2022.11.16

IoT展示会レポート・前編/「優しい」技術が人に寄り添う未来は、すぐそこに

IoT展示会レポート・前編/「優しい」技術が人に寄り添う未来は、すぐそこに

「美しい佇まい」はどうしたら実践できるか、ワコールがさまざまな大学と共に進める研究の現場を、これまで紹介してきました。今回レポートするのは、「美しい佇まい」を「テクノロジー」でさらに進化させ、実用に近づけた京セラとの共同研究の成果。訪問したのは、国内最大級規模のIoTの展示会「CEATEC2022」です。私たちの美しい動作に、その先にある快適な暮らしに、テクノロジーがどんな役割を果たすのでしょうか。前・後編でお届けします。

からだに寄り添い、快適な暮らしに欠かせない技術

レポートの前編では、「CEATEC2022」で京セラによって発表された「人間拡張」についてご報告。今回は『舞』というコンセプトのもと、関連するシステムが発表されました。「人間拡張」というと、なんだか難しく聞こえますが…。

「身近なものでいえば、めがねや補聴器のように、さりげなく日常で使っているようなものも、含まれます。人の能力を広げることにつながるので、医療やヘルスケアなど広く展開が期待される分野です」と教えてくれたのは、横山 敦さん(京セラ 研究開発本部 フューチャーデザインラボ所長)。

「『舞』のロゴデザインは、『美しさ』『所作』と密接に関係する『能』舞台と、人が舞う姿を表しました。京セラとワコールが本拠地とする京都を代表する紫色を使っています」(横山 敦さん) 「『舞』のロゴデザインは、『美しさ』『所作』と密接に関係する『能』舞台と、人が舞う姿を表しました。京セラとワコールが本拠地とする京都を代表する紫色を使っています」(横山 敦さん) 人間拡張の分野は生活全般にわたり、幅広い。 人間拡張の分野は生活全般にわたり、幅広い。

「美しく歩く」ことを最新AIがサポート

今回発表されたシステムのひとつが、京セラとワコールが共に取り組む「歩行センシング&コーチングシステム」です。

「自分の歩く姿は、自分自身で客観的に見ることはできませんよね」と担当者の村上エドワードさん(京セラ 研究開発本部 フューチャーデザインラボ 主幹技師)。鏡では動く様子はわかりにくいし、「正しく」「美しく」歩きたいと思っても、どう修正したらいいか、正解はわかりにくいものです。そこで、歩き方を分析してくれて、正しく美しい歩き方のコーチングまでしてくれるというのが、このテクノロジーです。

村上エドワードさん(右)村上エドワードさん(右) 村上エドワードさん(右)この日の発表では、実際に小型ウェアラブルセンサーをつけたモデルがデモンストレーション。

歩行マシンの上で実際に歩き始めると、すぐに歩き方の特徴が分析され、ディスプレイ上のタコメーターに表示されます。さらに、言葉で表すのが難しい歩き方の印象も、どんな表現にあてはまるのか、画面上にマッピング。自分の歩行が周囲に与える印象を知ることができるのです。そして注目すべきは、自分の「なりたい印象」に近づくための、具体的な歩き方のコーチングまでしてもらえること。身につけるのは、イヤフォンと腕・足首のセンサーだけなので、動きを妨げることもなく、これなら日常に取り入れる日も近そうです(ワコールとの取組みの詳細については<後編>で)。

「聞き逃した!」を助けてくれるマイクとイヤフォン

次の研究発表は、マイクとイヤフォンを使ったもの。たとえば駅や空港などで、大事なアナウンスを聞き逃してしまったとき。複数の作業を同時に処理する現場などで、自分にかけられた言葉に気づかなかったとき。必要なセンテンスだけを拾い、耳元のイヤフォンで再生して気づかせてくれるというものです。

金岡利知さん(京セラ 研究開発本部 フューチャーデザインラボ 主席技師)金岡利知さん(京セラ 研究開発本部 フューチャーデザインラボ 主席技師)

「骨伝導イヤフォンとバイノーラルマイク(※)に、AIシステムを組み合わせ、聞き逃した内容をその場で聞き返すことができるもので、『聴覚拡張ヒアラブルデバイス』と呼んでいます。(※バイノーラルマイクとは、2つのマイクを人の両耳に配置し、人の耳で音を聞いている状態を再現するための録音用マイク)

たとえば、空港でのアナウンスを聞き逃したくない場合、自分の乗る便名をあらかじめ登録しておく。その便名が入ったアナウンスが流れると、そのセンテンスを検知してイヤフォンから再生します。『153便の搭乗が開始されました』というように。また自分の名前を登録しておけば、作業中などに名前を呼ばれたら、その部分が再生されて気づくことができます」と金岡利知さん。

聴覚拡張ヒアラブルデバイス

マルチタスクが当たり前になり、またマスクやイヤフォンをしながらの生活も浸透してきた今。「聞くこと」をさりげなくフォローしてくれるテクノロジーは、ニューノーマルの必然といえそうです。

リモート会議の不便さを解消。フィジカルアバターが大活躍

ニューノーマルによって、大きく変わったのがミーティングのスタイル。リモートでのミーティングスタイルは当たり前となりましたが、同時に「ちょっとした雑談がしにくい」「意志を伝えにくい」のも、多くの人が感じていること。

「オフィス側からリモートワークで参加する人の様子がわからない。また逆にリモート側は存在を忘れられがち、といったことは、よくあるでしょう。そこで、フィジカルアバターの活用をおすすめします」と説明してくれたのは、蒲池恒彦さん(京セラ 研究開発本部 フューチャーデザインラボ 主幹技師)。

蒲池恒彦さん(京セラ 研究開発本部 フューチャーデザインラボ 主幹技師)
会議室に置いたフィジカルアバターが、離れているリモート参加の人の意思の伝達役 ©️2022 KYOCERA Corporation

会議室に置いたフィジカルアバターが、離れているリモート参加の人の意思の伝達役。リモートから意思を伝えたいときは、ボタンひとつでフィジカルアバターが首を振ったり(うなづき)傾けたり(考え中)して、伝えてくれる。

また、フィジカルアバターには360度見渡せるカメラが備わっていて、リモートワーク側は画面で会議室全体の様子を知ることができるのも特徴です。

「オフィスはもちろん、カフェに置いて使ったり、どんどん活用の幅を広げていきたい。フィジカルアバターも今はシンプルな形ですが、色を変えたりアクセサリーをつけたり(笑)と、カスタマイズしていけたら、さらに楽しめるのではないでしょうか」(蒲池さん)

<後編>では、今回紹介したシステムのうち、ワコールと共同で進められた「歩行センシング&コーチングシステム」について、さらに詳しく紹介します。「人間拡張」の今後の活用や発展についても、わくわくするお話がたくさん。お楽しみに。

撮影/高木亜麗
デザイン/WATARIGRAPHIC

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