
ノーパンとノーパンツは真逆だ
ファッション界において、昨年あたりから「ノーパンツ」ブームが続いているのをご存じだろうか。「ノーパン」ではなく「ノーパンツ」なので間違えないでほしい。ノーパンとは、下着のパンツ(ショーツ)をはかずにアウターのパンツ(ボトム)などをはくことを意味するが、ノーパンツは逆で、下着のパンツ(ショーツ)ははくがアウターのパンツ(ボトム)をはかないこと。つまり、いま流行のノーパンツ・ファッションとは、パンツ一丁で街を歩くスタイルなのである(もちろんトップスは身につける)。
このブームは、ミュウミュウの2023年秋冬コレクションから火がついたといわれるが、ファッションショーやセレブのスナップ写真で目にするのみで、ノーパンツの人を近所で見かけたことは、まだない。要するに一般人が取り入れるには大胆すぎるのだ。「ノーパンツ」でググると、さまざまなノーパンツ・コーデが出てくるので、ぜひチェックしてみてほしい。
しかし、パンツというコトバの使い方は、つくづく難しいなと思う。下着のパンツとアウターのパンツ、どちらを指しているのかは話の流れから推測するしかないわけだ。そして、そんな悩みから解放されるのが、もうすぐやってくる8月2日の「パンツの日」。この日に限っては、パンツ=下着と決まっているから気持ちがいい。
メンズパンツへの感慨
日本記念日協会のサイトを見ると、パンツの日を制定したのはワコールで、正式名称は「ワコールのパンツの日」だとわかる。その目的は「記念日を通して日常生活の中でパンツへの意識を高めてもらうこと」。ここちよさはもちろん、シルエットやデザイン、機能性など、自身に合うワコールスタイルのパンツを選んで、はいて、気分を上げてもらいたいとの願いが込められているという。
パンツへの意識を高めるもっとも効果的な方法は、プレゼントではないだろうか。大切な人にステキなパンツを贈るのもいいし、自分へのごほうびパンツを選ぶのも楽しそうだ。クリスマスやバレンタインのパンツギフトは甘くホットなイメージだが、夏のパンツギフトは爽やかでクールな印象。そうめんやビールなどと同様、季節の風物詩として喜んでもらえそうな気がする。
そういえば、最近のメンズパンツはどうなっているのか。ワコールウェブストアで「メンズインナーウェア」のカテゴリーにアクセスしたところ、ずらりと並ぶパンツのカラフルさと多様性に感動してしまった。ゴージャスで通気性のよい花柄レースのボクサーパンツ、バラのアップリケをあしらったTバックブリーフ、サウナ後にぴったりのふんどしスタイル…etc. このゆたかさは、日本の希望だ。メンズパンツには、自由の風が吹き始めている。
パンツを毎日変えていますか?
パンツの日といえば、先日、気になるセリフが出てくる映画を見た。『コット、はじまりの夏』(2022年)というアイルランド語の作品で、9歳の少女が夏のあいだ田舎の親戚に預けられ、さまざまな体験を経て成長していく。イギリス英語で書かれた原作を参照すると、それはこんなセリフだった。
Mammy says I have to change my pants every day.
(パンツは毎日替えなさいとママに言われているの)
映画では「下着」と訳されていたが、原作では明確に「pants」という単語が使われていたのである。アメリカ英語ならpantsはアウターのことだから別の単語を使うはずだが、イギリス英語でpantsといえば下着のパンツのことなのだ。なんてわかりやすいんだろう。
そしてもうひとつ。「パンツは毎日替えなさい」は、毎日清潔なものに着替えなさいという基本的な教えであると同時に、「日替わりでいろんな種類のパンツを楽しみなさい」という意味にもとれるではないか。そういえば私は毎日、似たようなパンツばかりはいているなあと気がついてしまったのだった。レディースのパンツは、メンズパンツ以上に豊富なバリエーションが存在することは間違いない。パンツの日をきっかけに、毎日のパンツライフをもっともっと楽しもうと決意した次第である。パンツ一丁で街を歩く予定はないけれど。
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相川藍(あいかわ・あい)
言葉家(コトバカ)。ワイン、イタリア、ランジェリー、映画館愛好家。
パンツの日に見たい映画は、昨年4Kレストア版がリリースされた『恋する惑星』(1994)。トニー・レオンの白ブリーフ姿は、30年前に撮影されたとは思えないまぶしさです!
イラスト/白浜美千代
デザイン/WATARIGRAPHIC