人生を輝かせてくれる「いい声」とは?

特集/のど、いたわってますか?

先生/本橋 玲(東京医科大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科 講師)

---- 大切なのは「潤い」「筋力」「弾性」――つまり、のどや声も、肌と同じようにケアすれば、つややかさやハリ、若々しさが保てるということ。そう考えると、意識も高まりますね。最終回は、のどと声に関する新情報とともに、「そもそも“いい声”とは?」という、根本的なことについても考えてみます。東京医科大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科の本橋 玲先生にお話をうかがいました。

人生を輝かせてくれる「いい声」とは?

声帯に弾力を与えるヒアルロン酸注射も

のどや声帯に関する医療も進歩を続けています。

加齢に伴う声の変化の原因である「潤いの減少」「筋力の低下」「弾性の低下」のうち、「潤いの減少」「筋力の低下」については、セルフケアで改善できるとお話ししました。残りの「弾性の低下」を改善するために行われているのが、声帯へのヒアルロン酸注射です。

肌と同じで声帯も、加齢に伴いヒアルロン酸が失われてしまうと、保水力が落ちてシワシワになり、萎縮していきます。そうすると声は低くなり、枯れてしまいます。そこに外からヒアルロン酸を補って弾力を取り戻すのが、ヒアルロン酸注射です。あごに当たらないようカーブさせた注射針を使って、のどぼとけのところから注射をします。これは、東京医科大学グループが初めて世界で報告し、始めた方法で、今では多くの国で採用されています。

ただ、残念ながら外から入れたヒアルロン酸はいずれ吸収されてなくなってしまうので、その効果は限定的です。ヒアルロン酸のサイズにもよりますが、持続期間はだいたい1〜3か月くらいでしょうか。

もうひとつ、最近注目しているのが「けいれん性発声障害」です。日本ではなぜか若い女性に多く、声を出そうとしてもうまく出せず、のどが詰まったような話し方になり、ひどい場合は苦しげに絞り出すような声になってしまいます。声帯そのものの見た目には異常がなく、緊張する場面などでよく起こるので、以前は精神的な病気だと考えられていました。3年前にようやく診断基準ができ、注射や手術など治療法も増えてきました。マイナーな病気ではありますが、原因がわからず悩んでいる人もいますので、認知度が上がってくれればと思っています。

その「いい声」はあなたの本当の声ですか?

声は、その人の印象に影響を与えるものです。しかし、だからといって、印象をよくしようと声を出すときに無理をするのはおすすめしません。特に「女性は高い声のほうが女性らしい、かわいい」という世の中の思い込みがあるのか、わざと高い声でしゃべっているのを聞くと、心配になります。どうしてどのお店でも、女性店員さんの「いらっしゃいませー」は似たような高い声なんだろう、と思ってしまうのです。

自分本来の声の出し方ではなく、小手先で高い声を出し続けていると、のどに負担がかかります。発声方法もだんだんとおかしくなり、そのうち上手くしゃべることができなくなるリスクだってあります。

世間一般の「いい声」のイメージに無理をしてまで合わせようとせず、自分の声に自信をもってしゃべる。まずはそれだけで、魅力的に見えるはずです。

のどや声がどんな状態にあるかということは、QOLにも関わってくること。ぜひ、この機会に意識を向けていただいて、本当の意味での「いい声」で毎日を過ごしていただきたいですね。

----トラブルでもない限り、なかなか目を向けることのない「のど」と「声」ですが、実は、私たちが生きていくうえで、身体的にも社会的にも、とても大切なものだと改めて学ぶことができました。早速今日から、もっともっと、いたわってあげましょう!

取材・文/剣持亜弥
イラスト/坂田優子
デザイン/WATARIGRAPHIC
  • 本橋玲
  • 本橋玲 東京医科大学病院耳鼻咽喉科・頭頸部外科講師/新宿ボイスクリニック医師。ボイスクリニックなど声に特化した外来で、のどの病気や声にまつわる疾患、悩みについての治療、指導を行う。日本耳鼻咽喉科学会認定専門医・耳鼻咽喉科専門研修指導医、日本頭頸部外科学会頭頸部がん専門医、日本気管食道科学会認定気管食道科専門医。