
前編ではせたがや内科・神経内科クリニックの久手堅 司先生に低気圧頭痛をはじめとする気象病が起こるメカニズムやどんな症状があるのかについてお聞きしました。今回は、気象病による不調を自分でケアする方法を紹介します。上手に付き合って、低気圧頭痛がひどくなりがちな、梅雨や台風のシーズンを乗り切りましょう!
久手堅先生が、頭がずんと重いときや痛みが続くときに、まず実践してほしいというのが簡単なストレッチやマッサージ。気象病の症状で最も多い、頭痛、首肩こり、めまいはこれでかなり改善が見込めるはず!

・頭全体をつかむようにして軽くもんだりたたいたりする
・目をとじて瞼の上を指2~4本で30秒くらい軽く押す
・こめかみの痛いところを2本指で30秒軽く押す
・耳たぶを水平や斜めに引っ張って、前に5回、後ろに5回ゆっくり回す
ストレッチやマッサージは、わずか1、2分で効果大
「上記はすべて頭痛やめまいの改善に効果的。手のひらで温めながらマッサージをするのもいいでしょう。マッサージする時間は1、2分でいい。それだけでも、きっと改善を実感できるはずですよ」
できれば、こういったストレッチやマッサージは習慣にするといいと久手堅先生。
「習慣にしてほしいのは、不調になる前にやるほうが効果があるからです。とくにデスクワークの多い人は姿勢が悪くなりがち。骨格のゆがみはそこに通っている自律神経のバランスを乱す原因に。自律神経が整っていないとより気象変動の影響を受けやすくなります。1時間仕事をしたら、1、2分休憩をしてマッサージやストレッチをすれば、疲れをリセットできます。ポイントはこういったリセットのコツコツ貯金。こまめに疲れを解消しておくことでどっと疲れを溜めこみ、気圧が下がったときに不調を招く……という事態を避けることができる。溜め込まない工夫をしてみてください」
睡眠と食事習慣…規則正しい生活が一番の対策
溜め込まないためには生活習慣の見直しもしてみてほしいと久手堅先生。
「低気圧頭痛をはじめ気象病予防には規則正しい生活をすることです。早寝早起きといい食習慣を。朝、太陽の光とともに起き、夜も夜更かしせず早く寝ることで、自律神経のバランスが整い、それだけで気象変動にからだが対応しやすくなります。とくに睡眠は重要です。中でも、寝入りばなの90分は深睡眠の時間で、からだの痛んだ細胞が修復される大事な時間。しっかりいい睡眠をとるようにしてください。スマホやテレビの見すぎで夜更かしはしないほうがいいでしょう。睡眠には入浴も大事です。シャワーで済まさずしっかり湯船に浸かり入浴をすると睡眠導入もスムーズに。いい生活習慣を自分のライフスタイルに合わせて考えてみてください」

暮らしで見直したいのは、食事の面でも。
「最近、脳腸相関という言葉がよく聞かれるようになりました。脳と腸は連動していて、腸が不調だと脳も不調となり、自律神経も不調をきたします。ヨーグルトなど腸内細菌を活性化させる食べ物を積極的に摂ることで、脳を健康にし、自律神経の正常な働きにもつながります」
薬を使うなら漢方の五苓散をおすすめ
それでもどうしてもやってくる低気圧頭痛……。頭が痛い時には痛み止めの薬を飲んでもいいのでしょうか。
「痛み止め薬はだんだん量が増え、薬物乱用頭痛(薬剤の使用過多による頭痛)を引き起こすことがあるため、多用することは避けたいですね。女性は生理痛などで痛み止め薬を飲むことが多いので、さらに服用の頻度が上がる……というのはあまりいい状態ではありません。<前編>でおすすめしたアプリ『頭痛ーる』では服薬記録をつけることもできます。そういうものを利用して、月に何回服用しているか、どういう周期で服用しているかチェックしながら使ってみてください。月に10回以上も飲んでいる、などであれば少し問題。慢性化している可能性があります。きちんと医療機関にかかって診療を受けたほうがいいでしょう。また、安心のために常備薬が必要なら、日常的に使える漢方薬をおすすめしたいです。当院では〈気象病〉でやってきたほとんどの患者さんに漢方薬の〈五苓散〉を処方して、多くの方が症状の改善がみられました」
2回にわたって気象病の原因や対象法をお伝えしてきました。今まで“なぞの不調”だと思っていた頭痛やめまい、体調不良の原因が「気象変化のせい」だとわかっただけでも安心した人は多いのではないでしょうか。
「原因がわかれば対策もあります。最近は、気象病の認知も広がっていて、気象病外来を設ける病院も増えてきましたので、どうしてもつらいというときは受診をおすすめします」
ただし、と久手堅先生が強調するのは「気象病だと判断する前に、頭痛やめまい、動悸などの不調は、一般の内科などの診断も受けてみること。気象病以外の病気が隠れている可能性もあるからです。天気に関係なく頭痛が続くときは気象病以外の可能性も疑ってみる必要があります」
気象病は、周囲の理解が得られないことも辛さのひとつ。でも、少しずつ理解が広まっています。もしあなたのまわりに、天気がどんよりしている日に「頭が痛い」と言う人がいたら「もしかしたら、気象病かもよ?」と声をかけてあげるだけも、その人の健康やライフスタイルへの意識を変える大きなきっかけになるかもしれません。
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久手堅 司(くでけん・つかさ)
せたがや内科・神経内科クリニック院長。医学博士。気圧予報・体調管理アプリ「頭痛ーる」監修医師。「自律神経失調症外来」などの特殊外来を立ち上げ、「気象病・天気病外来」ではこれまで5000名を超え、患者目線で行う診察とわかりやすい解説がSNSやメディアで話題を呼んでいる。著書に『気象病ハンドブック 低気圧不調が和らぐヒントとセルフケア』(誠文堂新光社)、『最高のパフォーマンスを引き出す自律神経の整え方』(クロスメディア・パブリッシング)など。
https://setagayanaika.com/
https://twitter.com/kudekentsukasa
イラスト/naohiga
構成/梅原加奈
デザイン/WATARIGRAPHIC