トレーナー山本邦子さん/1日30秒。その積み重ねが「美」をつくる

トレーナー山本邦子さん/1日30秒。その積み重ねが「美」をつくる

20年以上にわたり、アスリートのトレーニングとケアでのヨガ指導を行なってきた山本邦子さん。からだづくりにたずさわる立場から考える、「美しい佇まい」とは?

場に適した佇まいと、チグハグな佇まい。その違いとは?

子どもから高齢者まで、多くの人のからだと日々向き合っている山本さん。どんな佇まいをもった人にひかれるかを聞いてみると、「その場に安心して存在していて、どこか無防備さもある人」との答えが返ってきました。

「美しい佇まいは、その人単体では存在できないものだと思うんです。感情や動作などその人の発しているものが、その場にいる人やもの、空間自体とひとつに重なり合っている時、その“光景”を美しいと感じます。たとえそれが悲しそうな佇まいであっても、場と調和していれば、そこには美しさがありますよね。

おそらくその人は、そこにいる人やもの、空間と交流していると思うのです。美術館にいるなら作品との交流が、水族館にいるなら魚たちと、ヨガスタジオなら一緒にいる人たちなど。その場にいる人やものと交流しているから、安心感から無防備な佇まいとなって、背景との一致感が出るのではないかと思います。

一方、緊張して自分を押し殺している状態は、その空間の誰とも何とも交流していない状態。見ている方もザワザワとした気持ちになりますね」

場や環境に溶け込み、美しい佇まいを発するには、“空気を読むこと”も必要だと山本さん。

「空気を読むことは悪いことのように扱われることもありますが、私はとても大切なことだと思っています。場の空気が読めるから、自分の求められている言動や立ち居振る舞いがわかります

山本邦子

空気を読み、自分らしくいること

場に美しく佇む力を身につけるためには「想像」と「観察」がカギとなりそうです。

「私は、レストランに行く予定があったら、メニューはもちろん空間の広さや建物の装飾、そこにどんな人たちが集まるのかをできる限り調べます。その情報から想像力を使って、その場にふさわしい服装や色、ヘアスタイルを考えます。美しい佇まいを内面から見てみると、その場に入っていく、お邪魔させていただくという気持ちも大事だと思います。

もし緊張するような場に行ったら、その場に慣れている人を観察して、真似してみるのもひとつの方法。そうして自分が場の一部になり始めると、緊張やオドオド感はなくなって、気持ちも落ち着き、安心して自分を出せるようになります」

自分のからだをよく観察すること

山本さんは、普段から美しい佇まいのために自分のからだに対してどんなことに気をつけているのでしょうか。ここでも「観察」というキーワードが出てきました。

「自分のからだの状態は常に観察しています。足元、特に足の裏をどう使っているか、どこに体重を乗せて、からだを支えているのかは意識しています。

歩くとき、足裏の使い方としては、かかとの真ん中より少し外側、小指と薬指側から地面を感じて、次に土踏まずの外側ライン小指薬指側へ、さらにそこから親指方向に斜めに上がっていき、最後に親指と人差し指の腹から抜けるように地面を蹴りおろす、これが理想的。歩きながら、『小指側に体重を乗せたな』など今の状態を感じています。

また、靴音が<カッカッカッカッ>と一定なのか、<カッカカッカッカッ>と不規則なのか、そんなことからも自分の筋肉の動きを観察したりします。疲れているときは、しっかりと体重が乗らないので、靴音のリズムが狂うんですよ。おかしいなと気づいたら、均等になるように意識します」

真っ直ぐに伸びた背筋で、凛とした佇まいを感じる山本さん。姿勢において意識していることは?

姿勢でいちばん大切なのは、同じ姿勢を維持しないこと。美しい姿勢だからといって、ずっと同じ状態でいることはよくないのです。レッスンでも、『いい姿勢とは、次の姿勢のこと』と伝えていますが、今ある姿勢から動いた次の姿勢がいい姿勢なのです。たとえ、猫背になろうが、前の姿勢から動いたのならそれはいい姿勢。つまり、常に動くことが大事なのです。自分の姿勢が固まっていると感じたら、動かすこと。その時に常に戻ることができるより安定したポジションがあると、姿勢はグッと美しくなります。

私がよくお伝えしているのは、骨盤・肋骨・肩・頭の4カ所で“輪っか”を意識すること。4つの輪の中心を1本の棒が貫通するようなイメージでさまざまな姿勢を作ると、からだが安定し、美しく見えますよ」

山本邦子

からだは「究極の道具」。美しく使いこなす

「1週間に1回、1時間のフィットネスでからだを意識する時間をつくることも大事ですが、家事や仕事、通勤…そんな日常の時間のほうが圧倒的に長いですよね。その時間のうち毎日30秒でも『今、自分のからだの使い方はどうなってる?』と意識するだけで、からだは変わっていきます。その人の日常シーンでその人がどう動き、佇むのかが、その人らしい美しい佇まいをつくるのではないでしょうか」

毎日ほんの30秒、からだを観察し意識を向けてみる。およそ3か月でたいていは変化してくるそうです。

「美しい佇まいを手に入れたいと、一気に目標を高く設定して、長時間のエクササイズを課しても続かなかった経験をしている人が多いのではないでしょうか。それよりも今日も30秒、明日も30秒と続けることが大事。そのうち、からだを観察すること自体が、無意識にできるようになれば、からだは変わります。

これは歯磨きと似ています。最初はブラシの先をどう動かせば右奥歯をきれいに磨けるか意識しながらやっていたことが、そのうち無意識にできるようになる。道具は意識して使ううち、やがて身につきます。からだは、究極の道具でしょう? 感じることができて、触れることができて、踊ったり感情を表現することもできる、精巧な道具だと思います。からだという自分だけの道具を上手に使いこなせれば、必ずその人らしい美しい佇まいが出てくると思います」

美しい佇まいとは、自分ひとりでは存在しないもの。
場の空気、周囲の人やものなど環境と交流して成り立つ。

  • 山本邦子(やまもと・くにこ), PhD., ATC 博士(保健学)、アメリカNATA公認アスレティックトレーナー、A-Yoga Mind and Body Movement Therapy主宰、Kyoto MBM Labo主宰(京都 修学院)、フェルデンクライスプラクティショナー。カンザス大学教育学部運動科学科アスレティックトレーニング専攻で学士号、同大学教育学部運動科学科運動力学とスポーツ経営管理学の2分野で修士号を修了後、カンザス大学で常勤アスレティックトレーナーとして勤務。帰国後、劇団四季などで活動。大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学群臨床支援系領域で博士課程修了。
    現在は、一般の子供から高齢者、ジュニアアスリートからプロアスリートまでグループとパーソナルレッスンをする傍ら、痛みを抱えた人やさまざまな症状をもつ方へのケアも行う。
取材・文/大庭典子
撮影/合田慎二
デザイン/WATARIGRAPHIC

からだ用語辞典: 肋骨

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