「睡眠力」も低下する!?

特集/眠りの真実

先生/遠藤拓郎(東京睡眠医学センター センター長)

----睡眠時間が極端に少ないわけではなく、常にちょっと足りない「かくれ不眠」の人は、ストレスが溜まりやすい、仕事が思うようにはかどらない、引きこもりやすい、などの症状が見られるという話をしましたが、日常生活に支障をきたすようであればそれは「睡眠障害」です。調布、銀座、青山にある睡眠専門クリニックを統括している遠藤拓郎先生に「睡眠障害」の症状と原因、受診のタイミングを伺いました。

「肌力」「体力」だけでなく、
「睡眠力」も加齢によって低下する

100種類以上ある睡眠の病気の中で、代表的なものが不眠症です。症状には、なかなか寝つけない「入眠困難」、途中で何度も目が覚めてしまう「中途覚醒」、目覚ましをセットした時間より早く目が覚めてしまう「早朝覚醒」、ぐっすり眠った感じがしない「熟眠障害」があります。

不眠の原因となる疾患や症状には、加齢、不安障害やうつ病、統合失調症などの精神疾患、ステロイドや降圧薬などの薬剤、睡眠時無呼吸症候群、むずむず脚症候群、かゆみ(アトピー性皮膚炎など)、痛みがありますが、眠れない日が続くと"また眠れないかも......"と不安になり、余計に眠れなくなる「精神生理性不眠」と加齢が原因であることがほとんど。10〜20代のころは8時間くらい平気で寝続けられたのに、40代になると長時間寝られなくなりますよね。これも、加齢によって睡眠力が低下しているからなのです。

まずは生活習慣を見直し、
改善されなければ受診を

下記のような生活習慣の工夫を2週間以上行ってみてください。それでも、寝付くのに30分以上かかる、夜中に3回以上目が覚める、目覚まし時計をセットした時間より30分以上早く目が覚める、日中3回以上眠くなる、この4つのどれかひとつでも残る場合は睡眠外来を受診しましょう。

生活習慣の工夫①<睡眠時間と光>
・0時〜6時を中心に7時間程度寝る。
・平日はベッドに入る時間と起きる時間のばらつきを30分以内におさえる。
・週末はベッドに入る時間と起きる時間を平日から30分以上ずらさない。
・夜9時を過ぎたら間接照明にして、PCやスマートフォンの使用を控える。
・朝日を浴びる。

生活習慣の工夫②<生活の工夫>
・適度な運動をして趣味を大切にする。
・アルコールの摂取は少量にし、ベッドに入る3時間前に飲み終える。
・昼寝は30分以内にする。
・夕食は温かいメニューで体を温める。
・夜は軽い運動をして、ぬるめのお風呂に長めにつかる。

生活習慣の工夫③<寝室環境>
・真っ暗にせず、不安にならない最低の明るさにする。
・入眠前は少音量のインストルメンタルをかける。
・夏は27〜29度、冬は18〜20度にエアコンを設定する(冬は加湿器をプラス)。
・夏は上掛けをおなかに横向きにかけ、寝返りではだけないようにする。
・冷え性の人は、手袋と靴下をつけて寝る。

5人にひとりが不眠に悩んでいるといわれていますが、女性の場合はなかなか眠れない人と、しっかり寝ても日中眠いという人とでは、後者のほうが多いのです。男性は2、3時間眠れないという人が結構いるのに対し、女性の不眠は少ない。その理由は次回お話ししましょう。

----一度も目が覚めることなく、8時間以上寝続けられたのは若かったから......。年々睡眠力が低下している実感はあったものの、肌や体力同様、加齢が関係していたとは。良質の睡眠のために、まずは生活習慣の工夫から、といえそうです。
遠藤拓郎

遠藤拓郎 東京睡眠医学センター センター長。スリープクリニック調布 院長。日本睡眠学会認定医。慶應義塾大学医学部 睡眠医学研究寄附講座 特任教授。祖父の代から三代で睡眠研究を続ける睡眠医療の専門家。睡眠にまつわる本の執筆のほか、快眠CDの監修、入眠サポートマットの開発協力も行う。

取材・文/山崎潤子(ライター)
イラスト/はまだなぎさ