「一度下がった骨密度は、二度と上がらない」…こんな話を聞いたことはありませんか? 改善できないならば、骨密度を測っても意味がないと検査から足が遠のく人もいるでしょう。今回は、骨密度を上げるためにできることをさまざまな面から探っていきます。教えてくれるのは、「女性のための整形外科 かおるこHappyクリニック」の院長、伊藤薫子先生。骨密度は一度下がったらおしまいではありません。今日からできることをしていきましょう。
下がった骨密度は、
上げることができる
「骨密度を上げることはできますよ。骨密度が高い人の特徴は、よい食生活をして、適度な運動をしている人です。患者さんのなかには、食や運動の習慣を見直した“骨活”を行い、数値が改善した方もたくさんいらっしゃいます。まず取り組むべきは、食や運動の改善ですが、そのうえで薬を使うという選択肢もあります。
私がいちばん重要視しているのは食生活です。骨にとって大切なカルシウムの摂取量は600mgが推奨されています(厚生省)が、骨密度が下がる更年期の方や骨粗しょう症の方は800mgを目指してほしいです。といっても、カルシウム600mgはほとんどの日本人がとれています。骨活をするならば、プラス200mgと覚えておくといいでしょう。
いつものメニューに牛乳1杯や小さなヨーグルト1パックをたしたり、ベビーチーズで補うこともできますよ。ほかにも、桜エビやしらす、煮干し、とろろ昆布など、お豆腐にのせたり、サラダにかけるだけでカルシウムがとれるような “ちょい足し食材”を常備しておくと便利ですね。
カルシウムをとる際には組み合わせが大切です。1日のカルシウムは問題なくとれている人が多いのですが、実は、カルシウムは腸での吸収率が3割程度。吸収率を上げるためには、ビタミンDも一緒にとることが大事です。ビタミンDは、日本人の8割が足りていないといわれている栄養素です。サプリでとるのもいいですが、製品によってはビタミンDの量が多すぎるものもありますし、とりすぎは逆に健康被害が出てしまう可能性も。できれば、かかりつけの医師が推薦しているものなど安心して飲めるものを手にしていただきたいです。
*骨を丈夫にする食については、さらに詳しく#04でお伝えします。
骨を鍛えるための
ウォーキングやかかと落とし。
ポイントは姿勢!
食に続き、重要なのが運動です。骨にある程度の負荷がかかり、無理なく続けられることとしてウォーキングをおすすめします。ただし、骨が弱くなる更年期に無理をするのは、かえって逆効果。継続できないですし、悪い姿勢で行えば、膝に負担がかかり、ウォーキングどころではなくなったりと悪循環を生んでしまいます。週に2~3回、4000~8000歩程度でOKです。
もうひとつ、おすすめしたいのはかかと落としです。これも無理のない範囲で、1回につき10回程度を1日5回行うのがいいですね。電車を待つ間やデスクワークの合間、歯磨きをしながらなど、毎日必ず行うルーティンにかかと落としを追加で行ってください。やろうと意気込むよりも、何かのついでに行うと、流れができて習慣化しやすいですよ。
ウォーキングでもかかと落としでも、大切なのは姿勢です。骨を支える筋肉、特に体幹となる筋肉を鍛えることで、転倒を防いだり、腰や膝への負担を軽減し、きちんと骨に負荷を与え、鍛えることができます。
ポイントは、みぞおちとおへそをぐんと伸ばして、丹田と呼ばれる下腹部の箇所と、お尻にきゅっと力を入れること。普段座っているときにも、みぞおちを伸ばすように意識してください。
かかと落とし
- 両足を肩幅に開いて、みぞおちとおへそを伸ばすイメージで姿勢を正す。足を2~3cm上げる。
- 上げた両足のかかとをストンと床に落とす。
*ヒールを履いているときなどぐらつく際はデスクに手をついてもOK。
薬による、
骨粗しょう症の治療とは?
骨密度の検診や採血の結果によっては、薬を使って骨密度を上げる選択肢もあります。骨の代謝は、新しい骨をつくる『骨芽細胞』と、古い骨を壊す『破骨細胞』で行われています(詳しくは#01へ)。これまで骨粗しょう症は、骨が壊れるのを薬で防ぐのが一般的でしたが、近年、同時に新しく骨をつくる働きをする薬が開発され注目されています。
1年に5~10%も骨密度が上がるとのデータもあり効果が期待できますが、月に一度病院に通い2か所に注射を打つことや、保険適応できるのが1年間で、それでも価格が1万円を超えてしまうこと、などの負担があります。また1年間でやめてしまうと骨密度は下がるので、飲み薬や注射薬を併用した治療も検討する必要があります。
骨をつくるための薬もあり、こちらも効果が期待できますが、一生のうちで使えるのが2年間のみなので、どの期間に使うのがよいのか医師との相談が必要ですし、副作用に悩む方がいらっしゃるなど、薬との相性も考慮しなければなりません。
また、更年期症状と骨密度の値の両方を改善できる、ホルモン補充療法も選択肢のひとつに入れてもいいでしょう。ただし、ホルモン補充療法は閉経後5年でやめるべきとの考えもあり、やめたあとは骨密度がガクッと下がってしまうため、その後のケアが必要になります。
それぞれメリットデメリットがありますが、薬という選択肢があると知ることで、自分の骨をいたわることに前向きになれたり、骨密度が下がることへの不安がやわらぐのではないでしょうか。
---- 次回#04では、骨の健康のための食について、さらに掘り下げていきます。
- 伊藤薫子 かおるこHappyクリニック院長。日本整形外科学会専門医、日本整形外科学会認定脊椎脊髄専門医。東京女子医科大学医学部卒業。2021年、東京の帝国ホテル内に「女性のための整形外科かおるこHappyクリニック」開院。大学病院で骨粗しょう症外来に4年間勤めた経験と、背骨の認定医としての知見を活かし、骨粗しょう症の早期発見と治療、骨活プログラムに注力している。いくつになっても背筋を伸ばしてハイヒールを履き、輝く女性を増やしたい、との思いをもって日々治療を行う。
撮影/高木亜麗
デザイン/日比野まり子
イメージ写真・イラスト/stock.adobe.com
【特集】あなたの骨、大丈夫ですか?(全4回)
- #01|最新の骨密度検査を体験! 若い世代と比較すると…
- #02|骨粗しょう症に陥りやすい3つの要因
- #03|まだ間に合う!骨粗しょう症の予防と改善
- #04|カルシウム、ビタミンD・Kで50代からのヘルシー骨活