• Wellness
  • 2023.02.15

入浴がもたらす、からだや美容にいいこと

バスタイムは美養のゴールデンタイム<前編>

入浴がもたらす、からだや美容にいいこと

ここ数年、おうち時間が増えたこともあり、入浴の時間も長くなったと言われます。髪やからだを洗うだけのシャワー浴から、ゆったりと湯船につかるようになった人も多いでしょう。そもそも日本古来の入浴習慣は、からだをあたためる以上にたくさんの恩恵をもたらしてくれる美養習慣だったのです。その恩恵と正しい入浴メソッドについて、前編・後編の2回にわたってお届けします。

<前編>では、入浴がもたらす数々のメリットについて、お風呂研究の第一人者としても知られる日本薬科大学 特任教授の石川泰弘さんに教えていただきました。

シャワーと入浴の違いは、浮力・温熱・水圧にあり

シャワーと入浴の違いは、浮力・温熱・水圧にあり

「お湯につかる入浴には、シャワーでは得られない効果がたくさんあるんです」。そう語るのは、お風呂研究の第一人者である石川さん。特筆すべき効果は三つ。「一つは、お湯に全身を預けることで得られる浮力。水の中では体重が約10分の1になるといわれ、関節にかかる負荷がグッと軽くなり、リラックス効果がアップします。二つ目は、じんわりあたたまることで血管が拡張して血流がよくなる温熱効果。血管壁や筋肉もやわらかくほぐれ、疲労回復効果が高まります。そして三つ目は、水圧効果。湯船の中ではからだの表面に水圧がかかる静水圧作用が起こり、ウエストあたりで1cmほどひきしまっているんです。水圧によって緩やかなマッサージのような作用がはたらき、血流量が増え、むくみの解消にもつながります

基本的に、これらはお湯に肩までつかることで得られる効果なのだそう。「湯船にしっかりからだを沈めると、横隔膜が押し上げられて呼吸や心拍数が増え、血流がアップします。心疾患や高血圧症などの持病がある人や高齢者には負担になることもあるので、その場合はお湯の量を減らした半身浴がおすすめです」

筋肉まであたためられるから疲労回復や血液循環もアップ!

入浴することで最も体感しやすいメリットは、からだがポカポカする温熱効果。「湯温40℃で15分つかると、体温が約1℃上がるというデータがあります。わずか1℃体温が上がるだけで、血液循環もスムーズになり、血液によって運ばれる栄養分やホルモン、免疫細胞や酸素などがからだのすみずみまで届きやすくなるなど、多くのメリットが得られます。つまり、健康的な巡りを引き出すことができるわけです」(石川さん)

入浴で体温が上昇するのは、表皮の近くに張り巡らされた血管があたたまり、あたたまった血液が全身を何周も巡った結果だといいます。「心臓から送り出された血液は、1分ほどで全身を一周します。15分で体温が1℃上がったということは、その間に血液が全身を15周ほどしたことになる。ちなみに、同じ時間シャワーを浴び続けても、体温は半分程度しか上がらないので、お湯につかった方が効率よく体温を上げられるし、血液循環もよくなります」

お湯に接している皮ふ表面だけなら5〜6分ほどの入浴であたたまるそうですが、そこで湯船から出てしまったら効果は半減。「より深部の筋肉層ではゆっくりじわじわと筋温が上がり続け、約12〜15分ほどかけてようやくピークに達します。筋肉は熱によって緊張が緩むので、じっくりお湯につかってしっかりあたたまるほど疲労回復効果もアップ。立ち仕事や運動などによる筋肉疲労がある場合でも、15分ほどの入浴で血行が促進され、回復しやすいコンディションにととのうと思います」

ちなみに、汗をたっぷりかくサウナは水圧がかからないため、血液を循環させる力は入浴より弱い。「汗は熱くなったからだを適温に戻すためにかくものなので、サウナルーム内の熱によってあたたまった体表面の温度を汗を出してコントロールしている状態。汗をかいてスッキリするという意味ではリフレッシュ効果はありますが、運動後の筋肉疲れを回復したいという人にはあまりおすすめできません」

風邪のひき始めや冷え、花粉症対策にもなる入浴で健康促進

風邪のひき始めや冷え、花粉症対策にもなる入浴で健康促進

全身の巡りをスムーズにする入浴には、ちょっとした体調の乱れをととのえる効果もあるんです」と石川さん。「例えば、なんだか悪寒がして、風邪のひき始めかな……というとき。入浴していいものか迷う人も多いかもしれませんが、頭痛や熱がないのであれば、水分を十分とって『40℃前後の湯温で15分間』お風呂に入ってください。体温が上がることで血中の免疫細胞=マクロファージが活性化するので、免疫力の強化が期待できます。血液は栄養も運んでいるので、巡りがよくなることで傷んだ細胞も回復しやすくなります」

また、花粉やさまざまなウイルス対策にも入浴は効果的。「通常、花粉や細菌などが呼吸によって取り込まれると、鼻やのどの粘膜が絡め取って排出されるのですが、粘膜が乾きがちな冬場などはうまく排出できずに侵入を許してしまうことも。そんな乾いた粘膜も入浴時に湯気を吸い込むことで潤い、本来の機能を果たしやすくなるので、アレルギーや病気に罹患しにくい健やかなコンディションづくりに役立ちます

さらに、女性に多い末端冷え対策には、入浴プラスアルファのこんなエクササイズを。「湯船の中で軽い末端運動をしてみてください。手足の指をギュッとすぼめ、パッとひらく『グー・パー』運動や、足の指の股にある『八風』のツボを押すのも、冷えの解消に効果的です。湯上がりの温熱効果も続きやすくなるので、ぜひ試してみてください」

オン/オフの切り替えになる入浴は、質のいい睡眠へのプロローグ

オン/オフの切り替えになる入浴は、質のいい睡眠へのプロローグ

石川さんいわく、「入浴は、オン/オフのモードの切り替えスイッチとしても優秀」なのだそう。「仕事モードに切り替えたい朝なら、熱めの湯温で短時間入浴を。熱めのお湯につかってシャキッとすることで交感神経が優位になり、心身ともにやる気スイッチが入ります」

一方、夜の入浴は、リラックスしてここちよく眠りにつくためのプロローグ的役割に。「入浴後1時間くらいで少しずつ体温が下がって入眠しやすくなるので、ベッドに入る時間から逆算して1時間前くらいにお風呂からあがっているようにするといいですね。体温のリズムがととのい、寝つきがよくなります」

女性の場合、黄体後期に基礎体温が上がって眠れなくなったり、イライラすることもありますが……。「そんなケースでも、入浴後に緩やかに体温が下がっていく入浴の特性やリラックス効果で、眠りやすくなるはずです。ぬるめの温度設定にすれば心やからだが穏やかに落ち着いて、PMSなど女性特有の不調の緩和にも役立ちます

日中の緊張感がなかなか抜けないという人には、簡単にリラックス効果を高めるとっておきの方法を。「お湯の中でゆっくりと腹式呼吸を7〜8回繰り返しましょう。この呼吸法だけでも副交感神経が有意になるので、ぜひ入浴時の習慣に」

入浴の消費エネルギーは少なめ。でも、美容的メリットは多い

かつては、入浴によるダイエット効果が期待されたこともありましたが……。「最も効率のよい『40℃で15分間』の入浴法でも消費カロリーはわずかで、体重50kgの人が15分間お湯につかって20kcalほど。残念ながら、入浴だけでダイエットができるほどのエネルギーは消費されません。ただ、一時的とはいえ血管や関節がやわらかくなったり巡りもよくなることを考えると、入浴を日々の習慣にできれば代謝のいいからだにはなっていくはずです」

全身の血液循環がよくなることで、美容面では多くのメリットが。「毛細血管が多い頭皮にも栄養がいきわたるようになるので髪が美しくなったり、老廃物が流れやすくなったり。一時的にではありますが、お湯につかることで肌表面の角層が水分を含んで肌がみずみずしくふっくらします。湯上りの肌がきれいに見えるのはそのためです」

「また、お湯は皮脂を溶かしやすくするので、毛穴に詰まった皮脂汚れなどを取り除きやすくなります。じんわり汗をかいてから、からだを洗ったりクレンジングをしたりするとなおよし。ただし、熱めのお湯は必要な皮脂まで溶かしてしまうので要注意。長湯をするほど皮脂が流れてしまうため、入浴後に乾燥がひどくなることも。入浴後に乳液やクリームなど脂分が含まれるアイテムで保湿ケアをすることも、美肌を保つためには大切です」

<後編>では、さらにバスタイムを有意義なものにするメソッドを、お風呂研究の第一人者である石川泰弘さんに引き続き教えていただきます。2月22日(水)公開予定の「入浴をより充実させる4つのポイント」もお見逃しなく!

  • 石川泰弘(いしかわ・やすひろ)
  • 石川泰弘(いしかわ・やすひろ) 日本薬科大学 特任教授、スポーツ健康科学博士。大手企業勤務時よりテレビや雑誌などのメディアを通じて入浴剤のメリットを啓蒙し、大ヒットシリーズを量産。温泉や入浴、睡眠に関する著書も多く出版し、全国で講演を行うかたわら、ラグビー日本代表チームをはじめ多くのトップアスリートに入浴や睡眠を取り入れたリカバリー法を指導。2022年より文部科学大臣認定 職業実践力育成プログラム漢方アロマコースの運営委員長に就任。
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取材・文/田中あか音
イラスト/Akira Ayumi
構成/江尻千穂
デザイン/WATARIGRAPHIC