『イソフラボン』がキレイを邪魔する?!

特集/神秘なるホルモン

先生/田代眞一(病態科学研究所 所長
乳房文化研究会 会長)

女性ホルモン様作用とは?

日々更新されるホルモンにまつわる情報や噂。飲むだけで女性ホルモンアップ!など、魅力的な言葉に、つい手を伸ばしたくなってしまいますが、その作用をきちんと知らずに摂取してしまうのは危険なこと。場合によっては、美しさに逆効果になる場合もあるのだとか。今回も病態科学研究所 所長、田代先生にご登場いただき、"女性ホルモン様(よう)作用"について、詳しくお伺いします。

女性ホルモン様作用とは、女性ホルモンの"ような"働きをするという意味です。大豆や葛(くず)、そのほかマメ科の植物の多くに含まれている"イソフラボン"は、フラボノイドの一種で、女性ホルモンのエストロゲンと化学構造が似ていることから、女性ホルモン様作用があると言われ話題を呼んでいます。

女性ホルモンのような働きをするなら...と一生懸命摂取している人を見ますが、中には、「今そんなにイソフラボンをとったら、逆にキレイになれないよ?」と思う人もいます。特にまだ女性ホルモンの分泌が減少していない閉経前の方には注意してもらいたいのです。

エストロゲンが作用するには、エストロゲンを受け入れる受け皿である受容体が必要です。受容体にエストロゲンがハマって、体内で働きますが、イソフラボンとエストロゲンは構造がよく似ているので、受容体は、イソフラボンをエストロゲンと"勘違いして"受け取り、その結果"女性ホルモンのような"効果を発揮します。

ただし、構造上イソフラボンはエストロゲンに似てはいますが、本物ではありません。エストロゲンと受容体が結合したときに比べてその働きは弱く、最大限に力を発揮するものでも、エストロゲンの400分の1程度。

エストロゲンを受け取る受容体の数は人それぞれに決まっています。受容体を椅子と考え、椅子取りゲームを想定してください。本来座るべきエストロゲンの椅子に、イソフラボンも混じってきて椅子を取り合ってしまったら...。

イソフラボンは、エストロゲンの効果の400分の1!

エストロゲンがあぶれて座れずに、イソフラボンが座ってしまう。こんな事態も起こり得るでしょう。先ほどもお伝えしたように、イソフラボンの効果は、最大のものでエストロゲンの約400分の1。きれいになるために摂取したはずが、思わぬ逆効果になってしまいます。

更年期を過ぎてエストロゲンの分泌が減った場合には、イソフラボンで補うことは、たとえ400分の1でも効果が期待できるかもしれません。でも、エストロゲンが充分に分泌されている時期に、多量のイソフラボンを摂取するのは、要注意です。摂取するなら、エストロゲンの分泌量が落ちる、出産後や更年期、また1か月の中でも排卵期直後などがいいでしょう。

今は、「○○が女性ホルモンに効くらしい」という情報だけが先行してしまい、とるべき時期や摂取量についての情報が欠落してしまっていることは、大変危険だと感じます。これはぜひ、覚えておいてください」

とり方によっては、イソフラボンが美を邪魔してしまうとは! これからは情報に飛びついて、安易に過剰摂取するのではなく、適切な量や必要な時期を見極めて、効果的に取り入れたいですね。

イソフラボンの代表格は、大豆に含まれる大豆イソフラボンですが、その摂取量について、農林水産省のHPの『大豆イソフラボンを含む特定保健用食品の安全性評価の基本的な考え方』では、以下のように記載されています。

「大豆イソフラボンアグリコンの一日摂取目安量の上限値、70~75 ㎎/日は、この量を毎日欠かさず長期間摂取する場合の平均値としての上限値であること、また、大豆食品からの摂取量がこの上限値を超えることにより、直ちに、健康被害に結びつくというものではないことを強調しておく。」

ひとつの基準として、覚えておきましょう。
田代眞一

田代眞一 病態科学研究所 所長/乳房文化研究会 会長。
医学博士(京都大学)、薬学修士(富山大学)。1947年京都市生まれ。富山大学薬学部薬学科卒業。元昭和薬科大学教授。血清薬理学研究会会長、日本医療福祉学会会長、和漢医薬学会監事、日本疫学学会評議員などを歴任。著書に『東洋医学に学ぶ健康づくり』(東山書房)『疾病の病態と薬物治療』(廣川書店)、『ビールを飲んで痛風を治す!』(角川グループパブリッシング)など多数。

取材・文/大庭典子(ライター)
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