美しく満足度の高い乳房再建、最新事情

特集/目ざせ、美バスト!

先生/酒井成身(国際医療福祉大学
三田病院形成外科 教授、医学博士)
取材・文/大庭典子(ライター)

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"自家組織"で乳房を再建!

三田病院 形成外科部長の酒井成身先生のもとには、乳がんの手術によって失われた乳房の乳房再建を希望する患者さんや、理想の乳房を手に入れるために手術を受ける人が多く訪れます。最新の乳房再建医療とは? 酒井先生にお話をお伺いしました。

「乳房再建は、シリコンなどの人工乳房で再建することが一般的で、私も行いますが、シリコンは10~20年すると劣化したり、破損することがあります。また、皮下組織が薄い状態のところに入れると、シリコンが露出したり、長い年月の間で変形する合併症がおこることがあります。何より、シリコンは"下垂"しませんので、年月の間に左右対象が崩れるなど、さまざまな問題が予測されます。

私は"自家組織"による再建に勝るものはないと考えています。シリコン・インプラントを使わないで、自分の筋肉と脂肪で乳房をつくるのです。その組織はどこからもってくるかと言いますと、背中の広背筋です。乳房再建後も妊娠を希望する方や反対側の乳房がそれほど大きくない患者さんによく用いられます。

広背筋は背部で上腕の付け根の部分をかなめとした扇のような形をした筋で、胸部へ移動するとちょうど大胸筋の位置にきますので、乳房再建には好都合の筋なのです。前胸部で必要な皮膚をこの広背筋の上にデザインして、広背筋を皮膚の一部と一緒に血管をつないだまま再建する胸の方向に反転させ、移植するのです。

乳房の形を支えているのは、クーパー靭帯だけではない!?

乳房切除をした方は、クーパー靭帯はなくなってしまいます。Vol.5で申し上げたように、クーパー靭帯を人工でつくることはできません。しかし、乳房の形を保っているのは、クーパー靭帯単独の力ではありませんから乳房の形は維持することができます。脂肪と脂肪の間にある薄い膜や脂肪自体のお互いのくっつきもありますし、皮膚も支えているのです。

自家組織で再建した乳房には、自然のやわらかさがありますし、脂肪の重みなどで"下垂"も起きるのです。ただし、乳がんの切除手術後は太らないように注意が必要。これは血流の問題なのですが、太った脂肪は再建後に溶けて変形してしまうことが起こりやすいのです。再建後、半年たてば、スポーツもOKですよ。患者さんのなかには、ゴルフのスコアが上がったなんて人もいるくらいです。

アンケートでも、乳房再建を希望する理由として、"乳房のないことがストレス"、"友人との温泉旅行、子どもや孫との入浴に困る"、"片側が重く、からだのバランスがとりづらい"などがあがっていますが、乳がんによる乳房切除をされた方の苦しみははかりしれません。女性にとってバストは大切なものですから、その方の好みはもちろんですが、残っているバストや年齢などさまざまな要素やバランスを考慮して、満足していただける乳房再建を心がけています」

形や大きさなど、乳房の理想やこだわりは人それぞれだけに、再建するには、綿密な話し合いが不可欠なのですね。これからの再建技術の発展にも注目していきたいです。
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酒井成身 国際医療福祉大学 三田病院形成外科 教授、医学博士。米国ニューヨーク大学形成外科臨床医研修、米国ヴァージニア大学形成外科臨床医研修、前聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院形成外科部長、前聖マリアンナ医科大学形成外科助教授を経て現職に。乳癌術後の乳房再建術をもっとも専門とし、全国で最多の症例を扱う。乳房手術としては豊胸術、乳房縮小術、陥没乳頭修正術など、眼瞼部の手術としては重瞼術、眼瞼下垂修正術、眼瞼しわとり術、義眼床術、顔面しわとり術も手がける。著書の『美容外科基本手術』(南江堂)は、世界でも類を見ない美容外科の教科書として、韓国語や中国語にも翻訳されている。

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