深い呼吸で『心』も『からだ』も美しく!

特集/呼吸で自分を変える!

先生/柿崎藤泰(文京学院大学 保健医療技術学部
保健医療科学研究科教授)
取材・文/大庭典子(ライター)

深い呼吸で『心』も『からだ』も美しく!

自分の呼吸を測ってみよう

呼吸は、からだだけでなく、私たちの精神状態にも深くかかわっています。深い呼吸ができるようになると、どんな変化が心やからだに起こるのでしょう。引き続き、文京学院大学の柿崎先生に教えていただきます。

前回、呼吸に大事な腹筋、そして骨盤底筋についてお話しました。これらのコアの筋肉は、残念ながら年齢とともに衰えてしまいます。それに伴って呼吸も浅くなってしまうのはある程度仕方のないことですが、だからといって今よりもいい呼吸、深い呼吸をあきらめることはありません。深く、いい呼吸ができる機能を再構築すれば、呼吸は深くなり、より快適に生きることができます。

呼吸を深くすると言っても、自分自身の呼吸が現在どの程度の深さなのか、把握している人はほとんどいないですよね、きっと。では、ここで自身の呼吸を測ってみましょうか。用意するのは、ウエストや胸囲を測るメジャー。(なければひもなどでも)。そして、みぞおちあたりに巻き付けてみましょう。①息を吐ききって、測ります。②次に同じ場所にメジャーをあてて息を吸って測ってみてください。

何センチくらい膨らみましたか? 最大に息を吐いたところから吸ったところまでの距離の格差が5センチあれば、呼吸に問題はありません。きちんと呼吸ができているでしょう。

深い呼吸ができるということは、多くの酸素を取り込んで、二酸化炭素を出すという交換がとても効率的にできるということ。小さな力で大きな換気量が得られる...、つまり省エネですね。疲れにくいからだになるということです。

細胞の栄養源でもある酸素。その栄養を取り込むのが呼吸ですから、呼吸のよし悪しによって、からだのコンディションも変わってきます。脳にも多くの酸素がゆき渡りますので、深い呼吸によって、集中力を高めることができるとも言われています。最近では、呼吸を整えることで認知症の方の病状も軽減するなどの説もあります。これらの研究は今後ますます進んでいくと思います。

いい呼吸は、いい人生をつくる!

また、美しさと呼吸の深さにも密接な関係が。深い呼吸ができるようになると、腹圧がつくりやすくなりますので、便秘の改善にもつながります。結果、肌のツヤにも効果があると考えられます。

呼吸で影響を受けるのは、からだだけではありません。呼吸は自律神経とも密接な関係がありますから、焦ったり、緊張するなど心的負荷がかかると、神経系の活動が起こり、呼吸数が高まります。ストレスを感じると、呼吸は浅くなってしまうのです。

落ち着きたいときに深呼吸をすると、副交感神経が刺激され優位になりますので、気持ちもリラックスしてきます。ゆったりとした音楽を聞くことも深い呼吸をするのに効果的です。

逆に呼吸がうまくできないと、疲労も早いですし、からだは自然と苦しくなることを避けるようになりますので、動きたくない、出かけたくないなどが続き、鬱っぽくなるなど、快適に生きることへの悪循環がつくられてしまいます。

ふだん浅い呼吸の人がいきなり腹式呼吸胸式呼吸、ドローイン(腹部をへこませた状態を維持するダイエット法)をしようとしても、コツがつかめず、より苦手意識が高まってしまう傾向も見られます。

深い呼吸の感覚をつかむためには、まずは、環境を外側からつくることも大事です。繰り返しになりますが、Vol.2でご紹介した【寝ているだけでストレッチ】をぜひとも試してみてください。実験では、吸気が40%もアップしたとの結果を出した方もいらっしゃいます。

楽しい人生、充実した人生に、いい呼吸は不可欠。一生つきあっていく呼吸ですから、早いうちから呼吸を意識して、深い呼吸、思い切り息を吸える快感をからだで覚えれば、きっといい人生になりますよ」

肌のツヤ、便秘、心のリラックス...、深い呼吸はからだや心にとって、いいことづくし! 花粉症の季節やカゼをひいて鼻づまりのときなど、呼吸が浅くなると、頭がぼーっとして、集中力がなくなり、気分が晴れないのは誰もが経験済みですよね。

また、「自分の腹式呼吸、正しいのかな...」など、呼吸法に悩んだことがある人も多いのではないでしょうか。【寝ているだけでストレッチ】は、外側の環境から整えることで、からだが深い呼吸を覚えていく、なんとも画期的な方法です! ぜひ続けていきましょう。

柿崎藤泰

柿崎藤泰 文京学院大学 保健医療技術学部、保健医療科学研究科教授、理学療法士、医学博士。昭和大学藤が丘リハビリテーション病院リハビリテーション部、昭和大学附属豊洲病院リハビリテーション部主任を経て現職。胸郭の運動分析、姿勢と胸郭周囲筋活動の関係、呼吸運動療法(呼吸困難感を和らげ、個人にみあった日常生活動作を再建するための運動療法)の開発を行う。臨床結果に基づき、培った理学療法士の技術により、呼吸器の障害を持つ多くの人々に見合う最良の「呼吸」づくりを提案。『呼吸運動療法の理論と技術』(メジカルビュー社)『ブラッシュアップ理学療法』(三輪書店)など著書多数。NHK『あさイチ』での呼吸の特集にも出演。

イラスト/190