2024.01.17

【特集】笑顔の効力#01

心理学から解説<前編>「笑顔」は「心」を伝えるツール。気持ちは、常に外に出たがっている!

心理学・中村 真先生

場を和ませるために微笑んだり、話を盛り上げるために笑い声を上げたりと、社交的な笑顔が板についている大人世代。今回から前後編にわたって、改めて「笑顔」について考えていきます。人間関係において笑顔の役割とはなんでしょうか? 相手に与える影響や、その効果について、心理学の専門家である中村 真先生に教えてもらいます。

笑顔は、伝わりやすさナンバーワン。
相手は瞬時に「喜び」を理解する

思い切り笑った顔や怒った顔、悲しい顔…私たちは毎日の生活の中でさまざまな表情を浮かべます。では、いったい表情とはなんでしょう。改めて考えると、それは自分の内側の気持ちが外側に現れたものであり、相手に自分の情報を伝えるためのツールだといえます。言葉を使わずとも、今その人がどんな気持ちでいるのかを伝えることができる、あるいは「伝わってしまう」のが表情です。

どんな表情を相手に見せるのかによって、人間関係は大きく変わります。特に、笑顔は人間関係を良好に、コミュニケーションを円滑に運ぶために欠かせないものです。笑顔によって、対面する人へ喜びの感情を示したり、関係の良好さを表すことができます。

笑顔は、その伝わりやすさも特徴です。人には、基本感情と呼ばれる6つの感情(怒り、喜び、悲しみ、驚き、嫌悪、恐怖)がありますが、この中で表情から心理状態を最も早く伝えることができるのが笑顔だという実験結果もあるんですよ。笑顔を向けると、相手は瞬時にこちらの「喜び」の状態を察することができます。

さらに、笑顔は相手にも伝染します。ミラーニューロンという言葉を聞いたことがありますか? 相手の動きを見てまるで鏡のように模倣しようとする神経の働きのことで、結果的に、相手が感じていることを自分ごとのように感じることができると考えられます。

相手が笑っていると、自分も自然と楽しい気持ちになって笑い、相手が悲しい顔をしていると同じ表情を浮かべて悲しくなる…そんな経験は誰もがしたことがありますよね。一方が笑顔になると相手にそれが伝染し、結果として互いにここちよく、良い人間関係を築くことができます。

「笑顔」が教えてくれる、
自分の本当の気持ち

さて、表情は自分自身の気持ちを知るためにも不可欠な要素です。こう言うと、「自分の心がわかるのは当たり前でしょう」と思うかもしれません。ですが、私たちは表情から自分の気持ちを知ることもあるのです。

笑顔とひとことで言っても、大口を開けて笑っているときやほほえみを浮かべているときなど、楽しさや愛しさ、喜びや感動など感じていることやその度合いはさまざまです。私たちの気持ちの細やかな動きやグラデーションを、表情筋や骨格筋は正確に反映し、その繊細な動きの変化から私たちは自身のこころの移り変わりを感じ取っています。

とはいえ、表情は心の中がストレートに現れたものだけとは限りません。本当は楽しくないのに場を取り繕うために笑顔でいたりと、自分でつくり出すこともできます。

ただし本当の気持ちは、常に外に出たがっているもの。表面上の笑顔を貼り付けたところで、目が笑っていなかったり、眉間に皺が寄っていたりとどこかぎこちなく隠しきれない違和感が出ているはずです。

もしも、親しい人が無理して笑っていないか気になるときは、よくよく観察してみてくださいね。瞬間的に笑顔であっても、ふとした時に本当の気持ちは、表情に出てくるはずです。表情はときに言葉よりも雄弁にその人の気持ちを語ることがあります。

落ち込んだ時、
笑顔になることで起こる
心理的変化とは

逆に、笑顔から気持ちをつくることもできますよ。落ち込んでいるとき、思わず笑ってしまう動画を見たり、楽しい気分になれる友人と会ったりと、笑顔になる環境に身を置くことで、心の状態も上向きに変わってきます。ただし、無理して笑おうとすれば逆にストレスになるので注意してくださいね。

接客業など常に笑顔を求められる仕事をしていると、心からの笑顔でいられない日もあるでしょう。そんな時は、自分が笑いかけることで、相手も楽しい気持ちになってくれたらうれしい、と相手の立場になって振る舞うなど、「自分が望んで笑顔になる理由」を見つけることをおすすめします。

望まないことをさせられているとストレスを感じますが、自ら望んでやっていると考えればストレスも軽減します。すると、自分がラクになるだけでなく、素直な笑顔を向けられた相手も気持ちが上向きます。人間関係においてプラスのループを作る第一歩は、あなた自身から発する心からの笑顔だと言えます。

このように、笑顔にはさまざまなポジティブな反応がありますが、からだにとっても良いフィードバックがあります。後編で詳しくお伝えします。

  • 中村 真(なかむら まこと)
  • 中村 真(なかむら まこと) 宇都宮大学 国際学部教授
    宇都宮大学国際学部助教授を経て現職。表情や感情、コミュニケーションの心理学についての研究を行う。著書、訳書に『人はなぜ笑うのか』(共著、講談社)、『笑顔のたくらみ』(ラ・フランス著、サイエンス社)など。
取材・文/大庭典子
デザイン/日比野まり子
イメージ写真・イラスト/stock.adobe.com