2022.09.14

【特集】五感フル活用のハッピーウォーキング #01

トレーナー山本邦子さん/自律神経を整える、更年期世代のための歩き方

OTONA BODY BOOK 編集部

――「たくさん歩く」=「健康」と簡単に考えていませんか? ウォーキングは自分に合った指標や歩き方を意識すると、短時間でもからだと心が整います。アスリートをはじめ、多くの人のからだに向き合うアスレティックトレーナー・山本邦子さんにポイントを聞きました。

アスレティックトレーナー・山本邦子さん

骨の健康を考えるなら
1日7500歩を目安に

歩くことを楽しんでいる方には、「とにかく1万歩!」を目指すケースをよく聞きますが、実はそれほどこだわる必要はありません。科学的に立証された歩数の目安も、実はないのです。ではおとな世代の女性の場合、健康のために何を目安にウォーキングと向き合うのがいいのでしょうか。

骨粗しょう症予防のためのウォーキングでは、約7500歩を提案しているものが多くみられます。すでに7500歩はクリアしているという方は、現在の歩行数に2割加えると効果的でしょう。

さらに骨密度を増加させるためには、骨への負荷を上げるために、手にウェイトを持って歩いてみるなど、通常の歩行よりも少しだけ刺激を加えるとよいでしょう。外を歩くこと、つまり太陽の光を浴びることは、造骨を助けるビタミンDを蓄えるためにはとても大切なこと。夏場は日陰で30分、冬場は太陽の光を1時間くらい浴びることも意識してみましょう。

また、ストレスなどによる自律神経の乱れを整える方法として、軽いジョギングを組み合わせる歩き方もあります。下の図を参考に、自分の目的や体力や、かけられる時間に応じて組み合わせることをおすすめします。

「おとな世代」のウォーキングは目的に合わせて

更年期の不調には
自律神経を整えるウォーキング

上で紹介した歩き方に、「自律神経を整える」目的を入れたのには、わけがあります。更年期世代が体験する不眠や体調不良、尿もれ、動悸や火照り、そして体脂肪の増加まで、多くの場合はホルモンの影響であり、自律神経の乱れに起因しているといえます。更年期世代が健康のために「歩く」なら、 自律神経を整えることを目指して、快適な生活のために活用してはいかがでしょう。

リズミカルな運動は、興奮した状態(交感神経が優位)と、落ち着いた状態(副交感神経が優位)を交互につくるため、自律神経のよいコントロールにつながります。多くの方が自律神経は安定しているほうがいいと思っているかもしれませんが、交感神経と副交感神経を行ったり来たり頻繁に揺らげることが、とても重要なのです。

ちなみに自分の自律神経の状態は、呼吸を目安にして把握することができます。呼吸数には個人差があるので、朝起きて1分間の呼吸数をカウントして、自分の平均値を知っておくといいでしょう(下の図を参照)。自分の心とからだの状態に耳を傾けながら、無理のないウォーキング計画を立てることが大切です。

からだと心の状態を把握して、無理ないウォーキング計画を。1分間の呼吸数を3日ほど継続して測り、平均数を把握しておく。平均に比べて深くゆっくりした呼吸ができている日は、自律神経の切り替えができているということ。息が上がる軽いジョギングを増やしてみましょう。呼吸数が平均より多い日なら、呼吸も浅く早いので、無理をせず時間を短くするなどの工夫を。スマートウォッチのアプリで心拍数を測ることでも把握できます。

大股で地面を蹴って
ぽっこりおなかにアプローチ

歩き方で心がけたいのは、脚を大きく振るようにして、足裏で地面をしっかり捉えるということです。足の裏から連動して、ふくらはぎの筋肉の収縮がおこり、骨盤底筋群に刺激が入って恥骨の部分が動きます。すると、ここにつながる腹直筋下部が刺激され、ぽっこりおなかにアプローチできます。この腹直筋下部は、おへその下あたり、筋肉の一番奥の層にあるため、腹筋運動などで鍛えるのはとても難しいもの。それが、「歩く」だけでできるのですから、日常で活用しないのはもったいないですよね。

歩いて腹直筋下部を刺激

童心に帰って
心が弾むウォーキング

そして何よりウォーキングで大切なのは、季節を感じながら、童心に帰って楽しむことです。そこで何かを「感じる」ということは、脳に余裕があるということ。脳は常に刺激を求めているので、歩きながら感覚を刺激していけば「脳トレ」にもなります。

私は知らない街に行くと、おしゃれなカフェ、雑貨店、書店を探して歩いてみます。さらに道路の白線や縁石の上を、集中して歩いてみることも。こんなふうに、歩くコースや通りごとに、お気に入りを見つけたり、テーマを設けて歩くのも、おすすめです。五感をフル活用して、脳とからだが喜ぶ「自分なりのウォーキング」をぜひ探してみてください。

参考文献
I-Min Lee, Eric J. Shiroma, Masamisu Kamada; et al. Association of Step Volume and Intensity With All-Cause Mortality in Older Women. JAMA Intern Med. 2019; 179(8):1105-1112.
Catrine Tudor-Locke, Cara L Craig, Yukitoshi Aoyagi; et al. How many steps/day are enough? For older adults and special populations. Int J Behav Nutr Phys Act. 2011; 8:80.
Sabrina Tim and Agnieszka I. Mazur-Bialy. The Most Common Functional Disorders and Factors Affecting Female Pelvic Floor. Life(Basel). 2021 Dec; 11(12):1397.
Hanno Steinke, Dina Weirsbicki, Anna Volker; et al. The facial connections of the pectineal ligament. Clinical Anatomy. 2019 Aug; 32: 961-969.
Physical Activity for Different Groups. Centers for Disease Control and Prevention.
Walking for health. NHS.

―――【特集】五感フル活用のハッピーウォーキングの次回は、「脳トレ感覚で楽しむお散歩コース」をお届けします。#02<京都編>はこちら#03<鎌倉編>はこちらです。

【特集】五感フル活用のハッピーウォーキング

  • 山本邦子
  • 山本邦子(やまもと・くにこ), PhD., ATC 博士(保健学)、アメリカNATA-BOCアスレティックトレーナー、A-Yoga Mind and Body Movement Therapy主宰、Kyoto MBM Labo主宰(京都 修学院)、フェルデンクライスプラクティショナー。カンザス大学教育学部運動科学科アスレティックトレーニング専攻で学士号、運動力学とスポーツ経営管理学の2分野で修士号を修了後、同大学で常勤アスレティックトレーナーとして勤務。帰国後、劇団四季などで活動。大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学群臨床支援系領域で博士課程修了。
取材・文/三宮千賀子
写真/合田慎二
イラスト/中根ゆたか
デザイン/日比野まり子