• Fashion
  • 2020.02.26

無重力実験によって生まれた画期的な「バストケアBra」の秘密って?

語り/坂本晶子(研究員)
福永千春(開発リーダー)

2月下旬、重力によって伸ばされるバスト上部の皮ふに焦点をあてた「バストケアBra」が誕生しました。無重力実験まで行ったという、これまでにない商品開発の裏側を探ります。

バストケアBra

飛行機を使っての実験で無重力時のバストを計測

――「バストケアBra」の開発時に無重力実験をしたのだとか!? ぜひきっかけを教えてください。

坂本 過去のエイジング研究にさかのぼるのですが、バストの形が年齢とともに変わることをワコール人間科学研究所が発表したのが2010年のこと。バストの形ややわらかさが変わったら、それに合うブラジャーを選びましょうということを訴求していました。今回は、さらに同じ年齢でも加齢による変化のスピードが違うことに着目し、皮ふの研究に取り組んできたんです。走ったら揺れが大きくなったり、下を向いたら変形したりすることから、バストの形の変化は重力と関係がありそうだな、と。お風呂に浸かっているときって、バストの位置が上がってまるくなるんですよね。それなら、バストに重力がかからなかったら実際どうなるの? となって。

――それで実際に無重力実験を行ったのですね。

坂本 そうなんですよ。無重力実験ができる研究機関があり、飛行機を飛ばして、無重力になっている間にモニターさんのバストをハンディ3Dカメラで測定するというものです。気象条件がよい場合でも、1回のフライト実験で無重力状態をつくれるのが多くて8、9回程度。測定できる時間が1回20秒ほどですので、限られた機会を使って正確なデータを測定する担当者は苦労したと思います。

福永 こんなふうに理論から入っていくのは初めてだったので、研究職ではない私からすると計算式などが出てきて「ついていけるかな?」と思いました(笑)。

坂本晶子(研究員)、福永千春(開発リーダー)

――「バストケアBra」の"ケア"の定義とは何ですか?

坂本 無重力実験の結果、無重力状態のバストは上下左右均一のボリュームで、半球状のきれいなまる胸になり、バスト上部の皮ふがひっぱられていないことがわかりました。重力がかかると伸びてしまうバスト上部の皮ふを、変化なく均等な状態をキープできることを"ケア"と定義し、それを指標(ケア度)にしました。

福永 「SUHADA ONE」を開発しているときに、快適市場(ノンワイヤーブラの市場)を調べていたのですが、快適市場拡大の影で、バストラインへの不安や悩みから、「自分のバストを美しく保ちたい」というニーズも高まっているということがわかりました。私たちは漠然と「ケアがやりたい」と思っていましたが、人体構造に基づいたケアとなると検証するにはさまざまな課題があるし、かといって感覚的なケアでは「どういう状態が女性にとって"ケアされている"と感じるの?」と、会議でもなかなか伝わらず、暗礁に乗り上げそうなときに、ケアの定義について人間科学研究所から助け舟が出されました。

坂本 すでに「バストケアBra」の開発はスタートしていたのですが、従来のブラジャーでも着用することでバストラインを整えることはできるので、違いを出すのが難しくて...。ケアの定義はしたのですが、お客様の実感レベルを伴うケアって? どう実証する? と、そこでも頭を抱えました。

福永千春(開発リーダー)

――たくさんの課題を乗り越えて「バストケアBra」の開発が進められていったのですね。

坂本 最終的には「前かがみのときにいちばんバストがくずれる」ということが開発の鍵になりました。社内の内勤者などに協力してもらって、前かがみになる回数も調べていきましたが、勤務時間の9時から17時半までで、45回くらいは前かがみになっていることがわかったんです。

最終的には「前かがみのときにいちばんバストがくずれる」ということが開発の鍵になりました。

福永 普通にデスクワークをしていても、下のほうにあるものを取ったり、靴を脱いだり履いたり...。それを考えると、たとえば家でも掃除など家事で下を向くことって多いですよね。子育て中の方なら赤ちゃんを抱きあげるときもそうですし。前かがみになると移動してしまうバストですが、「バストケアBra」をつけると位置をキープする、というのが実感できる商品を目指しました。

坂本晶子(研究員)

カップの内側のバストケアシートがバストの位置をキープ

――「バストケアBra」の構造のポイントを教えてください。

坂本 ブラジャーの形状って上部が開いていますよね。下を向いたときにそこがくずれないことに、より焦点をあてた構造にしました。そんなに強い力をかけなくても形が変わらないようにしたのがポイントです。快適でありながらサポート力に安心感がもてるものが求められると考えました。

福永 その微調整には苦労しましたね。あまり着装感をゆるくするとケア度が不足してしまいますし、かといってきつくしても快適性が...と。その加減が心配だったのですが、顧客調査で「ケアできるのなら、ある程度はしっかりしていないとだめですよね」というお声があり、ゆるすぎるのもよくないんだ、とヒントになりました。

――この内側についているのがバストケアシートですか?

福永 はい、そうです。早い段階でバストケアシートをはさむことは決まっていましたが、ひとりひとりの体型や肉質が違ってもケア効果が実感できる構造や素材選びに時間をかけて最終的にこの形状になりました。

カップの内側に取り付けた新開発のバストケアシート。
カップの内側に取り付けた新開発のバストケアシート。

坂本 このバストケアシートを付けることで、着用感をきつくしなくてもきれいな形がつくれるんです。下を向いたときにこの部分にテンションがかかって、こぼれ落ちないように中側で張ってくれます。今まではバストの造形のために力をかけたり、密着させるための立体の構造体をつけたりしていましたが、一枚シートをはさむことで、バスト全体が動きにくくなりました。

バストケアシートを付けることで、着用感をきつくしなくてもきれいな形がつくれる

――バストケアシート以外のポイントも教えてください。

福永 基底面となるカップの下部がバストによくフィットして、もち上げてくれます。強い力で押さなくてもバストにカップが寄り添う感覚が、程よい快適性を生み出している理由。また、土台脇側にボーンを使っているのですが、これがあることで安定感を与え、バストを高い位置にキープすることができます。

土台脇側にボーンを使うことで(丸で囲んだところ)、安定感を出している。
土台脇側にボーンを使うことで(丸で囲んだところ)、安定感を出している。

――ワコールの「バストケアBra」は、肌ざわりにもこだわっているそうですね。

福永 はい。内側はなるべくやさしい素材でいたわりたかったので、バストケアシートには天然由来の素材を採用しました。保湿性があるのが特徴です。バックは綿混の素材を使っています。

直接肌に触れるバストケアシートは、天然由来。
直接肌に触れるバストケアシートは、天然由来。

長い歳月をかけて自然がつくり出す、美しく輝く宝石をイメージ

――デザインのコンセプトを教えてください。

福永 美は日々のお手入れの積み重ねからつくられるという思いから、長い歳月をかけ美しく輝くローズクォーツやアクアマリンなどの宝石をイメージしました。ケアというと科学的ですけど、そこに女性の美しさを表現できればと。また、2種のレースを組み合わせることで繊細で華やかな印象に仕上げています。

――ショーツはどんなラインナップがありますか?

福永 ノーマル、ローライズ、ブラジリアンの3タイプをご用意しました。特にブラジリアンは「SUHADA ONE」のときから評価が高くて。ソングほどのセクシー感がなくナチュラルなので、着用していただきやすいのが魅力です。

ショーツはブラとデザインをそろえた3タイプを同時発売。
ショーツはブラとデザインをそろえた3タイプを同時発売。

――展示会では試着ブースも設置されたとか?

坂本 そうなんです。「想像以上に快適でした」という声も届き、安心しました。ぜひ、店頭でも試着していただきバスト位置がキープされる感覚を実感していただければと思います。

  • 坂本晶子
  • 坂本晶子(さかもと・あきこ) 人間科学研究所 研究課
    入社以来、人間科学研究所で科学的な研究開発を続けている。具体的には、女性の成長・加齢など体型変化をとらえ、女性美やエイジングとしてまとめた情報の発信や研究を基にした姿勢アイテムやブラなどの開発にたずさわる。
  • 福永千春
  • 福永千春(ふくなが・ちはる) 卸売事業本部 WBインナーウェア商品統括部 商品企画部 商品開発課
    リボンブラやSUHADAグループなど、キャンペーンブラを中心に、プランニングと商品開発を担当。
取材・文/シキタリエ
撮影/合田慎二