試行錯誤で日常を取り戻そうとするなかで、ランジェリーが果たす役割は決して小さくありません。リラックスしたいときは身につけていてくつろげるもの、シャキッとしたいときは適度な体型補整や造形性のあるものと、両方の切り替えも大切ですね。
特にブラジャーに関しては、信頼性のあるなじみのブランドや安心できるタイプを選びたいという気持ちが強いといえます。再開を果たしたパリの百貨店でも、そんな傾向が見られるようです。自分のからだと心に合うものを、できればプロにきちんとアドバイスしてもらって購入したいという気持ちも高まっているのではないでしょうか。
ブランドアイデンティティの再確認
ウィズコロナが、生き方を見直すひとつのきっかけとなったように、ランジェリーブランドにとっても原点に帰ってアイデンティティを再確認している時期といえるでしょう。
ヨーロッパ市場に上陸して30年になる「ワコール」ブランドは、近年特に、日本・アメリカ・ヨーロッパと、各市場で培った物づくりや感性をミックスしながら、ブランドの顔になるような商品を発表しています。
典型的なのが、2021秋冬コレクションのSAKURAグループ。日本の桜の魅力を繊細に表現したエンブロイダリーレースを使い、ヨーロッパ感覚のナチュラルでここちよいフルカップブラをはじめ、表情の異なるブラジャーのバリエーションをそろえています。バルコニーブラ(3/4カップ)やモールドブラもあって、体型や用途に応じて選べるというわけです。
よりテクノロジーを活用したものとして、イノベイティブなナノファイバー素材を取り入れたGLOIREグループも注目されます。
有名デザイナーとのコラボライン
市場の活性剤として、外部のデザイナーとのコラボレーションを行うという手法もあります。パリを拠点とする伝統的なブランドらしく、これまでもいろいろなフランスのファッションデザイナーとのコラボでカプセルコレクションを発表してきた「オーバドゥ」が、2021秋冬にタッグを組むのがカール・ラガーフェルド(シャネルやフェンディの元デザイナー。2019年没)です。
クラシックでエレガントなモノクロームのパリの街の雰囲気をベースにしながら、クチュールのテイストとロックなスタイルがあいまった、カール・ラガーフェルドの遺産とオーバドゥの技術が融合したコレクションとなっています。
色はシックなタキシードブラックと、官能的なルビーレッドの2色。スイスのギピュール風(ケミカル)エンブロイダリーレースが使われ、サテンのくるみボタン使いもアクセントになっています。ブラジャーは7タイプをそろえ、AカップからGカップまで幅広いサイズに対応しているのがポイントです。
また、2021秋冬シーズンに5名の女性アーティストからインスパイアされたコレクションを展開するのがスペインの「アンドレ・サルダ」です。ことにRAVENグループというカテゴリでは、なめらかな肌ざわりのモダールとシルクの素材、肌なじみのいいニュートラルカラーで新しいベーシックを提案しています。
自分に合ったベーシックなものが求められる一方で、エモーショナルなものへの欲求も高くなっているのですが、それは次回でご紹介したいと思います。
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武田尚子(ジャーナリスト)
インナーウェア専門雑誌の記者を経て、1988年にフリーランスに。以来、ファッション・ライフスタイルトータルの視点から、国内外のランジェリーの動きを見続けている。著書に『鴨居羊子とその時代・下着を変えた女』(平凡社)など。
「パリ国際ランジェリー展」など年2回の海外展示会取材は、既に連続30年以上となる。最新著書は『もう一つの衣服、ホームウエア 家で着るアパレル史』(みすず書房)。 http://blog.apparel-web.com/theme/trend/author/inner