美しさをつくるホルモンの神秘

特集/神秘なるホルモン

先生/田代眞一(病態科学研究所 所長
乳房文化研究会 会長)
取材・文/大庭典子(ライター)

美しさをつくるホルモンの神秘

女性ホルモン「エストロゲン」がキレイの鍵?!

ホルモンが心身の健康や美しさに大切なことは知っていますが、その種類や役割については、よくわからない...という人も多いのでは。今回は、女性ホルモンをはじめ、女性の美しさに関わるホルモンについて、知っておくべき基本や新たな研究結果、またホルモンにまつわる気になる"うわさの真相"も教えていただきます。初回は、女性のキレイに大きく関わるホルモンには、どのようなものがあるのか。病態科学研究所の所長、田代眞一先生にご登場いただきます。

「ホルモンとは、ごく簡単に言うと、脳の指令などによって臓器や細胞から放出され、からだの中を伝わり、別の臓器や細胞で作用する物質のことです。

その数は、100種類近くあると言われていますが、遺伝子の研究が進む近年、毎年のように新しいホルモンが発見され続け、正確な数はわからない...というのが現状です。数多くあるホルモンの中でも、排卵や月経、妊娠など女性特有のからだの働きには、女性ホルモンが大きく関わっています。

女性ホルモンには、卵胞ホルモンと呼ばれる「エストロゲン」と黄体ホルモンと言われる「プロゲステロン」があります。これらの女性ホルモンは、脳からの指令を受け、卵巣でつくられ、分泌されます。女性らしい体型や美しさには、特に「エストロゲン」が適正に分泌されることが不可欠です。 卵巣、卵管、子宮 「エストロゲン」は卵巣や子宮、膣など生殖器の発育に関わっていて、端的に言うと、子供から大人の女性に変えるホルモンのこと。対して、もうひとつの女性ホルモン「プロゲステロン」は、妊娠の状態を維持するホルモンと言えます。これらの女性ホルモンは、常に一定量出ているわけではなく、思春期、妊娠、出産、閉経後に分泌量が大きく変化します。

女性ホルモンによる"トンネル工事"で乳房は育つ!

思春期に乳房が大きくなる過程においても、このふたつのホルモンが互いに協力し合っています。乳房はまず、「エストロゲン」の働きによって乳首から内側へ乳管を伸ばし、その乳管から「プロゲステロン」の働きによって枝分かれさせています。そして、枝の先にできる乳腺小葉で乳汁がつくられるのです。まるで奥へ奥へと掘っていくトンネルのように、「(エストロゲンが)掘る→(プロゲステロンが)広げる」を繰り返しながら、乳房は成長していきます。

分娩後の授乳時には、女性ホルモン以外にも多くのホルモンが関与しています。先ほど、妊娠状態を維持するのは「プロゲステロン」の働きによるものだと言いましたが、分娩後に妊婦を母親に変えるのは、「プロラクチン」というホルモンの役割。分娩が起こると、「プロラクチン」が本格的に活動し始めて、母乳をつくるように働きかけます。

さらに授乳時には、赤ちゃんの吸う引力に任せて母乳が出ているわけではなく、母親が子供に与える気になったときに、それを脳が感じて「オキシトシン」を出し、このホルモンの働きによって、乳房の後ろから筋肉できゅっと締めて射乳ができる、という具合。母乳の味を知りたいと、パートナーの男性が興味本位で吸ったところで、女性がその気になってプロラクチンを出すよう脳から指令が出なければ、母乳はあまり出ませんので、あしからず(笑)。

このように、ひとつの働きを起こすにも、さまざまなホルモンが連携して、協力し合っています。女性らしさに大切なホルモンは、どれかひとつでは決してなく、体内でそれぞれのホルモンがきちんとつくられ、必要なときにきちんと分泌されることが大切です。

とはいえ、ホルモンは意識的に分泌をコントロールすることはできないのがやっかいなところ。ホルモンのバランスを整えるには、どんな生活習慣が有効なのか。また、ホルモンのリズムについても、次回からお話していきます」

エストロゲンとプロゲステロンというふたつの女性ホルモンに、それぞれ異なる役割があるのですね。次回は、一生を通してホルモンはどんなリズムを刻んでいるのか、学んでいきましょう。
田代眞一

田代眞一 病態科学研究所 所長/乳房文化研究会 会長。
医学博士(京都大学)、薬学修士(富山大学)。1947年京都市生まれ。富山大学薬学部薬学科卒業。元昭和薬科大学教授。血清薬理学研究会会長、日本医療福祉学会会長、和漢医薬学会監事、日本疫学学会評議員などを歴任。著書に『東洋医学に学ぶ健康づくり』(東山書房)『疾病の病態と薬物治療』(廣川書店)、『ビールを飲んで痛風を治す!』(角川グループパブリッシング)など多数。

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