---- よい眠りを考えたとき、その鍵は「朝」にあるというその理由とは。「成城松村クリニック」の院長、松村圭子先生にお話をうかがいました。また、自身も更年期世代でこれまでの人生の棚卸しを行い、世界が広がったという実体験も必読です。
自律神経がもっとも嫌う、
不規則な生活
自律神経の乱れが睡眠にも影響を与え、不眠に悩む人の多い更年期世代。なるべく自律神経が乱れない生活スタイルを心がけることが大切ですが、では自律神経がいちばん嫌うもの、乱れる原因になることって、何だと思いますか?
それは「ストレス」と「不規則な生活」です。ストレス解消法は人それぞれ違いますが、規則正しい生活を睡眠のコツと結びつけてお伝えするとしたら、「朝」が共通するキーワードです。

忙しい現代人は、毎日毎日同じ時間に寝ることはほぼ不可能でしょう。ただし、起床時間についてはある程度自分でコントロールすることができます。早く寝ようが遅く寝ようが、とにかく「毎日、同じ時間に起きる」ことで、結果的に眠りの質にもいい影響があるのです。そして、起床後は日光を浴びることを習慣にしてください。
太陽の光を浴びると、私たちの脳内ではセロトニンという物質が分泌されます。これは、精神の安定や、頭の回転をよくする集中力を高めるなど脳の働きを活発にするとても大切な物質。別名「幸せホルモン」とも呼ばれますが、セロトニンが不足してしまうと疲労感が取れなかったり、向上心などの意欲の低下、うつ症状、そして不眠といった症状が現れます。セロトニンが増えやすい午前中に15分~30分太陽の光を浴びるような習慣をつくりましょう。
朝の日光浴が、
入眠をスムーズに
最近はリモートワークで外に出ない人も増えています。在宅が続き気分が沈みがちという人は太陽の光を浴びる機会が減ってしまったことも原因かもしれません。カーテンを開けて日光が当たる窓際で歯磨きをしたり、お茶を飲むなどちょっとした工夫を心がけてください。
そして、このセロトニンは睡眠に非常に重要なのです。セロトニンは、太陽を浴びたおよそ14~15時間後にはメラトニンという物質に変化するのです。このメラトニンこそ「睡眠ホルモン」と呼ばれる物質。私たちの心身を自然な眠りへと誘う大事なホルモンです。

メラトニンは分泌が始まった2~3時間後にピークに達します。たとえば、朝7時に起きて太陽の光を浴びたら、その14~15時間後の21時ごろから少しずつメラトニンが分泌され、その2、3時間後の23時ごろにメラトニンのピークがやってきます。ベッドに入るタイミングでメラトニンが十分に分泌されていれば、入眠がスムーズにできるなど、いい影響があります。
「夜の快眠は、その日の朝から始まっている」と言っても過言ではありません。毎日同じ時刻に起床するだけで、体内時計が整い、その日の夜の睡眠にいい影響があると覚えていてください。
睡眠に重要なセロトニンは、食事からもアプローチをすることができます。セロトニンの原料はトリプトファンと呼ばれ、食事からでしか摂取できない必須アミノ酸です。これはタンパク質に含まれていますが、具体的には、肉や魚のほかに、豆腐や納豆、味噌、しょうゆなどの大豆製品、そしてチーズ・牛乳・ヨーグルトなどの乳製品、ナッツなどの穀類など。毎食、片手いっぱいを目安にタンパク質をとることを意識しましょう。

更年期は、
人生の棚卸しをする時間
更年期には不眠以外にもさまざまな症状が現れますが、私はこの期間はこれまでの人生の棚卸しを行い、今後の人生を見つめ直すための期間だと思っています。
パートナーとの関係においても、子どもが巣立ち、再び夫婦ふたりで向き合う時間が始まることから、欧米では更年期を「セカンドハネムーン」と呼びます。改めてパートナーと楽しめる時間をつくるのもよいでしょう。
また、ひとりの時間を慈しみ、自分を本当に大切にすることも更年期の時期にじっくりと考えたいテーマです。かくいう私も、更年期世代真っ只中ですが、この期間に自分を見つめ直し、人生が激変しました。
これまでの外食100%の食生活から、自炊の楽しさを知ったのも更年期になってから。料理をゼロから始めたら、驚くほど楽しくて気づけば夢中になっていました。もともとハマったらのめり込むタイプなので(笑)、女子栄養大学の通信教育を受け、「食生活アドバイザー2級」の資格も取り、レシピ本を出すまでになりました。料理が趣味になると食器にも興味が湧いたり、キッチンもマメに掃除して運動量も増えるなどいい循環が生まれました。

人生100年時代。更年期は、残り半分もあるこれからの人生を充実させるために立ち止まって考える絶好の時期と言えます。女性性が失われてしまうなどと嘆き悩むだけでなく、更年期という人生の踊り場で前向きな人生のきっかけをつかんでください。
松村圭子先生おすすめ
グッドスリープのための生活
- □ 毎日、同じ時間に起きる習慣をつける
- □ 夜の時間に悩んでも、状況が変わらないと自分に言い聞かせる
- □ 毎食、片手いっぱいのタンパク質をとる
- □ 人生後半の新たな楽しみを見つける
4回連載終わり
【特集】更年期と睡眠の深い関係
- #01|50代女性の平均睡眠時間は6時間半。ホルモンの変化と深い関係が
- #02|睡眠不足は肥満や肌荒れの原因に。さらに死亡率との関係も
- #03|心がゆるむ「好きなこと」が眠りへのスイッチ。自分基準の楽しみを見つけよう
- #04|睡眠の質を決めるのは「早起き」。人生と生活習慣を見直すきっかけと捉えよう
- 松村圭子 婦人科医、成城松村クリニック院長。婦人科専門医として、月経トラブルから更年期障害まで、女性の一生をサポートする診療を行う。西洋医学のほか、漢方やサプリメント、点滴療法による幅広い治療方法で、女性のあらゆる不調をケア。小さな悩みごとでも相談しやすく、姉御肌の頼れる女医として人気。『これってホルモンのしわざだったのね 女性ホルモンと上手に付き合うコツ』(池田書店)や『40代からの「女性ホルモン力」を高める簡単ごはん 』(芸文社)など著書も多数。 成城松村クリニック
撮影/望月みちか
デザイン/日比野まり子