ゴースト血管は骨粗鬆症や認知症の要因にも!?

特集/驚くべき血管の役割!

先生/高倉伸幸(大阪大学微生物病研究所 教授)

----毛細血管がゴースト化し、酸素や栄養が全身に行ゆき渡らなくなると、冷え、むくみ、肌のしわ、たるみといった症状が表れるという話を前回しましたが、骨粗鬆症と認知症のリスクを高めることもわかってきました。特に骨粗鬆症は、女性ホルモンの影響も加わるため、女性の発症率が高いのが特徴です。今から習慣にしたい、簡単で効果的な毛細血管のケア法を引き続き高倉先生に伺いました。 ゴースト血管

加齢の影響を受けやすい骨は、
早期ケアで骨粗鬆症を予防

脳内でつくられるたんぱく質の一種アミロイドβは、通常脳内のゴミとしてすぐに排出されるのですが、毛細血管がダメージを受けると排出されずに蓄積されてしまいます。蓄積されたアミロイドβは、タウタンパクのリン酸化を介して、神経細胞やシナプスをゆっくり時間をかけて攻撃。神経細胞が機能しなくなると脳が萎縮し、認知症を発症すると言われています。毛細血管がダメージを受けてから脳が萎縮し始めるまで10年以上かかることから、早めに毛細血管のケアを始めれば、認知症の発症を遅らせることができるのです。

骨は、骨をつくる骨芽(こつが)細胞と骨を壊す破骨(はこつ)細胞によって、日々新しくつくられています。毛細血管から分泌される分子の働きによって、骨はターンオーバーを繰り返しているのですが、この分子は加齢によって減ることがわかってきました。加齢による影響は、これだけではありません。女性の血管は、女性ホルモンのエストロゲンによって守られているのですが、閉経後はこのエストロゲンが急激に減少します。そのため、エストロゲンの支配下にあった血管が変性を受けやすくなり、骨形成に影響を与え、骨密度が変化します。骨粗鬆症のリスクが高くなることを認識し、早めに日々の生活を見直したいところです。

運動と入浴で全身の血流を上げて、
ゴースト化しにくい血管に

毛細血管の機能低下を改善するには、とにかく血流を上げること。有効なのは、運動と入浴です。毛細血管の血管内皮細胞は、血液の流れを感知することができるのですが、血液が一定のリズムで流れているときは、細胞間の隙間から必要以上に酸素や栄養が漏れないように自己防衛機能が働きます。この状態が続くと、ダメージを受けた毛細血管周囲の細胞が活性化し、血管構造が修復される可能性が高まります。若い人のほうが修復力は高いとはいえ、いくつになっても修復できますから、心拍数が上がりすぎないウォーキングやその場で行うスキップなどを習慣にして、全身の血流を上げましょう。マラソンなどの過度なストレスを与える運動は、血管に悪影響を与える活性酸素が出てしまうので、筋肉量の少ない人は避けるのがベター。副交感神経が活発になると、毛細血管の血流がアップすることもわかっているので、アロマオイルなどをかいでリラックスするのもおすすめです。

食生活の改善も重要です。老化を促進する要因「糖化」(体内で不要な糖とたんぱく質が熱によって結びつき、『AGEs(糖化最終生成物)』という老化物質を生成する作用)を抑制し、血糖値が上がりにくいものをバランスよく食べる。さらに、毛細血管の内皮細胞同士の接着を誘導して、壁細胞と血管内皮細胞の接着を促す「タイツー(Tie2)受容体」という物質を活性化することが明らかになっている、シナモンやルイボスティー、ヒハツを積極的に摂り入れてみてください。

睡眠中に毛細血管の修復が行われるため、睡眠不足もすぐに改善したいポイントです。毛細血管に限らず、健康なからだづくりに極端なことをする必要はありません。当たり前のことを当たり前に行えばいいのです。

----頭皮の存在を忘れがちですが、毛根の下にも毛細血管があります。酸素や栄養が運ばれないと髪がパサついたり、細くなったり薄毛の原因にもなるので肌同様、外からのケアに毛細血管ケアも加えることが、美容面においても新常識になりそうです。
高倉伸幸

高倉伸幸 大阪大学微生物病研究所 情報伝達分野 教授。医学博士。血管形成の分子メカニズムから得た成果を、がん治療や再生医療に役立てる研究に力を注いでいる。2月15日に発売される『ゴースト血管をつくらない33のメソッド』(毎日新聞出版)ほか著書多数。

取材・文/山崎潤子
イラスト/はまだなぎさ