少しの意識と工夫で糖質を上手に制限

特集/糖質制限、ホントのところ

先生/前川 智(長野松代総合病院ダイエット科部長)

---- 世の中が便利になったことで活動量が減った現代人にとって、糖質はエネルギー過剰の“非常食”――。ダイエット専門医の前川智先生は、糖質過多の食生活に警鐘を鳴らします。最終回となる今回は、日々の食事で気をつけたいことを具体的に教えていただきます。無意識の糖質摂取を無理なく減らしていくために、今日からできる行動とは?

少しの意識と工夫で糖質を上手に制限

手軽に食べられるもの=糖質の塊!?

おにぎり、サンドイッチ、ピザ、パスタ、ラーメン、うどん、菓子パン、そしてスイーツ。安くて手軽に食べられるものは、たいてい糖質の塊です。さらに日本人は、丼物や麺類、寿司など、糖質の多い単品メニューを好んで食べる傾向にあることもあり、糖質過多に陥りがちです。

私はさまざまな研究結果から、最終的に糖質摂取量を1日120g以下、総エネルギー量に対する比率を30%以下に、ということを推奨しています。しかし、茶碗1杯150gの糖質量は53.4g。ショートケーキ1カット140gの糖質量とほぼ同じです。3食ごとに、ごはんとデザートを食べていたら、あっという間にオーバーです。

活動量と糖質摂取量のバランスをとるには、間食をやめる、そして夕飯の主食を抜く、というのがおすすめです。さらに言うなら、寝る3時間前は何も食べないのが理想です。活動量が落ちる夜は、食べた分を消費できないので、余ったエネルギーはそのまま脂肪になります。しかし、食べてから寝るまでに3時間以上あけると、夕食でとったエネルギーはある程度消費された状態で寝ることができますので、就寝中は脂肪が燃え、痩せやすくなります。

日中の食事は、主食控えめ、おかず多めで。朝は野菜やたんぱく質中心の献立にして、主食をとる場合は昼食でとり、ごはんなら100g、パンなら80g以下に。エネルギー不足を回避するために、たんぱく質は意識して多めにとってください。肉ばかり食べて悪玉コレステロールが増えすぎるのも、心筋梗塞などのリスクが高まりますので、魚介類や大豆製品などもバランスよく。脂質は、質の良いものを適量で、が基本です。

こうした食生活の改善は、すでに糖質の過剰摂取が常習化している患者さんだけではなく、常習化を未然に防ぎ、健康なからだを維持するためにも、非常に有効です。

行動を変えればからだも社会も変わる!

とはいえ、自炊ができない、外食が多いなど、食事内容をコントロールしにくい環境にいる人は、「そうは言っても…」という気持ちになると思います。ファストフードやテイクアウトなど手軽に食べられるものは、どうしても糖質が多くなってしまいますが、そんな中でも、できることはあります。

コンビニエンスストアには、糖質制限が話題になって以降、低糖質メニューが増えています。栄養成分表示を見て、糖質量の少ないものを選びましょう。サラダチキン+サラダはおすすめ。そして、スイーツの棚のほうには目を向けないように…。滞在時間を短くすることが、余計な買い物をしない秘訣です。

ファミリーレストランや定食屋さんでは、ごはんを抜きにするか、減らしてもらう。丼ものや麺類などの単品メニューではなく、タンパク質のおかず・副菜・汁物がセットになった定食メニューを選びましょう。

そして、何を食べるにしても「早食い」や「大食い」、「ながら食べ」もよくありません。食事に集中し、ひと口ごとに30回噛んで、20分以上時間をかけて食べることで、正常な満腹感を得ることができます。そして腹八分目を心がけるようにしてください。

メニューも多く、手軽に食べられて、すぐに満足が得られる。見回せば、世の中には糖質の誘惑だらけです。一緒に食事をとる家族やまわりの人につられて、ということもあるでしょう。旅先でつい…なんてことも、仕方ないと思います。そんなときは、1日で、あるいは数日で、トータルで糖質量のバランスを取るようにしてください。

とにかく、糖質摂取を常習化させないようにしていくことが大切なのです。私は医師として、患者さんが食生活を改善することなく、糖尿病、高血圧、脂質異常症、心筋梗塞、脳卒中、がんなどの生活習慣病で病院に通い、薬を飲み続けている状態を見ると、心が痛みます。意識を変え、行動を変えることで、ひとりひとりのからだも、社会全体も、必ず健康になっていくと信じています。将来、“患者にならない”ためにも、ぜひ、糖質をきちんと理解し、上手に食生活をコントロールしてほしいですね。

----忙しいから、面倒だからと、手軽に素早く食事を済ませていると、「今日食べたもののほとんどが糖質だった…」という状態になりがち。買い物の時点から行動を変えて、糖質制限を生活のルーティンにうまく組み入れる。それが無理なくできる糖質制限ライフのようです。

取材・文/剣持亜弥
イラスト/坂田優子
デザイン/WATARIGRAPHIC