ホルモンと睡眠の関係

特集/眠りの真実

先生/遠藤拓郎(東京睡眠医学センター センター長)

----たっぷり寝たはずなのに、日中眠い。その原因は女性ホルモンにある、と遠藤先生は言います。言われてみると、生理前は常に眠気と戦っているような...。女性ホルモンの分泌をコントロールすることはできないけれど、意識すれば日中の眠気を軽減させることは可能なのです。 ホルモンと睡眠の関係

基礎体温が上がる生理前は
睡眠の質が低下しやすい

女性ホルモンには、エストロゲン(卵胞ホルモン)とプロゲステロン(黄体ホルモン)があります。排卵後の黄体期になるとプロゲステロンがたくさん分泌され、基礎体温が0.5〜1度上がります。私たちのからだは体温が急激に下がるときに眠くなるため、体温が上がりっぱなしになる黄体期は、睡眠の質が低下しやすいのです。生理になると基礎体温は低温期に入り、眠気のもととなる女性ホルモンの分泌が減少。睡眠の質も上がりますから、生理が終わるころには、心もからだもスッキリしているというわけです。

ところが、毎月生理がくるにもかかわらず、女性は睡眠をあまり意識していないようです。まずは、手帳に生理周期を書き込む。そして、睡眠の質が低下する生理前はいつもより睡眠時間を増やすだけでなく、積極的に睡眠の質を高めましょう。前回お伝えした生活習慣の工夫の中に、ぬるめのお風呂に長くつかるという項目がありましたが、入浴後すぐに布団に入ることがポイントです。夜は日中より体温が上がりますが、お風呂に入ってさらに上げると、体温を下げる機能が急速に働き、ぐっすり眠れます。お風呂上がりにのんびりテレビを観たりしていると、布団に入る前に体温が下がってしまいますよね。一度体温が下がると、もう一度上げてから下げなければいけないので、寝つきが悪くなるのです。

朝日を浴びるだけで
眠気がスッキリ

いつもより長く寝ても、朝起きるとまだ眠いという人が大半で、スッキリ起きられる人はなかなかいません。メラトニンというホルモン物質が脳から分泌されると眠くなり、なくなると目が覚めるのですが、メラトニンは夜9時から朝9時くらいまで分泌されているため、9時前に起きれば当然まだ眠いわけです。でも、メラトニンは朝の光に弱いということを知っていれば、簡単にメラトニンの濃度を下げることができます。ぜひ、朝日を浴びながら朝食をとる習慣を身につけてください。

慢性的な日中の眠気と、突然激しい眠気に襲われるナルコレプシー(過眠症)の見極め方は? というと、ナルコレプシーには脱力発作という特徴的な症状があります。突然ワッと脅かされたとき、全身の力が抜けて床に崩れ落ちてしまったら専門医を受診しましょう。

----朝の光には、メラトニンの濃度を下げるだけでなく、交感神経をリラックスモードから活動モードへと切り替えてくれる働きもあります。カーテンを開けたらすぐに顔を洗うのではなく、朝日を浴びる。たったこれだけのことで脳はスッキリするのですから、実践しないなんてもったいないですね。
遠藤拓郎

遠藤拓郎 東京睡眠医学センター センター長。スリープクリニック調布 院長。日本睡眠学会認定医。慶應義塾大学医学部 睡眠医学研究寄附講座 特任教授。祖父の代から三代で睡眠研究を続ける睡眠医療の専門家。睡眠にまつわる本の執筆のほか、快眠CDの監修、入眠サポートマットの開発協力も行う。

取材・文/山崎潤子(ライター)
イラスト/はまだなぎさ