更年期の女性のからだと「脂質」の基礎知識

更年期世代の女性にとって「脂」とはどんな存在でしょうか。食生活で避けるべき「肉の脂身」や、ボディラインの崩れの原因となる「余計な脂肪」など、さまざまなイメージがあるでしょう。一方で、ホルモン分泌減少によるコレステロールの影響については、あまり知られていないかもしれません。そこで、「あゆみクリニック」の宮沢あゆみ先生に、「おとなのからだと脂質」について、３回にわたってじっくり教えていただきます。

女性の一生は、
エストロゲンが支配している

更年期の女性と脂質についての関係性をお伝えする前に、まずは女性のからだとホルモンについて、改めて解説しましょう。女性のからだは卵巣から分泌される２種類のホルモン、卵胞ホルモン（エストロゲン）と黄体ホルモン（プロゲステロン）によって支配されていて、このうち更年期症状と深い関係があるのはエストロゲンです。

エストロゲンは女性の健康を下支えし、からだを若々しく保つために働いているホルモンで、その作用はからだのすみずみに及んでいます。ただ、エストロゲンの分泌量は20～30代をピークに減り続けて、50歳のときにはピーク時の5分の1ほどになるといわれています。

エストロゲンは
疾患から女性を守る守護神

エストロゲンが減少すると何が起こるでしょうか。からだの水分保持力が落ちるため、肌の潤いがなくなり、シワやたるみが気になるようになります。髪のツヤが失われるほか、ドライアイやドライマウスに悩まされる人も増えるでしょう。加齢による影響もありますが、肩こりや腰痛がひどくなり、関節が痛くなる人も出てきます。

自律神経の乱れによる体温調節の不具合を感じる人も多くいますね。冷房の部屋でも汗が止まらなかったり、分断症状といって下半身は冷えているのに上半身だけ異常に熱かったりすることも。睡眠に関する悩みも増えるでしょう。寝つきが悪かったり、途中で起きてしまったり、熟睡できないと感じる人が多いようです。

ただ、エストロゲンの作用はそれだけではありません。ここで、最も大切な効用についてお伝えしましょう。それが「多くの疾患から女性のからだを守っている」ということなのです。そのため、エストロゲンが減少する更年期に入ると、さまざまな疾患にかかるリスクがグッと高まります。その代表的な疾患こそが「脂質異常症」「高血圧」「糖尿病」。なかでも「脂質異常症」に関わる「更年期の女性とコレステロール」について、解説していきましょう。

女性である限り
「脂質異常症」は避けられない！

ではまず、コレステロールとは何か、そこから説明しましょう。コレステロールとは、人間の体内に存在する脂質のひとつで、からだによい働きをする「HDL（善玉コレステロール）」と、悪い働きをする「LDL（悪玉コレステロール）」があります。さらに少し専門的な話をすると、「善玉コレステロール」は血管壁に溜まったコレステロールを運び去って排泄してくれる働きがあり、「悪玉コレステロール」はコレステロールを血管壁に沈着させてしまう働きがあるのです。

そしてそのコレステロールを調整しているのが、まさにエストロゲンです。興味深いことに、エストロゲンは「善玉コレステロール」の生産を促して、「悪玉コレステロール」の生産を抑制する働きをしています。では、更年期に入ってエストロゲンの分泌が低下すると、どうなるでしょうか。相対的に「善玉コレステロール」が低下し、「悪玉コレステロール」が上昇しやすくなってしまうのです。

血中に「悪玉コレステロール」が増加すると、血管壁が分厚くなります。その結果、血液が流れにくく、詰まりやすくなり、動脈硬化を引き起こす原因となります。それを放置すると、心臓なら「心筋梗塞」、脳なら「脳梗塞」といった命に関わる病気へとつながってしまうのです。

エストロゲンが減少する更年期の女性が、いかにコレステロールという「脂質」の影響を受け始めるかがおわかりいただけたでしょうか。とりわけ不摂生な生活をしていなくても、年齢を重ねるにつれ、「脂質異常症」になりやすいのが、女性という性。次回は、ならばどういう生活習慣を心がけるべきなのか、お伝えしていきます。