2024.01.24

【特集】笑顔の効力#02

心理学から解説<後編>自分も相手もハッピーにする笑顔とは?意識したい2つのポイント

心理学・中村 真先生

前編では、人間関係における笑顔の役割について学びました。後編では、笑顔がからだに与える影響について考えていきます。また、自分や相手をハッピーにする笑顔とは、どんな表情なのか。そんな笑顔をつくるためには何をしたらいいのか。具体的なトレーニング方法についてもお伝えします。

笑顔によって、
からだは「快」状態に

表情によって、脳に届く血液温度に変化があるという研究があります。なかでも笑顔は脳を冷却する作用があり、それによってからだは「快」を感じると言われています。ではなぜ表情によって、血液温度が変化するのでしょう。

顔面には両頬と眉間を流れる2つの大きな静脈がありますが、眉間の静脈を流れた血液は目の奥(海綿静脈洞)に一度溜まり、そこで脳に送り込まれる血液の温度を調整していると考えられています。わかりやすく言うと、この箇所には心臓から脳に送られる血液を冷却するラジエーターのような働きがあるのですが、この働きが表情筋の使い方によって変化しているのです。

実際に、空気を鼻に送り込む実験では、空気の温度が低いと快適さを感じ、温度が高いと不快感を持つという結果が出ています。風邪を引いて鼻が詰まっているとき私たちは不快感を感じますが、これは単に息苦しいだけではなく、脳に送られる血液が冷却できなくなることも不快感の一因とされています。鼻が通っていないとき、目の奥に熱が溜まっているような感覚がありませんか? このように、脳に送る血液の温度によって、私たちは快・不快を感じます。

笑顔のとき、頬の筋肉がきゅっと上がることで、目の奥に向かう静脈の血流は増え、鼻腔に取り込まれる空気の量が増えます。すると脳へ向かう血液は冷却され、私たちのからだは心地よさを感じます。一方、眉間にしわを寄せる怒りや悲しみといった表情は、静脈の血液の量を減らして、ラジエーターの熱交換の効率を低下させてしまいます。そのため脳へ向かう血液温度が高まり、私たちのからだは「不快」を感じると考えられています。

もちろん、笑顔になったからといって即刻からだが「気持ちいい」と感じるほど、強い変化ではありません。ですが、ゆるやかに感じる快・不快の感覚が、そのときの気分のベースをつくっているともいえます。

血液温度を表情によって変化させられるならば、私たちは自分のためにもっと表情に敏感になってもいいと思いませんか? スッキリとした頭で、からだをここちよい状態に保つためにも、笑顔でいることは有効でしょう。

自分も相手も
ハッピーになる笑顔とは

さて、自分も相手もハッピーな気持ちになる笑顔といったらどんな表情を思い浮かべますか? 大きな特徴はふたつあります。ひとつは、左右対称に近い表情で笑っていること。左右対称というと難しく感じますが、例えば片方の唇だけが上がっているとシュールな笑いに見えたり、バカにしたような笑いに見えてしまいます。口角が左右均等に上がり、顔全体が上に持ち上がるような表情が魅力的な笑顔です。

もうひとつは、口の周りの筋肉と目の周りの筋肉が同じタイミングで動くことです。口角上げるのと同時に、目を細めている状態です。「おはよう」や「さようなら」といった挨拶のときや愛想笑いを浮かべるときなど、形の上で笑顔をつくるときは、口角は上げても、目まで細めて笑う人はなかなかいませんよね。

もちろんそのような表情は否定するものではなく、社会的な笑顔としての役割を果たしています。ただし、自分と相手がハッピー感まで感じるかといえば、そこまでの影響力はありません。口角が上がり、同じタイミングで目も笑っている表情は、より自然な笑顔に見え、また自分も相手もハッピーな気持ちになるでしょう。

相手が笑っていると、自分も自然と楽しい気持ちになって笑い、相手が悲しい顔をしていると同じ表情を浮かべて悲しくなる…そんな経験は誰もがしたことがありますよね。一方が笑顔になると相手にそれが伝染し、結果として互いにここちよく、良い人間関係を築くことができます。

使わないと衰える笑顔筋

自分の笑顔をより魅力的にするために有効なのは、鏡で見て確認してみることです。先ほどお伝えした①左右対称の笑顔であること②口と目が同時に笑うことの2点に気をつけてみてください。

自分ではにっこり笑っているつもりが、こんなにぎこちなかったのかと思ったり、口角の上がり方が小さくて全然笑っているように見えない…など自分の笑顔を見てみると改めてさまざまな発見があるはずです。

筋肉は使わないと衰えるのは、からだだけでなく表情筋も同じです。最近あまり笑っていないなと感じる人は、人前に出たからといって急に上手に笑うことはできません。日ごろから鏡の前で自分の笑顔を客観的に見るトレーニングをしていれば、笑顔の力は衰えずに上達し、自分も周りもハッピーにする笑顔が手に入るでしょう。

――人間関係における役割やからだへのフォードバックなど笑顔の効力を知るほど、その反対の怒りの表情が与える影響についても考えさせられた<後編>。笑顔でいることで、ここまで良いことが自分に返ってくるならば、今日から鏡の前でコソ練をしてみるのもいいですね。

  • 中村 真(なかむら まこと)
  • 中村 真(なかむら まこと) 宇都宮大学 国際学部教授
    宇都宮大学国際学部助教授を経て現職。表情や感情、コミュニケーションの心理学についての研究を行う。著書、訳書に『人はなぜ笑うのか』(共著、講談社)、『笑顔のたくらみ』(ラ・フランス著、サイエンス社)など。
取材・文/大庭典子
デザイン/日比野まり子
イメージ写真・イラスト/stock.adobe.com