呼吸活動の7割を担う筋肉の正体は?

特集/呼吸で自分を変える!

先生/柿崎藤泰(文京学院大学 保健医療技術学部
保健医療科学研究科教授)
取材・文/大庭典子(ライター)

呼吸活動の7割を担う筋肉の正体は?

呼気、吸気でこんなに違う! 呼吸のメカニズム

人間が1日平均2万回も行っているもの...呼吸。今、美しさや健康を高められるとして改めて"深い呼吸"に注目が集まっています。呼吸が整うと、どんないいことがあるのでしょうか。また、最近新たにわかってきたこととは。私たちが生きている限り行う"呼吸"について、さまざまな角度から考えていきます。
ご登場いただくのは、呼吸についての研究を20年以上続けている文京学院大学の柿崎先生。まずは、呼吸のメカニズムについて、教えていただきます。

「呼吸は、無意識にしているものでもあり、また意識的にコントロールすることもできるもの。意識・無意識にかかわらず、呼吸活動の7割近くを担っているのは、"横隔膜"です。 横隔膜 横隔膜は、肋骨の5番、6番あたりに位置し、ドーム状に横たわる形をしています。横隔膜とは、人間のからだの最大の吸気筋。つまり息を"吸う"ときに使う筋肉です。この横長ドームのような筋肉は、息を吸ったときに収縮してぐっと下がります。

横隔膜が下がるとき、同時に内臓を押し下げています。すると、その圧力に応じて、横隔膜の上にある胸郭のスペースが広がります。胸郭は肺が入っている部屋だと考えるとわかりやすいかもしれません。肺の入っている胸郭という部屋は、密閉された空間なので、大気の空気圧よりも低い状態で保たれています。そのスペースが、息を吸うときに横隔膜が下がることで広がり、空気が入ってくるのです。

空気が入ってくる動きに応じて肺が膨らむ、と思っている方がいるかもしれませんが、それは違います。逆なんですね。横隔膜を下げ、肺を拡張させて空気を吸い込む、これが息を吸うときに起きていることです。

無意識時、息を吐くときは筋肉活動は起きていない?!

では、吐くときは何が起きているというと、これは無意識のときと意識してコントロールするときでは少し違います。無意識下では、息を吐く時の筋の活動は起こりません。さきほど、吸うときに横隔膜が下がると言いましたが、息を吐くときは、それが自動的に戻ってきているだけなのです。ただし、意識して強制的に息を吐こうとしたときには、筋の活動は起こります。

呼吸は、このように横隔膜の上下の動きが繰り返されることによって、肺が収まっている胸郭内の圧力が変化し、空気の出入りが行われています。つまり、横隔膜の動きが悪くなってしまうと呼吸にも大きく影響するのです。

たとえば、肺気腫の方などは、肺が腫れて胸郭が増大してしまいます。そうすると、胸郭の下にある横隔膜がドーム状から平坦なものとなり、機能も落ちてしまうのです。

呼吸を深くする、いい呼吸をするためには、横隔膜の動きを高めることが必須。とはいえ、自己流の腹式呼吸胸式呼吸で横隔膜を鍛えるのは、至難の技ですし、うまくできずに挫折してしまう方が多いのも現実。横隔膜がきちんと動くには、骨盤底筋(コアマッスル)、そして腹筋の働きが欠かせません。それはなぜか...次回詳しくお話しましょう」

横隔膜がどこにあって、どんな動きをしているか、これまでに考えたこともありませんでした。呼吸にとって、必要不可欠なのですね。深い呼吸をするためには、何が必要なのか、次回のお話しも楽しみです。
柿崎藤泰

柿崎藤泰 文京学院大学 保健医療技術学部、保健医療科学研究科教授、理学療法士、医学博士。昭和大学藤が丘リハビリテーション病院リハビリテーション部、昭和大学附属豊洲病院リハビリテーション部主任を経て現職。胸郭の運動分析、姿勢と胸郭周囲筋活動の関係、呼吸運動療法(呼吸困難感を和らげ、個人にみあった日常生活動作を再建するための運動療法)の開発を行う。臨床結果に基づき、培った理学療法士の技術により、呼吸器の障害を持つ多くの人々に見合う最良の「呼吸」づくりを提案。『呼吸運動療法の理論と技術』(メジカルビュー社)『ブラッシュアップ理学療法』(三輪書店)など著書多数。NHK『あさイチ』での呼吸の特集にも出演。

イラスト/190