今月のコトバ「愛(LOVE)」

今月のコトバ「愛(LOVE)」

愛はからだとこころでできている

このコラムでは過去に「愛着」や「ご自愛ください」を扱ったが、今回のテーマはストレートに「愛(LOVE)」。辞書を引けば、家族愛、恋愛、ものごとへの愛、人類愛、神の愛など、さまざまな愛があることがわかる。答えにたどり着けないばかりか、逆に「愛って何?」と考え込んでしまうことにもなりかねないだろう。

だが、愛というコトバは広く愛されている。赤ちゃんの命名に使われる漢字としても人気があり、読み方のバリエーションも多い。たとえば「愛美」という名前の読みは、まなみ、あいみ、めぐみ、あみ、えみ、なるみ、よしみ……まだまだある。訓読みも変化に富んでいるので、こちらはクイズにしてみたい。あなたは、以下の①から⑤の読み方がわかるでしょうか? ④は超難問で、⑤は4通りの読み方が可能です。答えは最後に!

①愛する ②愛でる ③愛おしい ④愛い ⑤愛しむ

さらに、愛という字は書くのもむずかしい。よく見ると「爫(つめがしら)」「冖(わかんむり)」「心(こころ)」「夂(なつあし)」の4つのパーツからできている。「鋭い爪から身を守るために心にふたをして足で踏ん張る人」を表しているのでは? と仮説を立てたが違っていた。「愛」の古字は「㤅」なので、「旡」「心」「夂」の3つのパーツからできているというのが定説らしい。意味は諸説あるが、一説には「人がゆっくり歩きながら後ろを振り返ろうとする心情」を表しているのだとか。

まあとにかく、愛が「からだ」と「こころ」から成り立ち、全体で「人のすがた」を表していることは確かなようだ。

2月と3月は愛の季節?

日本漢字能力検定協会が、その年の世相を表す漢字を全国から募集し、1995年から年末に発表している「今年の漢字®」というのがある。「愛」は2005年に1度だけ1位に輝いたことがあり、「初めての心あたたまる漢字!」と話題になった。ちなみに最近5年間(2020〜2024年)は、「密」→「金」→「戦」→「税」→「金」。心あたたまる漢字はなかなか選ばれないのである。2025年は、20年ぶりに「愛」が復活してほしいものだ。

今からそんなことを考えてしまうのは、2月と3月が「愛の季節」だからかもしれない。これはもちろんバレンタインデーとホワイトデーがあるからだが、自らの現実を直視すると、愛よりも食欲の季節に成り下がっていることに気づく。しかも「2月はチョコレートを食べる月」「3月はチョコレート&それ以外のスイーツも食べる月」というアバウトさだ。これではいけないと思う。愛する人に気持ちを伝えたり、お返しをされたりする、ピュアな原点に戻らなければ。

なので2月の寒い夜、はっとするような愛の映画にめぐり合えたのはタイムリーだった。『ペナルティループ』で知られる荒木伸二監督の短編映画『その誘惑』。すてきなマンションに住む夫婦を中心とした話で、翻訳家の妻の視点からはじまる。彼女はあるときを境に夫が別人になったように思えて彼を観察するのだが、テーマは夫婦愛でも不倫でもなく、強いていえば片思いだろうか。とにかく驚きの結末が待っていた。たった31分で、からだ全体が発見する愛という魔法の正体に迫る近未来映画だったのだ。これ以上の感想は自粛するが、私がいま、荒木作品にLOVEであることは間違いない。

LOVEな下着選びから愛がはじまる

このように「愛」というコトバでは重すぎると感じる場合、「LOVE」を使いたくなる。愛の英訳でありながら、愛よりも汎用性の高い軽やかなコトバがLOVEなのだ。たとえば、京都と熊本での開催を経て、2025年4月16日から6月22日まで東京オペラシティ アートギャラリーで開催予定の「LOVEファッションー私を着がえるとき」。この展覧会におけるLOVEは、着る人のさまざまな情熱や願望を表しており、実際の展示も「自然にかえりたい」「きれいになりたい」「ありのままでいたい」「自由になりたい」「我を忘れたい」という5章のLOVEで構成される。

はたして自分は、ファッションにどんなLOVEを抱いているのだろう。改めて考えてみると「コントロールしたい」「変化したい」「気持ちよくなりたい」ではないかと思い至る。これらの相乗効果として「からだで感じる新鮮なここちよさに溺れたい」のである。そのことを意識するきっかけになったのが、2023年に誕生した「ハグするブラ」。愛らしいデザインに加え、「ブラが、私を抱きしめる」というコピーにぐっときた。しめつけないけれど、ここちよく抱きしめられる、という絶妙なバランス感覚のとりこになったのだった。

「愛するわたしへ。Love your moment.」は、2024年秋に生まれ変わったワコールのブランドメッセージ。なんと、愛とLOVEの両方が使われている。自分への愛と、1日のはじまりに下着を選ぶ瞬間へのLOVE。愛とLOVEの使い分けのお手本のようなコピーではないか。これからも、ファッションのファーストステップとしての下着選びが、日々、感動的なここちよさと幸せな自己肯定感をもたらしてくれるといいなと思う。

クイズの答え
①あいする ②めでる ③いとおしい ④うい ⑤いつくしむ・いとしむ・おしむ・かなしむ

  • 相川藍(あいかわ・あい) 言葉家(コトバカ)。ワイン、イタリア、ランジェリー、映画館愛好家。
    荒木伸二監督の『ペナルティループ』は永遠にループしてほしい映画。主演の若葉竜也へのLOVEもとまらない!
文/相川藍(あいかわ・あい)
イラスト/白浜美千代
デザイン/WATARIGRAPHIC