2023.12.20

【特集】ホルモンの変化と上手につきあう#05

製薬会社に聞く/更年期の選択肢 ホルモン補充療法(HRT)

OTONA BODY BOOK 編集部

更年期の不調を「年齢だから仕方がない」とがまんしたり、あきらめたりしている人も多いかもしれません。でも、体調を整えるための運動や食事とともに、「医療機関での治療」もまた、選択肢のひとつです。日本における女性医療用医薬品のパイオニアであり、更年期障害治療剤を製造・販売する富士製薬工業のおふたりに、ホルモン補充療法(HRT)の現状についてうかがいました。

富士製薬工業株式会社 加藤知子さん/高橋悠太さん
富士製薬工業株式会社 加藤知子さん(左)/高橋悠太さん(右)

自覚できるものから無自覚のものまで
更年期症状は約200種類!

加藤さん 更年期を元気に、生き生きと過ごすために大切なことは、まず「適度な運動」と「バランスのとれた食事」。そして、更年期症状がつらいときには、気軽に「医療機関を受診」していただきたいと思います。

高橋さん 更年期症状は多岐にわたり、のぼせ、ほてり、関節痛、頭痛やめまい、イライラ、不眠など、200種類くらいあるといわれているんですね。人によって症状の種類や程度が異なりますし、複数の症状が同時に現れるために、「どこで診てもらったらいいのかわからなくて、内科や外科など複数の病院を回った」というお話もよく聞きます。

加藤さん 骨粗鬆症や動脈硬化、脂質代謝異常など、すぐには自覚症状を感じにくい症状もありますから、更年期になって何かしらのからだの不調を感じたら、ひとまず婦人科を受診してみるのもいいと思います。更年期付近の女性のなかには、定期健康診断で急に血圧が高くなったりコレステロール値が高くなって、驚く方も多いのではないでしょうか。もしかすると、これは女性ホルモンの低下によるものかもしれません。

実は日本では、更年期など女性特有の健康課題に対して、医療機関を利用する人の割合がまだまだ低いんです。「仕方がないこと」とがまんせず、まずは「治療ができるんだ」ということを知っていただきたいと思います。

更年期症状を自覚した後の医療機関受診の割合

乳がんや子宮体がんのリスクが上がる?
の真実は

加藤さん 漢方療法など、更年期症状の治療法はいくつかありますが、そのなかの選択肢のひとつがホルモン補充療法(HRT)です。欠乏したエストロゲンを、飲み薬や、貼り薬・塗り薬として体内に補充する療法です。

よく、「副作用として、乳がんや子宮体がんのリスクが上がるのでは?」という不安の声を聞きますが、子宮内膜が厚くなるのを防ぐ黄体ホルモンを併用すれば、子宮体がんのリスクはHRTをしていない人と変わりません。乳がんのリスクも、5年未満の治療期間なら、リスクの上昇は認められていないんです。(参考:日本産科婦人科学会・日本女性医学学会:ホルモン補充療法ガイドライン2017)

高橋さん 年齢や症状、月経の有無、子宮の有無など、一人ひとりの状況に応じて薬の種類や投与方法は変わってきます。経口か経皮かの違いは、肝臓で代謝を受けるかどうかの違いがあります。貼り薬、塗り薬はライフスタイルに合うものを選択できます。

加藤さん HRTを始めたころに、性器出血や乳房の張り・痛みがみられることがありますが、これはエストロゲンを補充したことによる正常な作用で、一般的には続けるうちに緩和されていきます。

のぼせやほてり、発汗などの症状が改善されたり、意欲や集中力の低下を回復させ、気分の落ち込みをやわらげたり、皮膚のコラーゲンを増やして肌のうるおいを保ったりと、HRTにはさまざまなメリットが期待できます。

海外では女性の4割近くが
取り入れているHRT

加藤さん 私も、更年期症状の初期からHRT療法を行っています。仕事柄、更年期についての知識があったので、初めてホットフラッシュが起こったときに「あ、これは更年期症状だな」と気づくことができて、すぐに婦人科を受診しました。あらかじめ知っていたことで慌てたり不安に感じたりすることもなく、「薬で対応しよう」と行動ができたのだと思います。

高橋さん 残念ながら、日本でのHRTの普及率は海外に比べてとても低いんですよね。海外では主流だった天然型の黄体ホルモン製剤も、ようやく日本で保険適用になりましたし。

ホルモン補充療法(HRT)普及率

加藤さん HRTは、一般的にはまだまだハードルが高いのかもしれません。でも、婦人科の先生には、「更年期に少しでも不調を感じたら試してみて」とおっしゃる方も多いんです。治療ですので保険がききますし、選択肢のひとつとして、更年期世代はもちろん、その手前の方たちも、頭に入れておくといいのではないでしょうか。

高橋さん ある試算では、40代〜50代女性の更年期離職などによる経済損失額は4200億円にも上るそうです。

加藤さん 女性活躍推進や多様性が重視される流れの中で、更年期症状への理解は少しずつ広がってきていると感じています。女性の更年期は45~55歳といわれています。人生100年時代において、更年期を乗り切ったあとの50年をより豊かに健やかに過ごしていただきたいと願っています。

女性が、それぞれのライフステージにおいて、自身の人生を設計していけるよう、製薬会社としてお手伝いができたらと思っています。

―――女性ホルモンの恩恵を受けられなくなる更年期以降も健康に過ごせるように。医療機関での治療も取り入れながら、不調を上手に乗り切りましょう!

  • 加藤知子(かとう ともこ) (富士製薬工業株式会社 経営戦略本部 経営企画部 コーポレートコミュニケーション課) 入社後、医療用医薬品に関わる情報提供活動やマーケティングなど多くの業務を担当。現在はコーポレート部門として広報業務や女性の健康に関する啓発業務に従事。
  • 高橋悠太(たかはし ゆうた) (富士製薬工業株式会社 経営戦略本部 経営企画部 コーポレートコミュニケーション課) 富士製薬工業入社後、営業部、営業企画部を経て、現在は経営企画部に在籍。経営企画部では女性医療領域の疾患啓発やスマートフォンアプリ「LiLuLa」の運営、広報業務を担当。
  • 富士製薬工業株式会社 1974年に女性医療用医薬品の販売を開始して以降、「すべての女性が自分の人生を自分らしく生きることができるように、医薬品を通して貢献していく」ことを目指す。最近では思春期から更年期まで幅広い女性のwell-being向上に貢献するべく、医薬品のみならずスマートフォンアプリ・サイト「LiLuLa(リルラ)」を運営するなど、女性の健康に関する啓発活動も積極的に行う。 富士製薬工業株式会社 更年期障害について Lilula(リルラ)女性のための健康支援サイト
構成・文/剣持亜弥
デザイン/日比野まり子
イメージ写真/stock.adobe.com