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  • 2022.12.21

刺繍作家・神尾茉利さんに教えてもらう手芸の愉しみ

初心者必見! かわいいワンポイント刺繍も教えてもらいます

刺繍作家・神尾茉利さんに教えてもらう手芸の愉しみ初心者必見! ワンポイント刺繍のコツも教えてもらいます

カラフルな色使いとストーリー性のある作品で、手芸ファンだけでなく幅広い層から注目を集める刺繍作家の神尾茉利さん。代表作である動物の刺繍作品〈ひみつのはなし〉をはじめとした、今にも動き出しそうな生き生きとした楽しい刺繍のアイデアは、どんなところから生まれるのでしょう? 簡単にできる刺繍のコツや手を動かすことの愉しさについて、神尾さんにたっぷりお話を伺いました。

刺繍をするときのコツは色使いと余白の置き方

刺繍の制作活動を始めて10年以上になるという神尾さん。美術系大学のテキスタイルデザイン科で染めや織りを学んでいくうちに、布にいろんな柄をつけてみたい、と思ってはじめたのが刺繍でした。

「もともと私の母が手芸が好きだったんです。その影響で私も小学生の頃からミシンで洋服を作ったりしていました。その後、進んだ大学で染めや織りを学び、それも楽しかったのですが、自分に一番向いていたのが一つ一つ手を動かす刺繍だったのだと思います」

はじめて作った動物シリーズの刺繍がファッション雑誌のニューカマー特集で取り上げられ、それが転機に。刺繍作家としてのキャリアをスタートさせました。

作品を作るときは、物語を体感できるものがいいと思っています。“かわいいけれどどこか怖い”とか単純にかわいいだけではない感情を感じてほしくて。作品を見た人が何か想像できるような余白を作ることを大事にしています」

刺繍作家・神尾茉利さん
刺繍作家・神尾茉利さん

神尾さんの刺繍は、色使いの巧みさも特徴のひとつ。かわいいのに洗練されていて、やさしさも感じられます。

「最初にスケッチをします。布に下描きはせず、それを見ながら刺繍をします。1色だけで表現する作品もありますが、通常は7種類ほど色を使います。例えば、今回は赤と黒は使わない、紫を多めに使う、という感じで、メインになる色と使わない色だけを決めるとまとまりやすいです。あとは、決めすぎずに絵を描くような感覚で刺していきます。同じ色でもさまざまなグラデーションの糸があるのでカラーごとに糸を整理して、そのときの気分で合うなと思うものを選んでいます」

動物シリーズの刺繍
動物シリーズの刺繍
同じ色でもさまざまなグラデーションの糸があるのでカラーごとに糸を整理

クッションやワッペンに。刺繍はどんなものにもできる

最近は自身のホームページで好きな名前を刺繍してもらえる「お名前ワッペン」のオーダーを不定期で受けているそう。刺繍に選ぶモチーフは、そのときどきにブームのようなものがあるそうです。

「山の刺繍をしていたときは山ばかり刺してました(笑)。最近はベタなモチーフが好き。このあとご紹介するハートの刺繍やロゴマークだとかパッと見てかわいらしく元気が出るものに惹かれます。刺繍は好きな場所に刺すことができますから。かわいいなと思うモチーフをひとつ自分で選んで、自分のアイコンのように洋服につけたり、ポーチにつけたりしてもいいと思います。クッションに刺繍をすれば、オリジナルのものができて愛着がわきますよ」

お名前ワッペン
ハートの刺繍

ひと針、ひと針刺すことで、手やからだを動かす時間の大切さを感じます

刺繍するモチーフを考えるために最近しているのはスクラップブックづくり。インターネットで検索せずに、あえてノートに貼ってまとめると自分の好きなものや作りたいものが可視化されるのだそう。

「刺繍の色味やモチーフ、柄を考えるために、国内外の雑誌をスクラップしています。少し赤色が入るとかわいいとか、映画に出てくる部屋のなかにある刺繍のような感じにしたいなと、具体的なイメージが湧きます」

刺繍するモチーフを考えるために最近しているのはスクラップブックづくり

「外国でよくあるガレージセールで集めてきたようなものを売っているお店が好きなんです。刺繍の作品って、そういう雑貨的な感覚もあります。ずっと残って100年先の人が自分の作品を発掘してくれたら楽しそうだなと思っています。刺繍は100年後も残ると思うし、民芸の品などをみると、昔の人たちも同じように糸を縫って楽しんでいたと思うと楽しくなります」

神尾さんが考える刺繍の魅力は、誰でも、どこでも揃えられる材料でできること。集中して、次の工程を追うことで無心になれることが気持ちがいいのだそうです。

「ワークショップなどで同じように作りましょうと言っても、みなさん違うように仕上がります。どうしても自分らしさが出てしまうんですよね。手を動かすことは自分自身が投影されますし、同じ人が同じものを作っても気分や体調によってできあがるものが変わるのも面白いです。オートクチュール刺繍のような、美しい刺繍のジャンルもあると思うのですが、私たちが作るなら、多少不器用でもいい。刺繍をして無心になっている、その時間が楽しくて大切にできればそれでいいのではないかなと思います」


「集中して、針を進めることで目の前で作品ができあがっていく充実感もいい」と神尾さん。「私も最近、子どもと陶芸を体験したり、筋トレをはじめたりしたら、すごく楽しくて(笑)。だから、もし刺繍をしたことがないのなら、新しくなにかをはじめる候補のひとつとして、手を動かしてみてもらえたらうれしいです。今回はとても簡単な刺繍のアイデアをご紹介したいと思います」

手始めに、ワンポイントモチーフの刺繍をしてみよう

今回、教えてもらうのはハートモチーフの刺繍の仕方です。手持ちのハンカチやTシャツ、ポーチなどに、簡単に刺繍できます。用意するものは、刺繍針、刺繍糸、刺繍枠(ハンカチなどに刺繍する場合)、消せるペン(チャコペンなどでも)、ハサミ。これだけです。

ハートモチーフの刺繍の仕方

刺繍の隙間が開かないように、最初に横向きのサテンステッチを入れるのがポイント。サテンステッチとは、面を糸で埋めるように刺す技法。形が丸くなりすぎないように気をつけて。立体的で愛らしい、自分だけのオリジナルアイテムになります。

① 刺繍枠に布を挟み、好みの大きさのハートを消せるペンで描く。今回のハートは1cm四方サイズ。

1 繍枠に布を挟み、好みの大きさのハートを消せるペンで描く。今回のハートは1cm四方サイズ。

② 刺繍糸の束から3本取り分け、針に糸を通して糸の端を玉結びする。ぷっくりとした立体的なハートにするために、布の裏から針を入れ、中央から下にかけて4本、横に向かって針を刺すサテンステッチをする。

2 刺繍糸の束から3本取り分け、針に糸を通して糸の端を玉結びする。ぷっくりとした立体的なハートにするために、布の裏から針を入れ、中央から下にかけて4本、横に向かって針を刺すサテンステッチをする。

③ ハートの下の先端を尖らせるため、①で描いた下絵よりやや下の部分から針を刺す。

3 ハートの下の先端を尖らせるため、1で描いた下絵よりやや下の部分から針を刺す。

④ 中央の窪みに向かって、縦に針を刺す。

4 中央の窪みに向かって、縦に針を刺す。

⑤ ③の差し入れた位置のやや上から縦にラインを入れてハートの形を作っていく。次第に滑らかな曲線になるよう、右側に5本サテンステッチをする。

5 3の差し入れた位置のやや上から縦にラインを入れてハートの形を作っていく。次第に滑らかな曲線になるよう、右側に5本サテンステッチをする。

⑥ 左右対称になるように、右側のステッチと高さを揃えながら、左側にも5本サテンステッチをする。

6 左右対称になるように、右側のステッチと高さを揃えながら、左側にも5本サテンステッチをする。

⑦ 刺し終わったところで玉留めをして、糸に針を通して糸をカットして完成。

7 刺し終わったところで玉留めをして、糸に針を通して糸をカットして完成。

神尾さんが提案するハートのモチーフは、初心者でも簡単にできつつ、仕上がりはとても印象的。柄物のポーチにあえてたくさん並べたり、Tシャツの首元にワンポイントで入れてみるのもおしゃれです。

神尾さんが提案するハートのモチーフは、初心者でも簡単にできつつ、仕上がりはとても印象的。柄物のポーチにあえてたくさん並べたり、Tシャツの首元にワンポイントで入れてみるのもおしゃれです。
この冬、何かをはじめたいと思うなら、針と糸さえあればできる刺繍をはじめてみてはいかがでしょうか? 

この冬、何かをはじめたいと思うなら、針と糸さえあればできる刺繍をはじめてみてはいかがでしょうか?

  • 神尾茉利(かみお・まり)
  • 神尾茉利(かみお・まり) 刺繍・絵・言葉によるクライアントワーク、テキスタイルプロダクト制作、インスタレーション作品の展覧会などで活動。“言葉を持たない物語”をコンセプトに刺繍で動物を表現する「ひみつのはなし」を2014年より本格化し発表の場を広げている。著書に『さがそ!ちくちくぬいぬい』(学研教育みらい)、『刺繍小説』(扶桑社)ほか。
    http://kamiomari.com/
    Instagram@kamio_mari
取材・文/赤木真弓
撮影/松元絵里子
構成/梅原加奈
デザイン/WATARIGRAPHIC