働く女性のための靴「サクセスウォーク」から「かかとが小さいタイプ」が登場

語り/平井澪希(ウエルネス事業部 事業企画課)

ワコールが働く女性のための靴をつくっていることをご存知でしょうか。それが“もっと歩きたくなる足へ”がコンセプトの「サクセスウォーク」です。なかでも今回は、「かかとがパカパカしてしまう」という悩みに応える新シリーズ「かかとが小さいタイプ」をクローズアップ。機能性からはきごこちまで、その進化の裏側に迫ります。

働く女性のための靴「サクセスウォーク」から「かかとが小さいタイプ」が登場

「かかとが脱げてしまう…」現場に立つ販売員の声から開発がスタート

――ワコールがインナーウェアだけでなく、靴をつくっていることを知らない人はまだ多いかもしれません。まずは「サクセスウォーク」誕生の流れを教えてください。

平井 「世の女性を美しく」を目標に掲げるワコールが、靴事業をスタートさせたのは1980年代です。ちょうど1986年に男女雇用機会均等法が施行され、働く女性がフォーカスされ始めたころでした。女性が快適に「歩く」ための商品研究が行われ、1989年にコンフォートシューズをデビューさせたのです。

――その流れをくんでいるのが「サクセスウォーク」なのですね。

平井 「サクセスウォーク」というブランドが誕生したのは2004年です。快適に歩くだけでなく、美しい歩き姿までサポートしたいという思いから、シンプルで洗練されたデザインを追求。以来、コンフォートかつスタイリッシュな靴を提供し続けてきました。

歩きやすさはもちろん、洗練されたデザインを追求しているのが「サクセスウォーク」。 歩きやすさはもちろん、洗練されたデザインを追求しているのが「サクセスウォーク」。

――その「サクセスウォーク」から、今回「かかとが小さいタイプ」が登場。「かかと」に着目した理由を教えてください。

平井 ワコールはずっと「足長」だけでなく、「足幅」「足囲」に着目してきました。販売員にもその3つをフィットさせる重要性を伝えてきたのですが、「それでもかかかとが脱げてしまう」という声が上がっていたのです。

(足長=足のかかとから、一番長い足指の先端までの長さ。23cmなど一般的な靴のサイズ
足幅=足の親指と小指、それぞれの付け根にある骨の出っ張り部分を直線で繋いだ長さ
足囲=足の親指と小指、それぞれの付け根にある骨の出っ張り部分を取り巻いた一周の長さ)

――現場からの声が、かかとに着目するきっかけになったのですね。

平井 「そういう方は、横から見たときにかかとの丸みがない傾向にある」という現場ならではの分析も興味深いものでした。そこでサクセスウォーク誕生時から技術指導を頂いている人間工学を専門にする大学教授にお話しすると、やはり若い世代を中心に、かかとの丸みがない人が増えているという傾向があると教えていただきました。

――それはいったいなぜなのでしょう。

平井 外遊びの習慣がなくなったことが原因ではないかと、言われています。幼少の成長期に足を使う習慣がないと、かかとの骨(踵骨)が成長しにくくなります。現代は交通機関が発達し、インターネットの普及もあって人の物理的な移動が減っています。それらが影響していると考えています。

平井 澪希(ウエルネス事業部 事業企画課) 平井 澪希(ウエルネス事業部 事業企画課)

脱げないけど、靴擦れしない。その絶妙なポイントを探しました

――「かかとが小さいタイプ」を開発するにあたって、いちばんこだわったことを教えてください。

平井 「サクセスウォーク」自体が、そもそも脱げにくい設計になっているので、そこからさらにかかとが抜けないようにするにはどうしたらいいのか、どの部分をどれぐらい小さくすればいいのか、そのポイントを見定めることにこだわりました。

――「そもそも脱げにくい」とは、どんな設計なのですか。

平井 パンプスは履いていくうちに、だんだんかかと周りが横に広がりやすくなります。その広がったときにかかと部分が内側に倒れるような仕組みになっているんです。ただ広がるのではなく、その分が足に吸い付く。そんな設計にしています。

履き口部分が横に広がっても、かかとを上からしっかり足を包み込むように設計されている。 履き口部分が横に広がっても、かかとを上からしっかり足を包み込むように設計されている。

――「かかとが小さいタイプ」は、さらにどんな工夫を施したのでしょう。

平井 かかとの設計を現行タイプからさらに小さくし、よりフィット感を高めています。ただ小さくしすぎると、今度は靴擦れの原因になってしまう。できるだけ小さくするけど、皮ふとの余分な擦れは起こさない。その絶妙なポイントを探るのに、ものすごく苦労しました。

左が「かかと小さめ」、右が通常タイプ。通常タイプに比べ、かかと部分が小さく設計されているのがわかる。 左が「かかと小さめ」、右が通常タイプ。通常タイプに比べ、かかと部分が小さく設計されているのがわかる。

――そのポイントはどうやって見つけていったのですか。

平井 ワコールの社員に実際に履いてもらって着用テストを行いました。パンプスは特に履き続けてもらわないとわからないので、長いときには1か月半くらい期間を設け、そこからヒアリングを行い、何度も調整をかけていったのです。

――機能面だけでなく、見た目の美しさも追求しているのが「サクセスウォーク」の特徴ですが、今回デザイン面で進化させたところはありますか?

平井 せっかく新しい商品を出すのならばと、ヒールのシルエットを進化させました。やはり太いより細いほうが優雅な雰囲気が出ますよね。でも細すぎると安定せずに歩きにくくなってしまいます。元の機能はそのままに、美しく見えるギリギリまで細みに仕上げたのがポイントです。

左が「かかと小さめ」。右が通常タイプ。ヒールがより細みになり、エレガントな印象に。 左が「かかと小さめ」。右が通常タイプ。ヒールがより細みになり、エレガントな印象に。

――さらに進化させた箇所があれば教えてください。

平井 素材にも工夫があります。より足への負担がかかりやすい5センチヒールのパンプスでは、従来の牛革よりも、より足になじみやすい山羊革をセレクトしています。山羊革の特徴はなんといってもそのやわらかさ。でも、やわらかすぎると伸びてしまいます。ゆるくなりにくく、しっかりと足を支える山羊革を厳選しました。

また、木型も専用のものを新たに製作し、アーチをしっかりとサポートする形状に。「サクセスウォーク」の特徴のひとつである「美楽るパッド®」がしっかり生かされる設計になっています。

左が「かかと小さめ」、右が通常タイプ。新しい木型になり、アーチをしっかりと支えるインソールに進化。 左が「かかと小さめ」、右が通常タイプ。新しい木型になり、アーチをしっかりと支えるインソールに進化。

足の形はひとりひとり違う。だからこそ“ジャストフィット”の靴を届けたい

――今回の開発で得た思いや気づいたこと、今後の課題などがあれば教えてください。

平井 今回の「かかとが小さいタイプ」は、「幅広甲薄タイプ」に続く、足の形の悩みに応えるシリーズの第2弾です。足長、足幅、足囲だけでなく、かかとにまで着目した商品はほかに類を見ないものだと自負しています。足って実はすごく奥が深くて、骨格、靭帯、肉質によっても、またフラットシューズやヒールパンプスなど選ぶ靴によっても、サイズが変わるといわれています。それでもひとりひとりの悩みに寄り添う靴を開発し、提供していきたい。それがワコールの願いであり、想いです。これからもできるだけ多くのニーズにしっかりと応えていきたいと思います。

「サクセスウォーク」を通じて自分の足についての理解を深め、ぜひ心とからだにフィットする1足を見つけてください。その靴を履くことで、さらに豊かな人生を歩んでいただきたい。心からそう願っています」

  • 平井澪希
  • 平井澪希(ひらい・みおき) 2019年入社以来、ウエルネス事業部事業企画課にて、「サクセスウォーク」の販促企画を担当。
取材・文/本庄真穂
撮影/合田慎二
デザイン/WATARIGRAPHIC