2022.10.19

モデルKIKIさんが訪ねる研究の現場#07/毎日2万回以上、呼吸の大事な役割

KIKI(モデル)KIKI(モデル)/武蔵野美術大学建築学科卒業後、モデル・女優・写真家として多方面で活躍。エッセイ寄稿や紀行文の執筆なども手がける。著書に『美しい山を旅して』(平凡社)、『山が大好きになる練習帳』(雷鳥社)、『山・音・色』(山と渓谷社)など多数。

「からだ文化研究プロジェクト」の研究現場に、モデルKIKIさんが訪問するシリーズ最終回。今回のテーマは、もっとも身近で、でも意識することの少ない「呼吸」について。東京有明医療大学で研究を進める髙橋先生の元に伺いました。

自分の呼吸をわかっている人はほとんどいない

髙橋 みなさん、人は1日に何回くらい呼吸をしていると思いますか? およそ2万2000回です。

KIKI そんなに!

髙橋 そうなんです。なのに、自分がどんな呼吸をしているか、わかっている人はほとんどいません。私たちはふだん、生きるために無意識で酸素を取り入れ、二酸化炭素を排出するという行為を行っていて、いってみれば「生きるため」に「無意識呼吸」をしています。

岸本 確かに、ふつうに生活していれば、「呼吸するのを忘れた」なんていうことはありませんよね。

髙橋康輝(東京有明医療大学 保健医療学部 准教授) 髙橋康輝(東京有明医療大学 保健医療学部 准教授)/専門は健康・スポーツ科学。運動と呼吸・循環機能とこころの関係などを研究し、一般の人にわかりやすく伝える橋渡し的な役割を担う。筑波大学科学技術振興研究員、倉敷芸術科学大学生命科学部助教を経て、2009年より東京有明医療大学准教授。 阪田真己子(同志社大学 文化情報学部 教授) 岸本泰蔵(ワコール人間科学研究開発センター 主席研究員)/入社以来、人体の3D計測などの計測技術・計測システムの開発を担当。同一人物の体型変化を追跡したエイジング研究や男性の体型と商品に関するメンズ研究などに携わる。現在は研究開発センターの研究統括。

髙橋 一方で、「意識的にする呼吸」もあります。しゃべるとき、歌うときなど、自分の意思で呼吸の深さやリズムを変えていますよね。それからもうひとつ、メンタルにともなって変化する呼吸もあります。「情動で変化する呼吸」と呼んでいるのですが、不安や緊張を感じると呼吸が浅く速くなる。生物は敵に襲われたとき、戦うか逃げるかするために、素早く動く必要があるのです。そのため、危機的な状況になったら本能的に呼吸を速くして、酸素を取り込んでエネルギーをつくるという機能が備わっています。

情動で変化する呼吸

このように、ストレスと呼吸は深く関係しているのです。ここで呼吸の計測ができますので、KIKIさんも測ってみましょうか。

呼吸の計測

髙橋 1分間に14回の呼吸をしてますので、安定していますね。では、指先から電気ショックを与えますよ…。

KIKI ……。

髙橋 というのは、ウソでした。でも、電気ショックがくるかもしれないと、少し緊張されましたよね。そのとき、呼吸はどのように変わったでしょうか。緊張を与えたら、呼吸数は1分間19回に増えました。波形の山は小さくなっているので、呼吸が浅くなっていることもわかります。また、「掛け算の七の段を暗唱してください」というふうにも言いましたが、そのときは、波形が間延びしています。考えたり、何かするとき、KIKIさんは息を止めるタイプなのかもしれません。

呼吸の計測
安静時の呼吸波形、緊張時の呼吸波形

KIKI 自分でもそうだと思います。登山に行ったとき、そこで写真を撮ろうとカメラをのぞいていると、すごく苦しいと思ったことがありました。集中しすぎて呼吸をしていなかったのかなと。

髙橋 高山で気圧が低く空気が薄いのと、撮影への集中とで、息苦しくなっていたのでしょう。不安や緊張にさらされたとき、呼吸が早くなる人と、止まってしまう人と、どうやら2パターンいるようです。

KIKI 私は、後者の息を止めてしまうタイプですね。

髙橋 そうですね。陸上の選手やプロのスポーツ選手なども、ぐっと力を入れたとき、呼吸を止める人もいるんです。パフォーマンスを上げるために、「絞める」という感覚でしょうか。そして、体内の酸素量が減って二酸化炭素が増えて息苦しくなり、すぐその後には早い呼吸になります。

KIKI(モデル)

KIKI シャッターを押すとき、「ぶれないように」息を止めるのと似ていますね。一方で自分がモデルとして写真を撮られるときは、息を止めてしまわないように、ゆっくり呼吸をしている気がします。

岸本 自分の呼吸を知るということは、なるほど面白いですね。ふだんは意識していなくても、自分自身を知る第一歩かもしれません。

深い呼吸を意識して習慣にしていくことが大事

髙橋 少し専門的な話になりますが、私たちは肺が膨らんだり縮んだりすることで呼吸をしています。取り込む酸素の量はある程度年齢や体格によって決まりますが、個人差もあります。では、何が違うのでしょうか。

肺そのものは自力で膨らんだり縮んだりできないので、肋骨に覆われた「胸郭(きょうかく)」が動かなければ呼吸はできません。このとき、横隔膜と肋骨の間にあるいくつもの筋肉=「呼吸筋」を正しく使うことが、とても重要なのです。

KIKIさん、呼吸筋ストレッチ体操をしてみましょう。鼻から大きく息を吸って、吐いて…を繰り返してみてください。それから、おなかにボールを抱えるようなイメージで、背中を丸めて、大きく息を吸って吐いて。目を閉じてリラックス…。ではもう一度、呼吸のリズムをよく見てみましょう。

KIKI ちょっとからだを動かしただけなのに、胸が広がって、呼吸が楽に感じます。

KIKI(モデル)

髙橋 ただ、この感覚はすぐに元に戻ってしまうので、日常で繰り返し、深い呼吸を意識して習慣にしていくことが大事です。このような活動は、私が師事している呼吸研究の権威である本間生夫先生と一緒に、被災地の子どもたちに対して実施してきました。深くゆっくりした呼吸を意識することで、不安やストレスを軽減できることもわかりました。

KIKI メンタルと呼吸のつながりは、とても深いんですね。

後編では、気持ちをポジティブにして美しい佇まいにつなげるための呼吸を教えていただきます。

取材・文/南 ゆかり
撮影/高木亜麗
デザイン/WATARIGRAPHIC

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