2023.07.13

【特集】今こそ摂りたいタンパク質!#01

栄養学博士に聞く/タンパク質はおとなの「からだ」「こころ」をつくる最終兵器

女子栄養大学教授 上西一弘先生

以前と同じように生活しているのに、ふと気がつけば体重が増えたり、疲れやすくなったり、不調が続いたり…。おとな世代ならではの、そんなお悩みの原因は、「タンパク質不足」かも? からだはもちろん、メンタルの健康にも大きく関わってくる「タンパク質」について、女子栄養大学の上西先生にうかがいました。

プロテイン=マッチョ、だけじゃない
タンパク質は栄養の基本

「タンパク質(プロテイン)」=「筋肉をつくるもの」。ほとんどの人がそういうイメージを抱いているのではないでしょうか。たいていは筋トレやフィットネスとセットで語られるため、「プロテイン」=「スポーツをする人のためのもの」と思っている人も多いと思います。

タンパク質は、確かに筋肉の原料です。筋肉だけでなく、皮膚や髪の毛、爪も、タンパク質によってつくられています。しかし、こうした「からだを形づくる」ことは、実はタンパク質の役割のほんの一部。

タンパク質の主な役割

からだの機能を調整する「ホルモン」、消化などをコントロールする「酵素」、ウイルスなどからからだを守る「抗体」も、タンパク質でできています。さらには、心を落ち着かせるセロトニン、幸せな気分にさせるドーパミン、驚きや興奮を感じさせるノルアドレナリンといった脳内の物質も、タンパク質を主な材料にしているのです。

タンパク質は、からだだけでなく、心もつくる。人間が生きるために必要な、ほぼすべての機能に必要な栄養素というわけですね。

もしや栄養失調気味?
現代人のタンパク質不足

ところが、これほど大切なタンパク質が、現代日本では不足しがちなのです。

厚生労働省の調査によると、現在の日本人の1日平均のタンパク質摂取量は、戦後間もない1950年代と同水準。ダイエットや食事制限、中高年のメタボ予防などで肉類を避けたり、食事の量を減らしている人が多いためだといわれています。

日本人の1日あたりのタンパク質摂取量の推移(総量)

タンパク質が不足すると、どうなるか。ひと言で表現すると、「やつれて」いきます。いわゆる栄養失調の始まりのように、全体的に活力がなくなる。肌のハリを生み出すコラーゲンも、髪や爪の構造を支えるケラチンも、血液の中で酸素を全身に運ぶヘモグロビンも、すべてタンパク質ですから、その原料が足りなくなれば、「肌の調子が悪い」「髪の毛が抜けやすい」「顔色がくすむ」など、見た目も「やつれた」印象になってしまいます。

免疫に関係する物質もつくられなくなりますから、「風邪などの感染症にかかりやすい」「かかったあとも長引き、なかなか治らない」ということにもつながります。

体質の変化から始まる
負のスパイラルに注意!

おとな世代の女性に特に気をつけていただきたいのは、コレステロール値の上昇や体脂肪の増加といった、更年期特有の変化を気にするあまりの、“やみくもな”食事制限です。「動物性の食品や乳製品などを控えたほうがいいのでは…」と考えてしまいがちですが、そうするとやはり、タンパク質の摂取量は減ってしまいます。

タンパク質が不足すると、前述したように活力が落ちてきます。疲れやすくなって、動くのも億劫になる。そうすると筋肉量も減って、基礎代謝が下がり、太りやすくなって、ますます動くのが億劫に…。こうした負のスパイラルに陥ってしまう前に、しっかりとタンパク質を摂っていただきたいと思います。

肉、魚、乳製品、大豆…
まんべんなく食べることが大切

では、十分なタンパク質を摂るには、どうしたらいいか。それはやはり、「3食バランスよく食べる」ということに尽きます

1日に必要なタンパク質量の目安は、アスリートなどハードな運動をしている人や、吸収能力が落ちている高齢者をのぞけば、どの年代でも「体重1kgにつき1.0g程度」です。体重60kgの人なら1日に60gということになります。

タンパク質の必要量

この量を、できれば「3食に分けて」摂ります。というのも、タンパク質は摂りだめができないからです。1回の食事で1日の摂取量の1/3を摂り、これを朝・昼・晩と3回繰り返すのが理想です

注意したいのは、タンパク質と一緒に摂ることになるほかの栄養素についても考えること。肉でいえば、「肉100g」=「タンパク質100g」ではありません。肉の種類や部位によって脂質などの量も変わります。タンパク質を摂るために肉ばかり食べた結果、体脂肪増に…では、意味がありません。

とはいえ、食事の度に細かくタンパク質量を計算するのは大変でしょうから、まずは、鶏肉・豚肉・牛肉、魚、卵、牛乳・乳製品、大豆・大豆製品が、毎食、まんべんなく食卓に並んでいるかを意識するだけでも十分です。特定の食品に偏ることなく、できるだけ多様な食材を摂ることを心がけましょう。

―――タンパク質の重要性を改めて見直すよい機会になりました。次回#02では、タンパク質の摂り方について、より具体的に教えていただきます。

  • 上西 一弘(うえにし かずひろ)
  • 上西 一弘(うえにし かずひろ) 徳島大学医学部栄養学科卒業。徳島大学大学院栄養学研究科 修士課程修了。1991年より女子栄養大学に勤務し、2006年栄養学部教授に就任。スポーツ栄養学の観点から、選手のパフォーマンスを上げ、勝てる身体づくりを科学的に研究している。『新しいタンパク質の教科書 健康な心と体をつくる栄養の基本』(池田書店)、『痩せる!リバウンドしない!たんぱく質量ハンドブック』『新ダイエットごはん:たんぱく質で痩せる&リバウンドSTOP!!』(ともに日本文芸社)などを監修。
取材・文/剣持亜弥
デザイン/日比野まり子
イメージイラスト/shutterstock.com