2021.12.22

美の認識に変化が起こっている? SNS時代の美しさ

美の認識に変化が起こっている?SNS時代の美しさ

「こころ」と「からだ」の健康の体系化を考える「からだ文化研究プロジェクト」(詳しくはこちらのページで)、そしてその先にめざす「美しい佇まい」。プロジェクトのスタートに合わせ、中心となるふたりの対談をお届けします。登場するのは、社会心理学を専門とする菅原健介先生と、ワコール人間科学研究所の坂本晶子研究員。
これからの「美しさ」、そして「なりたい自分」を見つけるヒントにしてください。

SNS時代、美の価値観に大きな揺らぎが

坂本 ワコールではこれまで、時代に合わせて女性の求める美しさを、データにもとづいて発信してきました。

これまでの研究発表はこちらを参考

菅原先生 その時代ごとに、お手本になるモデルを提案してきたということですね。

坂本 毎年多くの女性の人体測定をしながら、その時代に求められる美しさを実測データから導き出してきました。

菅原先生 近年は、女性の間で長らく続いた「痩せていることが美しい」という美のコンセプトが揺らいでいると感じます。調査でも、からだへの満足度が高いのは、痩せている人よりも「引き締まっている」と感じている人です(「多次元的身体像の構造および機能 : 若年女性が望んでいる痩身とは何か」対人社会心理学研究より)。実際、1980年から20〜30代の間で下がり続けていたBMI数値がここ数年で少し上昇しています。学生からも「筋肉は脂肪よりも重いから、体重計の数字だけ気にしてもダメ」なんて言葉が出てきますよ。

  • 菅原健介(すがわら・けんすけ)
  • 菅原健介(すがわら・けんすけ) 聖心女子大学文学部教授
    横浜国立大学教育学部心理学科卒業、東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程心理学専攻修了。文学博士。現在、聖心女子大学文学部教授。専門は社会心理学、性格心理学。著書に『羞恥心はどこへ消えた?』『下着の社会心理学』などがある。

坂本 どの世代も健康的にきれいになりたいという思いがあるのですね。

菅原先生 SNSが普及した今、美の価値観にも大きな転換が起きていると思います。誰もが気軽に自分の姿をさまざまな角度から写真に撮って、客観視し、見栄えよく加工して、人に公開する。これまでになかった文化ですよね。多くの人の体型への意識は高まっていると思いますね。

坂本 ワコールには、ボディサイズを立体的に測定する3Dボディスキャナー「3D smart & try」というサービスがあるのですが、若い方のご来店も多く、自分の下着のサイズや合う下着を知るためだけでなく、自分のからだを客観的に知り、その結果を見てジムに行って、その後の変化を計測する方もいらっしゃいます。

  • 坂本晶子(さかもと・あきこ)
  • 坂本晶子(さかもと・あきこ) ワコール人間科学研究所主席研究員
    1990年ワコール入社以来、ベビーからジュニア・マタニティ・シニア世代まであらゆる世代の人体計測を担当。その後、製品開発課で「スタイルサイエンスシリーズ」の開発に従事。フィットネスウォーカーを誕生させた。姿勢美研究を経て、姿勢美を実現させるキャミソールやボトムス(着席美人)、美翼のブラ、重力に負けないバストケアブラなどなどの開発に携わる。

菅原先生 大学の授業で「3D smart & try」の新しい使い方というお題をワコールさんから頂いて、学生たちに独自の企画を立ててもらったのですが、説得力のあるおもしろい回答がたくさんありましたよ。たとえば、自分の採寸データーをもとに画面上にアバターをつくって、洋服を試着できるサービス。特にウェディングドレスの試着など、パートナーが待ちくたびれないように活用できるのではないかと(笑)。試着が大変なドレスもアバターなら何枚でも試せて時短になるのもポイントですね。

坂本 それはすごくいいですね! アバターなら横向きや後ろ姿もチェックできますし。自分を客観視できるツールは今後ますます発展しそうです。

「ワコール3D smart&try」のアバター画面。撮影/ワコールボディブック編集部 「3D smart&try」による計測後の画面。撮影/ワコールボディブック編集部

美しさを測るツールは静止画から動画へ

坂本 SNSの自撮りでも、今は動画を投稿するケースも多く見られます。昨年のアンケート調査では、現代の女性は、動作や所作の美しさに憧れていることがわかりました。ただ、動きとはサイズのように明確ではなくあいまいなものです。だからこそ私たちはそこに着目しました。これまで美しさのとらえ方は、メジャー寸法から二次元のプロポーション、三次元での立体的な指標へと移り変わってきましたが、次は静止から動きへ。動きの中にある美しさへの憧れ、つまり今の時代に求められる美を「美しい佇まい」と定義し、今はまだあいまいなこのテーマに答えをつくっていきたいと思っています。

菅原先生 動いている姿は、姿勢や歩き方、その人の佇まいや魅力がダイレクトに伝わってきます。SNS時代、動いている姿を見たり見られたりする機会が増え、美しさの多様性もますます可視化できるようになりました。もう昔のようにひとつの「固定された美しさ」を追い求めることは不可能でしょう。それよりも、ひとりひとりが今の年齢や自分のからだの特徴をどう活かしたら魅力が高まるのか、「今の自分から出発する美のあり方」を探したいという方向にシフトしつつあると思います。

逆に以前の感覚のまま、自分の年齢や個性を受け入れずに外見の美しさだけを追いかけている人は、理想とのギャップも感じやすく、生活全体への充実感も低くなるというデータもあります(「外見の若さに対する志向性が心理的健康に及ぼす影響 : 外見若さ志向と内面若さ志向」より)。

坂本 私たちも、年齢を重ねることによる体型の変化は誰にでも起こる、という事実をデータに基づいて発信してきました。その自然の流れを受け入れて生活を楽しむ人は、内面も充実し、行動力もあり、気持ちも若々しいです。このプロジェクトでも、「今の自分を活かす」「内面の充実感」など、多角的に美しさを考えていく必要があると感じています。

ひとりひとりにマッチングする美しさを

菅原先生 「美しい佇まい」の研究では、個人のからだの特徴を活かし、その人に無理なくフィットする美しさを “科学的な視点から”提案していきたいですね。体型だけでなく、どんな服や歩き方、姿勢がより美しく見えるのかといったサポートや、さらに進んで、場面と動作というテーマでも考えていきたいです。

たとえば美術館という空間、友達と居酒屋にいる空間など、シーンに合う生き生きとした佇まいとはどんなものなのか、科学的に分析できたら。これまでにない美しさへのアプローチになるでしょうね。

坂本 その人に合う美しさの“マッチング”ですね。

菅原先生 「なりたい自分」=「美しい佇まい」と定義すると、人によって「美しい佇まい」はまったく異なると言えます。動きや佇まいにおける理想像が人によって違うことは、私が実施した実験でもはっきりと出ました。実験では「あなたはどんな場面でどんな動きをしている自分が理想的か」という問いに対して、大きく3つの回答パターンが挙がりました。

それは、①「仕事など社会的な場面」、②「家族や友人と楽しむ場面」、③「ひとり時間を満喫する場面」です。その場面にいる自分の動作をイメージで表してもらうと、社会的な場面では「テキパキ、キビキビ」、安心できるコミュニティの中では「ウキウキ、ルンルン」、ひとり時間は「たおやかな、ゆったりと」などが出てきました。

ある程度パターン化できるとはいえ、人によって「美しい佇まい」のイメージはこれだけ違うんですよね。もちろん、ひとりがいくつもの理想の場面をもっているとは思いますが、その人の傾向と求める美しさを分析できれば、ある程度のガイドができ、理想の佇まいに近づく的確なアドバイスができるようになると思います。

坂本 動きから美しさを提案するのは、新しいコーチングですよね。

菅原先生 ちなみに坂本さんは、自分が生き生きとするのはどんな時ですか?

坂本 私は自然が好きなので、森や山など自然の中にいるときに心が落ち着きます。生物や植物などいろいろなものが調和している場所にいるのが好きです。先生はいかがですか?

菅原先生 美しいかどうかは別にして、大事にしたい瞬間としては「仕事終わりの1杯目のビールを飲むとき」(笑)。このとき心底おいしく飲む所作ができるのは、その前の仕事で成果や達成感を感じているからですし、飲んだ後の自由時間が保証されているから。このオンとオフの境界の時間に充実感を感じられるように生きることも、私のテーマです。

坂本 すごく共感できます。今日はありがとうございました。

菅原健介、坂本晶子

今後の「美しい佇まい」プロジェクトにご注目ください


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続々登場! 美のスペシャリストが実践する「美しい佇まい」 撮影/株式会社kai(左の写真/動画撮影)、合田慎二(右の写真)

山本邦子さん(アスレティックトレーナー)の記事はこちら


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取材・文/大庭典子
撮影/丸山涼子
デザイン/WATARIGRAPHIC

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