声優・冨永みーなさん<後編>声のプロが実践、日常ケアとのどの使い方

特集/のど、いたわってますか?

語り/冨永みーなさん(声優)
冨永みーなさん

ストイックにのどのケアはしていないという冨永みーなさんが、必ずバッグに入れているケアアイテムは? また日頃からのどを痛めないため、人の耳にここちいい声を届けるため、実践している声の出し方についても教えてもらいました。

40代後半で感じたのどの不調

声は、自分のエネルギー状態や感情、そして健康のバロメーターです。ですから、食や睡眠など基本的な生活を整えることがとても大事だと思っています。よく食べ、よく寝るは、私の生活そのものです(笑)。私の睡眠は常にカットイン、カットアウトなんです。眠ろうと思ってベッドに入ったらスコン! と眠りに落ちます。眠くなるまでベッドに近寄らないタイプなので、「横になる」=「寝る」が習慣になっています。大きなブランクなく50年間声優を続けられているのは、快眠の体質のお陰かもしれません。1日のうちで嫌なことも、反省することも多々ありますが、翌日の仕事には絶対に引っ張りたくないので、睡眠を切り替えスイッチにしてリフレッシュしています。

そんな私ですが、ちょうどホルモンバランスが乱れ始める40代後半ごろから、声に異変を感じるようになりました。「あれ、声が出しにくいな」や「声がかすれる」など、声のハリが失われたように感じる症状が続いたんですね。このとき、薬やサプリを始めることも考えましたが、結局は淡々と正しい声の出し方をし続けることで、いつの間にかまったく気にならなくなりました。

冨永みーなさん

私は仕事柄、毎日違うスタッフさんに会って、「よろしくお願いいたします!」と挨拶するところから始まります。誰でも久しぶりの人に会うときや、外向きの会話をするときって、少しだけ声を張り、おなかに力を入れて、よそゆきの声を発しますよね。もしかしたらその繰り返しが、のどによかったのかもしれません。いつも同じ人とコミュニケーションをとっているという人は、声を緊張させる瞬間が少なく、のどを鍛える機会が減ってしまいます。趣味や習いごとなど新しいコミュニティに入って新しい人と交流することは、心のハリにもなり、それが声のハリにつながるのかもしれません。

バッグの中に必ず入っているのどケアアイテム

私が必ず常備しているものといえば「龍角散の のどすっきり飴」です。あらゆるのど飴やのどスプレーを試した結果、やっぱりこれがいちばんいいと実感しています。もう何十年もの間、バッグには必ず入れて、仕事の前後や帰宅時などしょっちゅう口にしている必需品です。あとは「葛根湯」も常備していますね。声の調子が少しでもおかしいな、イガイガするなと感じたら、すぐに飲むようにしています。免疫機能を高めるためにビタミンを摂取するのも習慣です。

常備品の「龍角散の のどすっきり飴」とツムラの「葛根湯」。(富永さん私物) 常備品の「龍角散の のどすっきり飴」とツムラの「葛根湯」。(富永さん私物)

もうひとつの必須アイテムは加湿器。言わずもがな、乾燥はのどにとって大敵です。部屋の湿度は加湿器を使って調整していますが、私は小さめの加湿器をこまめに買い換えて使っています。大きなものをリビングにドンと置くよりも、ベッドサイドやパソコンの前、リビングの寛ぐ場所の前、といったように小さな加湿器を部屋の中にいくつか置いています。小さな加湿器は、それぞれインテリアに合うものを置けますし、アロマや照明付きなどそのスペースに合う機能を搭載したものを選べる点が気に入っています。

のど仏を下げるイメージで落ち着いた声を出す

ショッピングでお店を訪れたとき、ちょうど耳にここちいい「いらっしゃいませ」を言ってくださる方っていますよね。私は「声を尖らせない」ことがとても大事だと思っていますが、ポイントはトーンとテンポです。落ち着いたトーンと少しゆったりとしたテンポが、人の耳にもここちいいですし、実際にのどへの負担も少なくてすみます。イメージとしては、のど仏を少し下げるような感じで声を出すこと。のど仏を意識すると、自然と姿勢もよくなって、おなかに力が入ります。

冨永みーなさん

ただ、緊張しているときは誰もが自然とテンポアップしてしまうんですね。今、専門学校の声優科で教えている生徒たちにも、「もっとゆっくりと声を出して」と指導しても、多くの生徒が上ずったような声になり、言葉がきちんと届きません。大勢の前で話したり緊張する場面で話すときは特に、自分が思っているよりもゆっくりとしたテンポで話したほうがよいです。今自分の声はどんなふうに聞こえているのか、相手を想うことが大事です。

ボイスメモで自分の声を聞いてみる

今は、スマホにボイスメモ機能がついているのも便利ですよね。一度誰かとの会話を録音してみて、自分がどんな声の出し方、テンポ、リズムで相手と話しているのか、聞いてみてはいかがでしょうか。私、こんな甲高い声なの? こんなに早口なの? と驚くかもしれません。自分の耳を通して聞く声と、まわりの人が聞いている自分の声との違いを知ることは、とても大切なこと。私が自分ののどの調子に敏感なのは、普段から仕事で客観的に自分の声を聞いているからだと思います。

声優界には、70代、80代でもハリのある声を出す先輩がたくさんいらっしゃいます。私も、のどのケアにはこだわりすぎず、これからも魅力的なアニメのキャラクターたちを裏方から支え、視聴者の方に安心して聞いてもらえるナレーションをお届けできるよう、声と心を磨いていきます。

取材・文/大庭典子
撮影/望月みちか
デザイン/WATARIGRAPHIC
  • 冨永みーな(とみながみーな) 1966年4月3日生まれ。広島市出身。声優。映画『鯉のいる村』にて5歳で芸能界デビュー。TVアニメでは『サザエさん』カツオ役、『それいけ!アンパンマン』のロールパンナ役・ドキンちゃん役、『ビックリマン2000』主役タケル役などを担当。ナレーターとして『開運!なんでも鑑定団』『どうぶつ奇想天外!』『世界ウルルン滞在記』『いきなり!黄金伝説』など、人気の長寿番組にも数多く関わっている。LIVE活動や日本工学院講師など活動は多岐にわたる。