
「美しい佇まい」サイトでは、これまで「からだ文化研究プロジェクト」メンバーの活動を、多角的にご紹介してきました。今回は、メンバーのひとりであり呼吸を専門に研究・指導されている大貫 崇先生を訪問。築100年以上の京町屋を改装した呼吸専門サロン「ぶりーずぷりーず」で、現代の暮らしを乗り切るための呼吸を教えていただきました。
呼吸の出来を100点満点で評価
大貫先生のサロンを訪れる人は、実にさまざま。マスク生活で息苦しさを感じるという人から、睡眠に問題を抱える人、肩こりや腰痛に悩む人、パフォーマンスに悩むアスリートから音楽家まで。そうした人たちに、呼吸の指導がどう効果を発揮するのでしょうか。まずはそのプロセスから。
「からだに何らかの問題を抱えていても、自身の呼吸に問題があると知っている人は、少ないものです。自分にとって適切な呼吸ができているのか、自分でわかっている人もほとんどいません。そこでまず、呼吸の出来を100点満点で評価することから始めます。そのうえで、呼吸をさまたげている筋肉をほぐし、呼吸をアシストし、その人が本来持っている呼吸に導いていくのです」



おなかと胸を同時に膨らませる
ちなみに編集部Mの場合、肩こりは慢性的すぎてもはや「これが普通」といった感じ。最近は、眠りが浅かったり寝つきが悪かったり、ということが気になります。これも、呼吸で改善されるのでしょうか。
「睡眠の質は、適切な呼吸を身につければ、ずいぶん改善が期待できます。実際にいらっしゃったお客さまでも、睡眠の質が上がったとおっしゃる方が多いですね」と大貫先生。さて、測定の結果は…「100点満点で82点! 素晴らしいです」。自分でも予想しなかった高得点に驚きでしたが、これはまだまだ序盤。
呼吸動作のチェックでは、「おなかは動いているけど、胸が膨らんでいない」とのこと。それを改善するために、大貫先生の施術が始まります。ベッドで仰向けになったまま、腕をぐるぐる回したり、肩周辺をほぐしたり。

「こうしながら、腰から脇までつながる“広背筋”をほぐしていきます。これが固くなると、呼吸を邪魔してしまうのです。どうですか? 息が吸いやすくなったでしょう?」
確かに、ほぐしてもらう前の1.2倍くらい多く空気が入る気がします。続いてみぞおちを軽く押しながら、「ここが固まるのも、呼吸を邪魔する要因」と大貫先生。

自律神経をコントロールする呼吸
気持ちよくからだをほぐしてもらって十数分。続いて、おなかと胸に手を当てながら、いざ呼吸の練習へ。「息を吸ったとき、おなかと胸が同時に上がるようにしてください」。それを意識しながら、口から大きく吐くこと10拍、息を止めて3拍、その後鼻から吸う。これを何度も繰り返します。

はじめは、「(おなかと胸を)同時に」「肋骨が天井に向かって上がるように」と言われても、難しかったけれど、繰り返すうち、感覚がつかめるもの。そして大貫先生が「このテンポで呼吸できれば、副交感神経優位になってきますよ」と枕元で話すころには、なんだかとってもここちよく…。まさに、「副交感神経優位」になった証。副交感神経優位、つまりリラックス状態ですから、これを寝る前に実践したら、寝付きの悪さが改善できるというのも、納得です。
すると、「はい、ここからが本番です」と大貫先生。
「私が肋骨を押していきますね。肋骨が動かないようにしながら、先ほどと同じように吸っていきましょう」。

教わったように、口から吐いて(10拍)、止めて(3拍)、鼻から吸う。動作は同じですが、肋骨を押さえる(しめる)ことで、おなかよりも胸に空気が入ることがわかります。
そして、深呼吸というと「吸う」ことを意識しがちですが、まずはたっぷりと息を「吐く」。これによって、力が抜けるのがわかるし、先生の言う「胸を膨らませる」がやりやすくなります。

肋骨を押し下げると、呼吸に大事な横隔膜がしっかり動く。そうすると、横隔膜の下にある腸や肝臓、腎臓が動き出す。それによって、便秘などさまざまな症状が解消されるというのは、なるほど理にかなっています。また横隔膜でちゃんと息が吐けるようにすることは、副交感神経のコントロールにもつながっているそう。だから自律神経(交感神経と副交感神経からなる)の乱れからくる不調改善に期待ができる。先ほどのリラックス状態をつくるのも、横隔膜のなせる技だったのです。
呼吸で体幹が安定すると、運動パフォーマンスも上がる
冒頭で大貫先生が言っていたアスリートや音楽家のパフォーマンスには、呼吸がどう影響するのでしょうか。
「肋骨をうまくコントロールしながら横隔膜を動かせるようになることで、しなやかな動きができるようになります。体幹が安定し回しやすくなるので、軸ができ、単純に走ったり歌ったりすることはもちろん、野球やテニス、ゴルフなどのスイング、ピアノやバイオリンの演奏にだって影響します」
呼吸トレーニングの最後に、もう一度基本動作や呼吸回数を測って点数を算出。トレーニング前の82点は92点にアップ! 1分間の呼吸回数は、10回からわずか2回に。深くてゆっくりした呼吸ができるようになった成果です。さらに数字の上でも、肋骨が閉まり、胸に空気を入れられるようになり、からだの軸も安定したことがわかります。


*本画像はNECが開発中のものです。
ちなみに編集部Mは、夜寝る前と午後の休憩タイムにこの呼吸法を10回ずつ実践しています。寝つきは明らかによくなったし、日常の生活でもゆっくりした呼吸を意識するように。それでも、忙しくなるとつい、短く浅い呼吸になってしまうのは、からだの残念な習慣で…。
「何度か繰り返すうち、最終的には自分で自分の呼吸を修正できるようになりますよ」と大貫先生。と同時に、今は意識的に行っている「大きく吐く」ですが、これが無意識にできるようになったら…。いろんな意味で「身軽な」自分になれそうな気がします。
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アスレティック・トレーナー 大貫 崇
1980年神奈川県生まれ。フロリダ大学大学院で応用運動生理学を修了後、「アスレティックトレーナー(ATC)」としてテキサス・レンジャース、NBA(D‐League)、アリゾナ・ダイアモンドバックスを経て、2013年に帰国。
2016年にPRT(Postural Restoration Trained)認定を受ける。現在、大阪大学大学院医学系研究科健康スポーツ科学講座スポーツ医学教室特任研究員も務める。
著書に『勝者の呼吸法』(ワニ・プラス)、『「呼吸力」こそが人生最強の武器である』(大和書房)がある。
呼吸専門サロン ぶりーずぷりーず 京都東山
HP: https://www.bpand.co/breatheplease
オンラインレッスンもあり
デザイン/WATARIGRAPHIC