• Wellness
  • 2023.03.15

生理はないほうが楽? からだにとって必要?

生理とスポーツの付き合い方<後編>

生理はないほうが楽? からだにとって必要?

前回は、生理中の運動や生理痛の対処法についてお聞きしました。今回は生理前の不調とその解決法、生理が止まったらからだにどのような影響があるかについて前回に引き続き、産婦人科医の高尾美穂先生に話を聞きました。

生理による体調の変化にはどう対処する?

Q 生理前にけがのリスクが高まると聞いたことがありますが、本当でしょうか。

A 人によりますね。生理前に、リラキシンというホルモンが分泌されることで関節がゆるみ、それによって内反捻挫を起こしやすくなる人が一定数います。しかし、人によってリラキシンが分泌されない人がいますし、リラキシンが分泌されてもレセプター(受容体)がなければリラキシンがはたらきません。リラキシンの分泌やレセプターの有無を医療機関で調べることは難しいので、ヨガやストレッチのときに「生理前はからだの関節がゆるむようだ」と自覚するのであれば、テーピングやサポートタイツで関節を保護したり、ウォーミングアップを丁寧にするなどが対策となります

Q 生理の周期とパフォーマンスには関係がありますか?

A アスリートを対象としたアンケートによると、体調やメンタルを含め、調子が良いのは「生理が終わったあと」と答えた人が約7割。反対に、約4割弱が「生理前」「生理中」が「調子が悪い」と答えています。一方、1割弱は、調子の良し悪しと生理周期は関係ないと答えています。

生理による体調の変化にはどう対処する?

生理による不調は、パフォーマンスにも影響をおよぼします。その理由は、1つは、生理痛、もう1つは「出血」による不快感や不安、そしてもう1つが、生理前のPMS(月経前症候群)です。

PMSは、生理前の約10日間に生じる、イライラや記憶力・集中力の低下、不安、強い眠気、不眠、便秘、下痢、頭痛、吐き気などです。イライラや集中力の低下によってミスをする、気力が落ちるなどは十分に考えられます。

また生理前は、筋肉量・脂肪量は変わらないのに体内の水分量が増え、からだが重くなります。実際に測ってみると、生理前と生理後では、生理前が1.9キロも重くなっている人がいました。生理前や生理中にパフォーマンスが落ちる人は、体重の増加によって軽快に動けない、走れないということにも一因があるかもしれません。

生理前のイライラはどう解決するのがベター?

Q PMSはどうして起こるのですか?

A PMSのメカニズムは解明されていませんが、エストロゲンプロゲステロンという女性ホルモンの分泌量が変動することによって起こると考えられています。ざっくり言えばエストロゲンには抗うつ作用があり、プロゲステロンには抗不安作用がありますが、生理前にはこの2つの分泌量が減るために、メンタルが不安定になる可能性は高いです。また生理前には、幸せホルモンとよばれるセロトニンの分泌も減少するため、幸せを感じにくくなるんです

Q だから生理前にイライラしたり、気分が落ち込んだりするのですね。PMSの影響を最小限にする方法はありますか?

A 一番は、「自分は今、生理前だ」と自覚すること。イライラの原因が生理だと知ることで冷静になれるからです。そのためにも自分の生理周期を把握することはとても大事ですね。

次に、生理前に大事な予定(たとえば試合やプレゼン、結婚式など)を入れないことです。そしてもう1つは、「生理日を移動する」こと。低用量ピルは、普通は21日間飲み続け、飲むのをやめると2-3日後に生理がくるようになっています。飲みはじめと飲み終わりの日にちを調節することで、生理日をずらすことができるのです。大事なイベントの時だけ一時的に使用することもできますが、継続的に使用することで、PMSも軽くなりますし、生理痛も軽くなります。先ほど述べた関節のゆるみも、ピルの使用によってほとんどなくなります。何より、いつ出血が起こるかを自分でコントロールできることは大きな安心感につながります

Q 低用量ピルでPMSや生理痛が軽くなるのはどうしてですか?

A 低用量ピルとは、エストロゲンとプロゲステロンを一定の割合で配合したものです。錠剤としてエストロゲン、プロゲステロンを服用することで、これらが体内で分泌されなくなります。PMSは、エストロゲンとプロゲステロンの分泌量が変動することによって起こるのでしたよね。変動がなくなるから、PMSも起こらないと考えれば分かりやすいかと思います

生理前のイライラはどう解決するのがベター?

生理とは、エストロゲンとプロゲステロンのはたらきによって厚くふかふかになった子宮内膜がはがれて腟の外に血液とともに出ていくことですが、低用量ピルによって子宮内膜の厚みを抑えられるため、経血量が減ります。また、子宮の強い収縮も抑えられるので、痛みも軽くなります。

生理が止まるとなにがいけないの?

Q マラソンや新体操、階級制の競技など、体重管理が厳しいスポーツでは生理が止まってしまう人もいると聞きます。生理がないのは楽なようにも思いますが、からだには良くないことでしょうか。

A 生理がくるとはどういう状況かをまずおさらいしましょう。

卵巣でエストロゲン(卵胞ホルモン)がつくられ、エストロゲンによって卵巣の中で卵子のもととなる卵胞が成長します。卵胞が十分に育つと排卵が起こります。排卵は妊娠のチャンスで、このときに受精すると妊娠します。

一方、子宮内膜はエストロゲンとプロゲステロンのはたらきで、厚くふかふかなベッドのようになって受精卵を待ちます。が、妊娠しないと子宮内膜は不要となり、子宮からはがれおちて血液とともに腟から外に排出されます。これが生理です。すごくシンプルに言うと、「排卵したけれど妊娠しなかったら生理がくる」ということになります。
生理がきたということは、卵巣がちゃんとはたらいてエストロゲンをつくっているというサインなのです

エストロゲンは妊娠・出産に関わるだけでなく、骨量を維持し骨を強く保つはたらきがあります。「生理がこない」ということは、エストロゲンができず、骨を強く保つことができてないというサインでもあるのです

生理が止まるとなにがいけないの?

ホルモンは50種類以上ありますが、自分で自分のことを「不足しているよ」と警告してくれるホルモンは、エストロゲンのほかにありません。この警告をしっかり受けとめて、婦人科に診てもらうなどきちんと対処することは非常に重要です。

体重を落として生理がこなくなった場合は、生理があった時期の体重までもどすか、BMI(肥満度を表す体格指数。[体重(kg)]÷[身長(m)の2乗]で算出する)を18.5までもどすことが一つの目安となります。

人の一生の中で、骨量のピークは10代から20代前半といわれています。あとから挽回することはできず、その先は減る一方です。若い年代に減量をして活躍していた選手が、20代後半によく骨折をするようになるのはこういうわけなのです。閉経によってエストロゲンが分泌されなくなると、骨量はさらに減り、骨粗しょう症のリスクが高まります。若いうちからしっかりからだを作っておくことが大切なのです

女性にとって生理は身近なことですが、案外知らないことも多いのでは? 生理中の不快感や痛みは、医療で解決できることも多いです。一人で悩まず、まずは婦人科に相談してみましょう。

  • 高尾美穂(たかお・みほ)
  • 高尾美穂(たかお・みほ) 産婦人科医・医学博士・スポーツドクター
    女性のための統合ヘルスクリニック「イーク表参道」副院長。
    文部科学省・国立スポーツ科学センター 女性アスリート育成・支援プロジェクトメンバー。長年ヨガを愛好し多くのヨガインストラクターを指導。
    YouTube「高尾美穂からのリアルボイス」では毎日、女性のお悩みに答え、楽に生きられる考え方を配信している。
    高尾美穂オフィシャルサイト
取材・文/石井栄子
イラスト/naohiga
構成/梅原加奈
デザイン/WATARIGRAPHIC