声を出すための「声筋」、その驚きの仕組み

特集/のど、いたわってますか?

先生/渡邊雄介(山王病院 国際医療福祉大学東京ボイスセンター長)

---- 私たちはふだん、特別な意識をすることなく声を出しています。では、声を出すとき、のどのどこが、どのように動いて声となっているのか、ご存知でしょうか? そもそも、のどの構造はどうなっているのでしょう? 今回は、のどのつくりと声の出る仕組み、起こりやすいトラブル、そして、おしゃべりの重要性について、音声の専門医である渡邊雄介先生にうかがいます。

のど上部にある「声帯」は驚くほど小さい!

私たちが「のど」と呼んでいる部分は、「咽頭(いんとう)」と「喉頭(こうとう)」のふたつに分けられます。「耳鼻咽喉科」の「咽」と「喉」ですね。咽頭は、鼻と口の奥から食道の入り口までの器官。喉頭は、喉頭蓋(こうとうがい)という食べ物を飲み込むときに気道に入らないように蓋となってくれる軟骨組織から、声帯までの器官です。

そして、声を発するうえで最も重要な働きをしているのが「声帯」という筋肉です。のどの上部、気道と食道が分岐した先の、気道の入り口あたり、のどぼとけの骨の内側にあります。口の奥に垂れ下がっている口蓋垂(こうがいすい)、いわゆる「のどちんこ」で声を出していると勘違いしている人が案外多いのですが、そうではなく、発声を司るのはのどの奥の声帯なんです。

声を出すための「声筋」、その驚きの仕組み

声帯は、左右1対の細長い筋肉で、長さは女性で1センチ程度、男性でも1.5センチほどしかありません。その1対の筋肉が、息を吸うときは肺に空気を送るために外側に広がり、発声時には左右ぶつかりあって振動を起こすことで音を出します。

声を出すときに大切なのは、左右の声帯が均等にぶつかりあってピタッと閉まり、その間から息が出ること。例えば、左右いずれかの声帯にポリープができるなどしてピタッと閉じなくなると、声がかすれたり、出にくくなったりするわけです。

そして、この声帯を動かすための筋肉は、左右に5個ずつ、合計10個あります。「声に関する筋肉」ということでまとめて私は、わかりやすく「声筋(こえきん)」と呼んでいます。声筋は筋肉ですから、年齢とともに必然的に萎縮し、衰えていきます。話している最中に咳き込んだり、食事中にむせたりするのは、声筋が弱っているため。さらに、しゃがれ声、ふけ声の要因にもなります。

若々しい声のためには「のどトレ」が必須

女性は、特に若い方は、声が高いですよね。それはつまり、声帯をたくさん振動させているということ。50代男性と20代女性で比較すると、1秒間の声帯の振動数が倍ほど違うことがあります。振動数が多いことは声帯を酷使することにつながりますから、のどのトラブルが起こりやすくなります。

また、閉経後、高い声が出せなくなったり、声がかすれたりすることも。これは、女性ホルモンの分泌の低下によるものです。20世紀最高のソプラノ歌手、マリア・カラスは50歳ですでに引退していましたが、更年期を迎えて声質が変化したのが理由だと言われています。一方で、歌手の由紀さおりさんや、漫画『ワンピース』の主人公・ルフィ役の声優・田中真弓さんなど、70代、60代になっても変わらぬ声を保っている人もいます。磨き続けているからです。

一方で、男性と女性を比べたときに、女性がいいなと思うのは、おしゃべりが好きなこと。男性は、特に定年後など環境が変わると、急に人としゃべらなくなって、声筋が衰えていきます。歩かなくなると足腰が弱るのと同じですね。でも女性は、仕事に、家庭に、趣味に、と複数のコミュニティに所属して、幅広いコミュニケーションをとることができる人が多い。適度ににぎやかにしていることは、のどにも声にもいいんですよ。理想は、アニメ『ちびまる子ちゃん』に出てくる、まるちゃんのおじいちゃん、友蔵さんです(笑)。ああいうおしゃべりな人は長生きします。

声を仕事にしている人だけでなく、一般の人も、のどや声の不調や変化を感じ始める前に、のどを大切にし、声筋を鍛えるのどのトレーニング=「のどトレ」を習慣づけておくといいと思います。声を若々しく保てるのはもちろん、健康寿命を伸ばすことにもつながります。

----1センチほどの声帯が閉じ、震えることで声が出ていたとは。若々しい声のためには、声筋のトレーニングが必要だということもわかりました。次回はいよいよ、具体的な「のどトレ」の方法について教えていただきます。

取材・文/剣持亜弥
イラスト/坂田優子
デザイン/WATARIGRAPHIC
  • 渡邊雄介
  • 渡邊雄介 山王病院 国際医療福祉大学東京ボイスセンター長、国際医療福祉大学医学部教授、山形大学医学部臨床教授、東京大学医科学研究所附属病院非常勤講師。専門は音声言語医学、音声外科、音声治療、GERD(胃食道逆流症)、歌手の音声障害。音声の専門医として、一般からプロフェッショナルまで幅広い支持を得る。
    メディアへの出演も多く、分かりやすく丁寧な解説と実践的なエクササイズの紹介が好評。著書に『専門医が教える 声が出にくくなったら読む本』『声の専門医だから知っている 声筋のすごい力』『フケ声がいやなら「声筋」を鍛えなさい』がある。