2022.11.24

【特集】おとなの温活どうする?#03
漢方専門医が教える、おとな世代の「冷え」事情<後編>

更年期と同時にくる「冷え症」。衣食住での予防と対策

漢方専門医 渡邉賀子先生

熱をつくり、からだの隅々まで届ける。この働きがうまくいかなくなると、からだは冷えてしまいます。<前編>で教えていただいた冷えのメカニズムをふまえ、対策をしっかり講じたいもの。引き続き、女性の冷え問題のエキスパート、渡邉賀子先生に伺いました。

深部体温を守るために
手足が冷たくなる

「冷え症」といっても、明確な基準があるわけではありません。医師が診断するときは、甲状腺機能低下症、膠原病、動脈硬化症など、病気の可能性を全部除外したうえで残る冷えの症状を「冷え症」と呼んでいます。

更年期症状と同じで、つらさの感じ方も個人差がありますし、体質や生活習慣によるところも大きい。ですから、ひとりひとりが自分の状態をよく把握したうえで、対策することが重要になってきます。

まず、大前提として、「冷え」は予防が大切だということ。からだが「寒い」と感じると、深部温度を守るために、末梢血管は収縮し、血液をからだの中心に近い部分に集めようとします。寒い中で、皮膚表面や手足の先の方まで血液を送ってしまうと、熱を体外に逃してしまい、冷やされた血液が戻ってきて、からだ全体が冷えてしまうからです。

いったん、血管が反応してしまうと、なかなか元に戻りません。冷えを感じてから対応しても、回復には時間がかかります。特に冷え症の人は、あたたかい部屋に戻ってきてずいぶん時間が経っても手足が冷たいまま、というようなことが起こります。だから、まず予防からなのです。

暑い・寒いの調整には
脱ぎ着しやすいアイテムを重ね着で

冷え対策としてすぐにできるのは、衣服の調節です。暖房のきいた室内と、寒い屋外との温度差。電車の中が暑くて汗をかいて、ホームに降りたところで一気にからだが冷える、ということもありますよね。<前編>でも解説したように、更年期による「ほてり」(ホットフラッシュ)がそこに重なる人もいることを考えると、暑さ・寒さの調整ができる服装が必要です。私は、その日の予定によっては、冬でもノースリーブを着て、重ね着をしたり、巻物を使ったりと、こまめに温度調整できるようにしています。

更年期の「ほてり」では、特に胸から上が熱くなりやすいので、タートルネックなどで首を塞いでしまうものよりは、Vネックなどデコルテの開いたインナーを着て、その上に服やマフラーなど小物を重ねていくのがいいと思います。

おとな温活のポイントその1 パーツ温活とこまめな脱ぎ着

食事、運動、休養…
冷え対策は更年期のケアにも

冷えの原因は「熱が足りない」「熱を運べない」ことです。ということは、「十分な熱をつくれる」「すみずみまで熱を運べる」からだになれば、冷えは改善します。そのために見直したいのは、「食事」「運動」「睡眠・休養」…そうです、更年期症状のケアと同じなんですね。

食生活では、朝をしっかり食べること。食事の7割以上は体温維持に使われていますから、まずは朝食で体温をきちんと上げていく。特に、タンパク質をとると体温が上がりやすくなります。トーストとコーヒーなら、そこにゆで卵やチーズ、ヨーグルトをプラスする。おにぎりに豆腐のお味噌汁、など、あたたかいものをとるのもいいですね。女性ホルモンに似た働きをする大豆イソフラボンを摂取することもおすすめします。更年期になると、女性ホルモンの減少によって、血管のしなやかさも失われてきます。そうすると血のめぐりも悪くなり、熱を末端まで運べなくなってくる。冷えにもつながるわけです。

そして旬のものをバランスよく食べる。私は1年を通して、夜はお鍋が多いんですよ。野菜を中心に魚介や肉類、豆腐などたくさんの食材をとれるし、あたたかいし、スープで余すことなく栄養を取れますから。緑黄色野菜を中心にしたバランスのよい食事は血液もサラサラにしてくれます。

運動は、踏み台昇降のようなものでいいので、コツコツ続けることが大事。駅などではできるだけ階段を利用したり、1駅分歩いたり、など、日常生活の中で無理なく取り入れられるといいですね。電車を利用する人はまだしも、ちょっとコンビニに行くのにも車に乗って…という生活をしている人は、特に意識して運動したいものです。

おとな温活のポイントその2 こまめな運動

お風呂は、38~40℃のぬるめのお湯にゆったりと。熱いお湯にささっと、や、シャワーだけだと、からだの表面しかあたたまりません。ぬるめのお湯にゆっくり浸かってリラックスすると、副交感神経が優位になって末梢血管が十分に開き、全身の血めぐりが良くなります。水圧や浮力の効果も加わって血のめぐりがよくなれば、からだの隅々まであたたまり、睡眠の質も向上します。

冷え症になる背景には、夜型生活やスマホの普及、デスクワークの増加、運動不足など、現代人の生活習慣も深く関係していると考えられます。意識して生活習慣を整えることで、体質を改善し、冷えの症状も緩和されていきます。ぜひ、できることから始めてください。

おとな温活のポイントその3 五感でリラックス

―――漢方専門医が教える、おとな世代の「冷え」事情 <前編>はこちら。

  • 渡邉賀子
  • 渡邉賀子(わたなべ かこ) 医学博士・漢方専門医。熊本市 医療法人祐基会 帯山中央病院 理事長。「麻布ミューズクリニック」名誉院長。1997年に北里研究所にて日本初の「冷え症外来」を開設。多くの女性が悩む冷え症の診断と治療にあたる。2004年女性専門外来「麻布ミューズクリニック」を開院。著書に『オトナ女子のためのホッと冷えとり手帖』ほかがある。
取材・文/剣持亜弥
イラスト/中根ゆたか
デザイン/日比野まり子