吹き出物、イライラ...も女性ホルモンの仕業!

特集/神秘なるホルモン

先生/田代眞一(病態科学研究所 所長
乳房文化研究会 会長)
取材・文/大庭典子(ライター)

吹き出物もイライラも、女性ホルモンの仕業!

ツヤ肌、ツヤ髪...、月の半分はキレイも絶好調!

女性は、1日、1か月、一生を通して、さまざまなホルモンの影響を受けています。そのリズムを知ることは、自身のホルモン状態を整えるうえでも大切なこと。ホルモンの分泌量がどのように変化するのか、引き続き、田代先生にご登場いただきます。

1日を通して体温の変化があるように、ホルモンの分泌量にもリズムがあります。1日の中で特に分泌量が変化するのは、メラトニンというホルモンです。このホルモンは、からだの昼夜を決定しています。夜になり、暗さを感じると、メラトニンが多量に分泌され、休息モードになるようからだに働きかけます。逆に光が入ってくるとメラトニンの分泌は抑えられ、心身が活動的になります。

夜になってメラトニンがきちんと分泌されるためには、メリハリのある生活習慣を送ることが鍵となります。メラトニンは性成熟にも関係があるので、思春期のころの生活のリズムは特に大事。夜になっても携帯の液晶やコンビニの蛍光灯の光を浴び続けていると、メラトニンがうまく生成されず、適切な性の抑制が行われず、早熟なからだをつくってしまいます。

"夜遊びする子が早熟"と言われる所以は、メラトニンに関係があったのです。早熟であることは、老化が早まっているということ。美しさには、大敵です。過去には、腫瘍ができて、メラトニンを生成する脳の松果体(しょうかたい)が圧迫され、メラトニンがつくれなくなった女の子が、4歳から生理が始まってしまったという事例も起きています。性成熟とメラトニンには深い関係があります。朝起きたら、太陽の光を浴びて活動的に過ごし、夜は明るい光をなるべく避けて、リラックスしながら休息することがメラトニンのリズムを整えることにつながります。

では、1か月単位でホルモンの動きを見てみましょう。女性には、約1か月周期で訪れる月経があります。前回もお話した女性ホルモンの「エストロゲン」(卵胞ホルモン)と「プロゲステロン」(黄体ホルモン)がリズムよく分泌されることは、月経を順調に起こし、妊娠をする態勢をつくるうえでも重要です。

女性は母親の胎内にいるときからものすごい数の卵胞をもっています。毎月、脳からの指令により、左右どちらかの卵巣のなかにあるたったひとつの卵胞が選ばれ、その卵胞が成長し、卵胞の壁を突き破った際に、卵が排出されます(排卵)。このときに卵胞の成長に関わっているのが、女性ホルモン「エストロゲン」です。エストロゲンは、生理の終わり頃から排卵期にかけて分泌を増やしていきますが、この増量に伴って、卵胞も成長していきます。

エストロゲンはお肌や髪のツヤにも関わるホルモンですから、このエストロゲンが増え続ける生理の終わりごろから排卵までは、心身の調子も良好な方が多いようです。

卵巣では排卵の直前まで、エストロゲンを多量につくっていますが、排卵後は、エストロゲンの分泌量はがくっと落ち、代わりに「プロゲステロン」が優位になります。プロゲステロンが優位になる時期には、肌には吹き出物ができやすかったり、むくみやすい、精神的に不安定になるなど、不調を感じる人も少なくありません。

体内に水をとどめるホルモン「プロゲステロン」

ではなぜ、プロゲステロンが優位になると、むくみやすいなどの症状が出るのでしょう。前回、プロゲステロンは、妊婦さんの状態を保つホルモンだとお話しました。妊婦になった際、お母さんは胎内にいる赤ちゃんに"水"を渡さなくてはなりません。

水の比熱は、あらゆる液体、個体のなかで最大です。比熱が最大というのは、温度を1度上げ下げするのに多くの熱量を必要とすること。水は、外からの影響を最も受けにくい物質なのです。夏の海辺では、砂浜は歩けないほど高温になっても、海が沸騰することはまずないですよね。地下水が外温に関わらず冷たいのも、そのためです。

赤ちゃんはまだ免疫力もなく、自分を守ることができないため、外部からの影響を受けにくい水によって守られています。胎内が羊水で満たされているのも、赤ちゃん自体が水を多く含んでいるのも、そのためです。そして、その状態をつくっているのが、女性ホルモン「プロゲステロン」の働きです。ですから、排卵後から生理が始まる前の時期や妊娠期など、「プロゲステロン」が優位になるときにむくみやすいのです。 女性ホルモンの動きと基礎体温 これらの女性ホルモンの動きは、基礎体温にも現れます。図のように、プロゲステロンが優位のときは、基礎体温も平熱より0.3〜0.5度高い高温期です。排卵までのエストロゲンが優位なときは、低温期。低温期と高温期がきちんと2層になっているのは、女性ホルモンがバランスよく分泌されている証。基礎体温を計る習慣は女性ホルモンのリズムを知るためにも役立ちます。習慣にしましょう」

1日単位、1か月単位でホルモンは、リズムを刻んでいます。次回は、一生を通して、どのようにホルモンのリズムが変化するのかについて、詳しくお伺いしていきます。
田代眞一

田代眞一 病態科学研究所 所長/乳房文化研究会 会長。
医学博士(京都大学)、薬学修士(富山大学)。1947年京都市生まれ。富山大学薬学部薬学科卒業。元昭和薬科大学教授。血清薬理学研究会会長、日本医療福祉学会会長、和漢医薬学会監事、日本疫学学会評議員などを歴任。著書に『東洋医学に学ぶ健康づくり』(東山書房)『疾病の病態と薬物治療』(廣川書店)、『ビールを飲んで痛風を治す!』(角川グループパブリッシング)など多数。

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