2022.12.15

【特集】おとなの温活どうする? #05

眠りとお風呂の専門家・小林麻利子さん/睡眠時間から逆算して入浴をプランニング

眠りとお風呂の専門家 小林麻利子さん

――更年期を迎えた女性の多くが、「眠れない」という悩みを抱えています。そこで、からだをあたためて上質な眠りへと導く「入浴」に注目! おとな世代のための“温活入浴法”を教えていただきます。

眠りとお風呂の専門家 小林麻利子さん

STEP.1
お風呂に入る時間を逆算して決める

更年期世代特有のほてりも冷えも、そして睡眠の悩みも、「自律神経の乱れ」が原因といわれています。そこで、科学的エビデンスから導き出された、自律神経を整えて質のよい睡眠を手に入れる方法を具体的にお伝えしていきましょう。

良質な眠りのためには、就寝前に一時的に深部体温を上昇させたのち、急激に低下させることが大切です。さらに入浴による温熱刺激は、1日の中でも同じ時間帯がよいとされています。そこでまず、入浴時間を固定することから始めましょう。睡眠のための入浴ですから、まずは自分のベストな睡眠時間を把握し、そこから起床時間、就寝時間、入浴時間と逆算していきます。

ちなみに、ベストな睡眠時間は6.5~8時間未満ですが、おとな世代に必要な睡眠時間は若い世代よりも短くなります(個人差あり)。なので、たとえばベストな睡眠時間が7時間で、7時に起きる人は、24時が就寝時間の目安です。

お風呂から上がるのは、冬場なら就寝時間の30分~1時間前(夏場は1~2時間前)。さらに湯船には15分ほど浸かってください(湯温は約40℃)。これを基本として逆算すると、先ほどの人の場合は、22時40分ぐらいには浴室に入り、15分間ほど湯船に浸かり、23時ごろに上がる、というスケジュールになります。

まだ子どもが小さいなど、家族の事情がある場合は、「分浴」といってお風呂を2回に分けてもOK。ただ40℃の湯船に15分間浸かる時間は、1日の中でも固定させておくとよりいいでしょう。

さて、ようやくお風呂本番! と、いきたいところなのですが、湯船にお湯を張るだけでなく、あらかじめシャワーで浴室内をあたためて、ミストサウナ状態にしておくのも大切(湯船は40℃に固定したいので、バスタブのフタは閉めておく)。湯船に浸かった瞬間ではなく、浴室のドアを開けた瞬間に「ああ、気持ちいい~」と感じるのが理想なのです。

STEP.2
マインドフルネス入浴法を実践する

さあ、浴室に入ったら、まずは頭を洗いましょう。理由は、頭の血流をよくすることで、湯船に浸かったときに、短時間で温熱作用を得ることができるからです。あらかじめ血流をよくすることで、お風呂に浸かったあとの血圧の急上昇も防げます。

さらにここから、私の推奨する「マインドフルネス入浴法」を紹介します。湯船に入って脈拍が落ち着いてきたら、首のつけ根までしっかり湯船に浸かります。私はこれを「完全浴」と呼んでいます。こうすることで「温熱」「浮力」「抵抗」「水圧」という、入浴による効果効能をしっかり得ることができるのです。(*体調に合わせ、湯船に浸かる時間は無理のないようご自身で調整してください)

次は、後頭部を湯船の角のカーブにあずけるように固定させ、手を浮かせ、呼吸に集中してみましょう。息を吸うと肺に空気が入り、胸部が風船のように広がり、からだが浮いていきます。息を吐くと沈んでいくのがわかるでしょう。ただそのことに集中するのです。

マインドフルネスとは、過去や未来ではなく「今、ここ」に意識を集中すること。もちろん「あれをやらなきゃ」「これも終わってない」など、いろんな考えが頭をよぎることでしょう。大切なのはそれらを否定しないこと。「ああ、私はそう感じているな」と流して、また呼吸に意識を向ければいいのです。

忙しい現代人がどこでマインドフルネスを実践できるかといったら、誰もいない、衣服すら着ていないお風呂場が最適だと思いませんか? こうやって心を整えると、夜ぐっすりと眠れて、朝すっきりと起きられるのを実感しています。食事や運動は効果がわかるまでに時間がかかりますが、マインドフルネス入浴法は翌朝にすぐ効果を実感できるのも特徴。ぜひそのことを体感してもらいたいのです。

STEP.3
副交感神経優位の“うっとりタイム”へ

さて、お風呂から上がったら、良質な睡眠へと流れるように進んでいきましょう。まずおすすめは、すぐに天然アロマ成分の入ったボディオイルを塗布すること。保湿効果はもちろんですが、ここで嗅覚を刺激して、眠りスイッチをオンにするのです。

小林さんが監修したアロマボディオイル。「五感の中でも嗅覚は脳への刺激がいちばん早いと言われています」

すぐにドライヤーで髪を乾かすことも大切です。スムーズに眠るためには、脳の深部体温を下げることが必要になりますが、そのためには血流を拡張させて放熱させなければなりません。頭皮が濡れたままだと冷えにつながり、血管が収縮してしまうのです。風力の強いドライヤーで素早く乾かすことを心がけましょう。

パジャマ選びは肝心です。コットン使いなど、ここちよいと感じる肌ざわりで、ゆったりしたものがいいですね。照明に意識を向けるのも重要です。寝室の電気は基本的につけず、必要ならば間接照明にしましょう。ちなみに、先ほどのお風呂の時間も、浴室の電気は消して。脱衣所に出たら、脱衣所の電気も消します。睡眠ホルモンと呼ばれるメラトニンの分泌を邪魔しないようにしてください。

このあたりで、最初に設定した就寝時間まであと15分ぐらいでしょうか。では最後、この副交感神経マックスの“うっとりタイム”からスムーズに眠りに入るために、「これをやれば深く眠れる、3つの私的アプローチ」をご紹介しましょう。

まずは「ゆったりとした呼吸」。小林流「呼吸再調整法」といって、息を吐く際、実際に「リラーーーー(ゆっくり息を吐く)ックス(ここで息を吐ききる)」と唱える方法がおすすめです。さらに「アロマの香りに包まれること」。どの香りにするか迷った場合は、研究結果の多さで群を抜いているラベンダーを選んでみてはいかがでしょうか。そしてもうひとつは、ぜひご自身の好きなことを。ローラーでマッサージするのでも、ゆらぎのある音楽を聴くのでも、お守りになるような眠りスイッチを選んでみてください。

あとはもう誘われるままに、とろんと眠りにつくだけ。お風呂の温熱作用を利用して自律神経を整え、更年期症状の改善はもちろん、ここちよい睡眠を目指してください。

  • 小林 麻利子
  • 小林 麻利子(こばやし まりこ) 眠りとお風呂の専門家。公認心理師。SleepLIVE株式会社代表取締役。「美は自律神経を整えることから」を掲げ、科学的根拠のある最新データや研究を元に、睡眠に課題を抱える人へ睡眠や入浴をはじめとした、マンツーマン指導を行う。実践的な指導が人気を呼び、3000名以上もの悩みを解決。多くの書籍を出版し、テレビや雑誌などのメディアでも活躍中。睡眠研究所を立ち上げ、睡眠研究も行っており、講師育成等にも力を入れている。
    Instagram:@marikokobayashi.flura

【特集】おとなの温活どうする?(全5回)

取材・文/本庄真穂
撮影/丸山涼子
イメージ写真/shutterstock.com
ヘア・メイク/コンイルミ
デザイン/日比野まり子