バラつきがあっても、起きる時間を一定にすることが体内時計を整える第一歩なのです。

ただ、早起きができない人のなかには、無理に起きると体調を崩してしまう人もいます。たとえ遅く起きていても、起床時間がある程度一定で体調に問題がなく、生活にも支障がないなら、今のままでもいいのかもしれません。

いちばんよくないのは、昨日は6時起き、今日は10時、翌日は7時...のように、親時計のリセットのタイミングが毎日バラバラになってしまうこと。これが慢性的になってしまうと体内時計が狂い始め、自分が寝たいと思うタイミングで眠られない、起きられない、などのつらい症状につながってしまうことも。親時計は自発的にコントロールできるものだからこそ、一定の時間に起きて、午前中光を浴びることを心がけてください

なるほど、"起きて→寝る"...ですね。確かに、起き抜けぼーっとした状態でも、目を開けて、光を感じると頭が目覚めてくる感覚は分かるような気がします。午前中の光で親時計を前進させて、這いつくばって起きるような苦しい朝ではなく(笑)、快適な早起き習慣を身に着けたいものです。

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肥田昌子 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 精神生理研究部室長。東京大学大学院医学系研究科分子細胞生物学専攻修了、医学博士。03年、米国ヴァンダービルト大学リサーチアソシエイトを経て、09年から現職に。時間生物学、分子生物学を専門にした研究を行っている。生体組織を利用したヒト生物時計機能評価に関する研究成果で、第18回日本時間生物学会学術大会において優秀ポスター賞、第37回日本睡眠学会定期学術集会にてベストプレゼンテーション賞を授与。

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