茶道家・北見雅子さん/姿勢への意識で自分が磨かれ、人生も好転する

茶道家・北見雅子さん/姿勢を意識することで自分が磨かれ、人生も好転していく

茶道会館・裏千家茶道教室で、多くの生徒をもつ北見雅子さん。明るく親しみやすいお人柄、わかりやすい指導にはファンが多く、茶道を「楽しむ」ことを実践しています。堅苦しいと思われがちな茶道の世界で、「楽しみ」ながら、美しさを体得していく姿は、北見さんの生き方そのものといえそうです。

伝統文化は『礼に始まり礼に終わる』

「美しい佇まい」というテーマに合わせ、北見先生がこの日、茶室の掛け軸に選んだのは、裏千家の第15代家元、千玄室大宗匠の筆です。

白珪尚可磨(はっけいなおみがくべし)

「『白珪尚可磨(はっけいなおみがくべし)』、完璧な状態の白く美しい玉でも、常に磨かなくてはいけない、という意味です。これでいいと思ったら、そこで終わり。私も、生徒さんに教える立場ではあるけれど、日々私のほうが勉強させてもらっているのと同じです。そんな気持ちで茶道を続けています。

軸を書かれた大宗匠は、現在99歳。今もその姿から美しさがかもしだされています。茶道のみならず、あらゆる文化芸術、そして世界での人との交流など、長い時間をかけて自分を磨き続けてきたからこその、美しさなのでしょう。

裏千家は姿勢のよさを大切にし、最初から一貫して学ぶのも姿勢です。背筋を伸ばして胸を張り、立つとき・座るとき、お点前をするときも、からだの軸をぶらさず、頭と爪先を引っ張り合う意識をもちます。お辞儀のときは、頭からではなく腰まわりから前に倒します。中でも「真(しん)」のおじぎは、相手を敬う気持ちを表す大切なものとして、いちばん最初のお稽古で学びます。日本ではどれも、『礼に始まり礼に終わる』といいます。礼が始まったとき、お互いを思いやり、空間が始まると考えられているのです。

このとき、手の指を常にそろえておくことも大事です。下腹を引き上げ、肩をさげ背筋を伸ばし、小指に意識を向けると、広背筋にも力が入り、美しい姿となります」

茶道家・北見雅子さん

茶席をより楽しむためにカタ(型)がある

茶道というと、どうしても堅苦しい、難しいと思われがちですが、そこにも北見先生なりのとらえ方があります。

「茶道だけでなく、華道も舞踊も、日本の伝統文化はカタの文化といわれます。堅苦しいと思われるかもしれませんが、カタがあって、それを身につけてこそ、自由に振る舞えるともいえます。カタを身につけるというと、自分らしさをなくしてかたちにはめこむことを想像するかもしれませんが、そうではありません。先入観やエゴ、プライドをなくして、やわらかな自分になって、カタをからだの中に染み込ませていくイメージです。それには、テキストで学ぶのではなく、先輩や先生の様子を見て、感じて、素直に取り入れることが大事です。

それができて初めて、自分の気持ちが自由に表現でき、茶室の空間でいえば、摩擦なくその場を楽しむことができるのです。作法がすでに身についていれば、季節を味わい、茶室のお軸やお花、お菓子やお茶に集中して味わうことができますし、より理解も深まります。茶道は日本の伝統芸能・芸術の集結だといわれるほど、いろいろな要素を取り入れていますし、奥の深い世界です。それをより楽しむためのカタであり、やがて美しい姿勢、美しい佇まいにつながるのだと思っています」

心を豊かにするものに触れていたい

「姿勢を意識し、カタを身につけるには、何年かかかることもあるし、あるときピピっとくることもあります。続けるうちに、その人のエゴや周囲へのバリアがなくなるのでしょうか、茶道を学ぶ席もここちよくなって、楽しくなります。佇まいも美しくなります。ある生徒さんは、人に優しくなり、周囲の雰囲気までもやわらかく変わったと話してくれました。姿勢を意識することによって自分が磨かれ、人生までも好転していく。ですから、私はよく言うんです。

『思考は姿勢につながり、姿勢は人生につながる』と」

今も学び続けているという北見先生の日常では、よい姿勢とよい人生のために、どのようななことを実践しているのでしょうか。

「茶道の時間だけでなく、立つときはいつも意識してまっすぐに。いくつになっても正座ができるようにストレッチを、体幹を意識するためのピラティスも続けています。そして大事なのは、きれいなものを見ること。空を見上げたり、季節の草木や花を愛でたり、美術館に行ったり。目に入ってくる刺激的なニュースに惑わされないで、それよりも、自分にとっての豊かなものに触れていたいと思います。

そして、年齢も立場も違う人たちと茶道をとおして時間を共有して、楽しみます。生徒さんを見ていると、ここにくることで日常から非日常へんとスイッチが切り替わり、茶道が気持ちの上でもいいリセットになっているのだなと、思うことがあります。疲れたとき、茶道教室に立ち寄ってから帰ると、なんとなく前向きになれる。茶道には、そんな作用もあるようです」

茶道家・北見雅子さん

美しさとは、一生かけて磨き続けるもの。人生を豊かにするもの。

  • 北見雅子(きたみ・まさこ) 茶名・宗雅(そうが) 裏千家教授、茶道文化振興会講師、伝統芸術振興会「子どものための日本文化教室」講師、みやび流和装道教授、華道師範、書道六段、剣道二段 茶道誌、教本のモデル他、「東京メトロ」「ユニクロAIRism」のCMなどテレビ・ラジオ・雑誌に出演・指導経験がある。近著に『きちんときもの手ほどき帖』がある。
取材・文/南 ゆかり
撮影/望月みちか
デザイン/WATARIGRAPHIC

からだ用語辞典: 広背筋 / 体幹(コア)

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