今こそ実践したい「ゆるやかな」糖質制限

特集/糖質制限、ホントのところ

先生/山田悟(北里研究所病院 副院長・糖尿病センター長)

---- 最近、スーパーやレストランなどあちこちで「糖質オフ」という言葉を目にすることが増えました。さまざまなメディアで「糖質制限」も特集され、どうやら「糖質」が、美や健康の鍵を握っているらしい、ということが、世の中に浸透してきています。そこで、糖尿病の専門医として、その原因となる「糖質」に着目し、「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」を提唱している山田悟先生に、その基本から教えていただきました。

すべての世代におすすめの「ゆるやかな糖質制限」

日本人は体質的に糖質過多になりやすい!?

「糖質制限」という言葉を聞いて、みなさんはどんなことを思い浮かべるでしょうか? 糖尿病患者の食事制限? あるいはダイエット? ご飯やパンなどの主食を食べないことだと思っている方もいるでしょう。どれも間違いではありませんが、「糖質制限」という言葉そのものが一般的に知られるようになってきている割には、「糖質制限」の正しい情報については、まだまだお伝えしなければならないことがたくさんあると感じています。

そもそも、食事の際に糖質を制限する「糖質制限食」は、糖尿病の患者さんの治療のための食事法でした。糖尿病は、簡単に言えば「血糖値が高くなる病気」。人は、食事をすると血糖値が上がりますが、健康な人ならば、すい臓からインスリンというホルモンが出て、血糖値をすみやかに正常な状態に下げてくれるか、ほとんど上昇させないでくれます。しかし、体質的にインスリンが出にくいと、まずは食後高血糖が生じ、それが繰り返されるうちに血糖値が高いままの状態が続いてしまう。これが糖尿病という病気ですが、そうなると、血管が傷つき、動脈硬化や失明などのリスクが高まります。

若い女性なら、「糖尿病なんて自分には関係ない」と思われるかもしれません。しかし、実は日本人を含む東アジア人は、体質的にインスリンが出にくく、食後の血糖値が高くなりやすいのです。特に意識することなく食事をしていると、どうしても食後高血糖になってしまう。すなわち、その人にとっての糖質過多です。その状態が続き、健康診断などで血糖値の異常に気づいたときには、すでに糖尿病になってしまっている、ということが起こっているのです。ですから、糖尿病の人はもちろんですが、そうでない人も、いつでも予備軍になり得ると思って、食事の際に糖質を意識することが大切です。

同時に、自分の体質を知ることも重要です。同じ日本人でも、血糖値が上がりやすい人、上がりにくい人がいます。ぜひ、糖質に対するご自身の傾向に目を向けていただきたいですね。

正しい糖質制限では「カロリー制限は必要なし!」

人間のからだに必要な栄養素のなかでも、エネルギーの源となるのが、「炭水化物」「たんぱく質」「脂質」の三大栄養素です。そのうち「炭水化物」は、「糖質」と「食物繊維」に分かれており、この「糖質」が、血糖値を上げる原因になります。

具体的には、ごはんやパン、うどんなどの麺類です。根菜やフルーツ、はちみつなどにも糖質が多く含まれます。朝食はフルーツとはちみつのスムージーだけ、などと聞くと、美容や健康に良さそうですが、実は糖質過多だったりしますので、要注意です。

ここで勘違いしてほしくないのは、カロリーを制限する必要はない、制限してはいけない、ということです。もちろん、肥満症治療のための食事療法の柱は、糖質を含むカロリー制限食です。しかし、1日の食事量を抑え、カロリーの高いもの、つまり食べたいと思うものが食べられないとなると、つらいし、楽しくないしで、長続きしません。そこで私は、血糖値を上げる糖質はしっかりと制限するものの、たんぱく質と脂質は無制限にとっていいですよ、という「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」を提案しています。「ロカボ」とは、極端な糖質制限も含む「ローカーボ=低炭水化物」とは区別した呼称です。これなら、ご飯やパンを減らしても、肉や油は好きなだけとれるので、食事制限のハードルも下がります。

「本当にカロリーを気にしなくて大丈夫なの?」と心配になる人もいるでしょう。たいていの人は、「痩せたい」と思ったらまずカロリーを制限しようとすると思いがちです。しかし、それではからだに必要な栄養が足りなくなるので、たとえ体重は落ちても、筋肉も一緒に落ちてしまう。げっそりとした不健康な痩せ方になってしまいます。

一方、「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」では、たんぱく質や脂質をお腹いっぱいに食べることでカロリー消費が高まりますし、満腹感でカロリー摂取を管理できます。カロリー計算をせずに痩せやすくなるのです。しかも、筋肉は衰えず、内臓脂肪を中心に減量できるので、すっきり締まった体型を目指せます。

糖質を適正に制限しつつ、たんぱく質と脂質はしっかりとる。この方が、健康的に痩せられるのです。私自身、そのことを身をもって体験しています。かつて、患者さんたちと同じようにカロリー制限食を実践していた頃の私は、今よりもずっと太っていました。カロリー制限をしても痩せなかったのです。しかし、「ゆるやかな糖質制限食・ロカボ」を始めてからは、体重は8kg減。肉もバターもマヨネーズも解禁したのに、痩せたのです。食べたいものを食べられないストレスもないので、日々、食事(とお酒)が楽しみです。

楽しく続けられる「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」は、一般の方にもおすすめです。しかも、老若男女すべての年代で、良いことずくめ。お父さんはメタボリックシンドロームが改善、お母さんは肌にハリが出て、娘さんは健康的にダイエット、運動部の10代はパフォーマンスがアップ、そしておじいちゃんおばあちゃんは認知症予防にも。家族全員で同時に取り入れられるのも、「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」の魅力のひとつですね。

----「糖質」が私たちのからだにこれほどまでにさまざまな影響をもたらしているとは…。まずは食事のたびに「糖質」を意識することから始めましょう。次回は、「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」について、何をどのくらい制限すればいいのか、あるいはしなくていいのか、より具体的にお伝えいただきます。

取材・文/剣持亜弥
イラスト/坂田優子
  • 山田悟
  • 山田悟 北里研究所病院 副院長・糖尿病センター長。1994年慶應義塾大学医学部卒業。医学博士。日本糖尿病学会指導医。日本糖尿病学会学術評議員、日本糖尿病療養指導士認定機構広報委員などを務める。『糖質制限食のススメ』『外でいただく“糖質制限食” 奇跡の美食レストラン』『カロリー制限の大罪』『挫折しない緩やかな糖質宣言ダイエット』『運動をしなくても血糖値がみるみる下がる食べ方大全』など多くの著書がある。雑誌やレシピ本の監修も多数手がけている。