声が変わる! 今日からできる簡単セルフケア

特集/のど、いたわってますか?

先生/本橋 玲(東京医科大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 講師)

---- コロナ禍でのマスク生活や、リモートワークの広がりによって、声を出す機会が急激に少なくなっている現代。声のトラブルは、その人の印象だけでなく、コミュニケーションの質までも下げることにつながります。若々しくハリのある声を長く保つために、できることはあるのでしょうか? 東京医科大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の本橋 玲先生にうかがいました。

声が変わる! 今日からできる簡単セルフケア

「息こらえエクササイズ」でのどの筋トレを

前回、加齢による声の変化は「潤いの減少」「筋力の低下」「弾性の低下」が主な原因であるとお話しました。そのうち「潤いの減少」「筋力の低下」については、簡単なセルフケアによって改善することができます。

まず、「潤いの減少」には、水分を補うこと。ただし、声帯は気道と食道が分かれた先にありますから、いくら水を飲んでも届きません(万一届いたらむせてしまいます)。ですので、蒸気を吸って加湿するのがおすすめです。携帯用の吸入器とか、美顔用のスチーマーでも。直接水分の粒子がのどに届きます。粒子が大きいとむせますので、注意しましょう。

そして「筋力の低下」には、とにかく発声。筋トレです。足腰と一緒で、声帯まわりの筋肉も使わないと衰えます。おすすめは、「息こらえエクササイズ」です。

重い荷物を持ち上げるときって、「ウッ」と息をこらえますよね。喉に力が入り、声帯がキュッと閉まった状態になります。そうすると空気が漏れません。漏れないから力が入るわけです。「息こらえエクササイズ」では、意識的にその状態をつくります。

「息こらえエクササイズ」(ページ上部のイラスト参照)
①オペラ歌手のように胸の前で手を組み合わせ、鼻からゆっくりと大きく息を吸います。
②組んだ両手を左右に引っ張りながら、息を5〜10秒間止めます。
③手の力を抜いて息を吐きます。
①〜③を1セットにして3〜5セット、朝・昼・夜と1日3回行います。
*血圧が高い方や、立ちくらみしやすい方は、無理をしないで時間を短くしたり回数を減らしたりするなど、適宜負荷を軽くしましょう。

椅子に座った状態で、両手で座面を持ち上げるようにするのでもいいし、吊革につかまった状態でもできます。要は、手に力を入れたほうが喉に力が入りやすいということ。

1か月も続ければ、声のハリが違って感じられると思います。あごやのど周辺のたるみもスッキリしてくるはず。

からだが若々しい人は声もやっぱり若々しい

いわゆる“美魔女”と呼ばれている女性たちには、老け声の人はあまりいないと感じています。おそらく、彼女たちは美のために日々運動をしているので、のどや肺活量も必然的に鍛えられているのではないでしょうか。笑顔を意識しているので、口角も上がっていて、声もよく出ています。からだが若々しい人は声も若々しい、ということだと思います。

また、英会話も声のエクササイズとしておすすめです。というのも、日本語という言語は、発声に空気をほとんど必要とせず、のどが締まっていてもしゃべれてしまうんです。一方、英語には、腹式呼吸で空気をきちんと出せないと発音できない言葉が多い。だから英語圏の人の声はたいてい通りがよく、聞き取りやすいんです。英会話の練習をしているうちに、自然と腹式発声が身についてくるはずです。

潤いを補い、筋トレをする。こうしたセルフケアは、例えるなら楽器の手入れです。加えて演奏方法、つまり話し方や発声方法によっても、声の印象は変わります。うつむきながら話せば声が響かず暗い印象になりますし、顔を上げ、胸を張って話せば、ハキハキと明るい雰囲気になります。意識することでいくらでも調整できるのです。

日々、おしゃべりや歌、英会話など、意識して声を出すことと、のどのセルフケアによって、何歳からでも声のアンチエイジングは可能です。ぜひ、今日から始めてみてください。

----手に力を入れて息をこらえるだけで、のどの筋肉が鍛えられる「息こらえエクササイズ」は、簡単に始められそうです! 毎日、そして一生使う声だからこそ、日々ケアをし続けることが大切。次回は、声に関する医療の最前線についてうかがいます。

取材・文/剣持亜弥
イラスト/坂田優子
デザイン/WATARIGRAPHIC
  • 本橋玲
  • 本橋玲 東京医科大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科講師/新宿ボイスクリニック医師。ボイスクリニックなど声に特化した外来で、のどの病気や声にまつわる疾患、悩みについての治療、指導を行う。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医・耳鼻咽喉科専門研修指導医、日本頭頸部外科学会頭頸部がん専門医、日本気管食道科学会認定気管食道科専門医。