婦人病の原因にも?現代女性の月経回数増

特集/変化するホルモンとともに

先生/吉野一枝(「よしの女性診療所」院長)

----高齢出産や出産しない人などが増えている現代人のなかには、PMSなど月経のトラブルを抱えている人も多くいます。月経トラブルや婦人病、不妊症など現代の女性が抱える問題は多くありますが、その一因に月経回数もあるとのこと。月経について、またそういった婦人科系の情報を正しく集める心得について、「よしの女性診療所」の吉野一枝先生に詳しく教えてもらいます。 月経回数が増加している現代女性。その影響とは?

昔の日本には、50代で自然妊娠する女性が3000人超も!

女性のからだは25日〜38日くらいを1サイクルとして、卵胞から卵子が飛び出す排卵を終えると、受精卵に備えて子宮内膜を厚くし、妊娠しなければ不要な内膜が出血を伴ってはがれ落ち、体外へ排出(月経)、を繰り返しています。最近では、高齢出産の人や出産を経験しない人、出産回数の少ない人が増え、昔に比べ月経の回数が多くなりました。

月経の回数が多いということは、子宮が休む間もなく働いているということ。毎月生理が起こり続けることは子宮への負担にもなり、子宮内膜症や子宮筋腫など婦人病や不妊症などの原因となることもあります。1サイクルで体温が二層に分かれ、月経が毎回起こることが女性の健康の証と思われていますが、月経は確かに健康のバロメーターである一面はあるものの、月経が毎月あることによって起こる問題もあるのです。

その昔、子どもを10人近く産む人も珍しくない時代が日本にもありました。大正の終わりころの文献には、50代でも妊娠・出産した人の記録が3000件近く残っています。50歳で自分の卵子で自然妊娠するとは驚きの事実ですが、多くの子どもを産めば、その分生理期間が少なく、質のいい卵子が高齢になっても残っていたからでしょう。

正しい情報を得るノウハウが、自分の身を助ける

避妊効果のあるピルは、不要な排卵を抑え子宮の負担を軽減する役割もあるため、海外では広く浸透しています。なかには少子化対策の一環で、ティーンエイジャーには無料でピルを配る政策を行う国もあるほど。ですが、日本ではピルに対してマイナスの印象が強くあり、使用している人はまだまだ多くありません。

特に1999年以前の中用量ピルなどを飲んだ経験のある方は、その際の悪いイメージもあるのかもしれません。当時のピルは含まれているホルモン量も多く、吐き気やむくみなどの症状を起こしました。今は当時の半分以下の量のものもありますし、ピルの服用が子宮体がんや卵巣がん発症のリスクを下げることもわかっています。

ピルに関しては、間違った情報を鵜呑みにする人も絶えません。たとえば、ピルには卵胞ホルモンであるエストロゲンが含まれていますから、エストロゲンによって増殖する乳がんを患っている方は使用することができません。「乳がん患者はピルを使うことができない」。そのことがいつの間にか、順番が入れ替わりインターネットなどでは「ピルを使うと乳がんになる」という間違った情報となり発信されています。その結果、ピルは怖いものだとタブー視する人がまた増えてしまうのです。

日本医師会や日本産婦人科学会、厚生労働省もピルの情報を発信していますが、いいかげんなサイトに書かれたことのほうが多くの人の目に触れ、話題になってしまうのは非常に残念なこと。ピルに限らず、こういった情報に対するリテラシーの低さは問題だと感じます。特に性に関する事や婦人科系の話は、日本ではオープンに語られないので、なおさら情報の取り方には気をつけてもらいたいですね。

----大正時代の女性は50代でも自然妊娠していたとは驚きですね。そこには排卵月経回数の少なさがあったとのこと、生理がからだにどれほどの負担になっているのか、改めて認識し、そのうえで自分のからだのために何ができるのか考え直す必要がありそうです。
吉野一枝

吉野一枝 「よしの女性診療所」院長、産婦人科医・臨床心理士
高校卒業後、CM制作の会社勤務を経て、29歳の時、医学部受験を志す。32歳で帝京大学医学部へ合格。卒業後は東京大学医学部産科婦人科学教室に入局。 母子愛育会愛育病院、長野赤十字病院等に勤務後、2003年によしの女性診療所を東京都中野区に開院。『40歳からの女性のからだと気持ちの不安をなくす本 』(永岡書店)『母と娘のホルモンLesson』(メディカルトリビューン)など著書多数。

取材・文/大庭典子
イラスト/はまだなぎさ