今日からできる! 脳のための食生活

特集/ブレインヘルスの最新事情

先生/広川慶裕(認知症予防医・ひろかわクリニック院長)

---- 認知症予防を専門とする精神科医の広川慶裕先生によれば、「認知症は生活習慣病の終着駅」。では、生活習慣病を防ぐ食事をすれば、脳も健康でいられるのでしょうか。脳の働きを活発にする食材や食事法とは? 今日から始められる食事のポイントや、具体的なドリンクのレシピまで、広川先生がアドバイス。

今日からできる! 脳のための食生活

ただ起きているだけでも 脳はエネルギーを大量消費

からだを動かし、必要なホルモンを分泌して、脳が十分に活動するための環境を整えたら、次は脳にしっかりとエネルギーを与えましょう。

臓器としての脳の重さはからだ全体の2%程度ですが、機能するためには、全体のエネルギーの20%も消費します。さらに、そのエネルギーの2/3を、「目が覚めている状態を維持する」ために使っているのです。となると、人は、残りの1/3のエネルギーで、歩いたりしゃべったり仕事をしたりしていることになります。全体の供給量が少なくなれば、活動に割けるエネルギーも少なくなるわけです。つまり、脳をしっかり活動させるには、からだに潤沢にエネルギーを供給する必要があるのです。

そのために大切なのは、食事です。一般的に栄養素バランス比は、たんぱく質2:脂質:3:炭水化物5と言われていますが、私が患者さんにおすすめしているのは、たんぱく質3:脂質4:炭水化物3の割合で食事をすること。ポイントは、糖質を減らし、減らした分はたんぱく質と脂質で補うこと。1日3食で、毎食炭水化物をとるという一般的な食事では、血糖値が急激に上がる→インスリンが出る→低血糖になる、というサイクルの中で、糖が中性脂肪に変わり、動脈硬化などの原因となります。そこで糖質は半分に。さらに、必須アミノ酸9種類を含むたんぱく質は、細胞の修復を促します。

効果をすぐに感じられる 脳に"効く"食材とは

ただ、「脳によい食事を」といっても、面倒で続けられないのでは意味がありません。そこで提案しているのが、「糖質を半分にする」「納豆を1日1パック食べる」「卵2個を追加する」「豆乳をとる」こと。あとは何を食べてもかまいません。これなら今日からできて、続けられるはずです。

この食事内容は、実際に、認知症の予防的な治療として患者さんに実践していただいていますが、始めてから2週間から1か月で、「頭がすっきりしてきた」「記憶が戻ってきた」という方も多いんです。認知症を発症してからでは、改善することはなかなか難しい。早いうちから脳にいい食生活を習慣化しておくと、10年後、20年後が違ってきます。

疲れを感じたときに、脳の働きに直接効果を発揮するのが、「豆乳200cc+MCTオイル大さじ1+ハチミツまたはオリゴ糖を適宜」をシェイクしたドリンクです。MCTオイルには、エネルギーになりやすい中鎖脂肪酸が含まれています。飲んで1時間くらいで、頭がはっきりしてくるのがわかります。1日2杯、朝と夜に飲むとよいですよ。

また、からだの99%のエネルギーとなるATP(アデノシン三リン酸)がつくられているミトコンドリアも、加齢とともに機能が落ちてきます。それをサポートするためのサプリメントも市販されていますので、上手に活用してください。

運動も食事も、大切なのは毎日続けることです。シンプルで効果の高い方法を、今日から試してみてください。

----朝起きて、日々の活動をするだけで、脳は大量のエネルギーを消費しているのですね。効率のよいエネルギー補給は、からだにはもちろん、脳にとってもよいということ。早速実践したいものです。次回は、脳の意外な"本性"と、それを利用した脳内ネットワークの強化について伺います。

  • 広川慶裕
  • 広川慶裕 精神科医。認知症予防医として認知症やうつ病、統合失調症などの精神疾患治療に携わる。メンタル産業医でもあり、働く人のメンタルヘルスにも関わっている。認知症予防専門クリニック「ひろかわクリニック(宇治駅前MCIクリニック)」、「脳とこころの健康相談室(品川駅前MCI相談室)」院長。著書に『認知症の危険度がわかる自己診断テスト』『もの忘れ・認知症が心配になったら読む本』『認知症は予防できる!』『「認トレ®」で防ぐ認知症―完全4週間メソッド』などがある。 ひろかわクリニック:http://www.j-mci.com
取材・文/剣持亜弥