えっ! 乳腺は汗腺から派生!?

特集/目ざせ、美バスト!

先生/山口久美子(国立大学法人 東京医科歯科大学
医歯学融合教育支援センター 講師)
取材・文/大庭典子(ライター)

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バストの基本的な構造とは?

鏡に向かってバストを見ては、「もうちょっとボリュームが...」や「あれ、ちょっと垂れたかも?!」とひとりつぶやいてみたり、「あの人の胸の形いいなぁ」とうらやんでみたり...。今回は、女性ならだれしもが気になる部位、バストについて学びます。まずは、基本の構造について、東京医科歯科大学の山口久美子先生に教えていただきました。

乳房は第2肋骨から第6肋骨の間くらいに位置します(図1参照)。そして、大きさは直径12㎝~15㎝と言われています。位置や大きさにはもちろん個人差があります。

Image 乳房には血管が多く通っています(図1の赤の線が動脈を示す)。胸郭の前の方から乳房に向かうものと、腕に向かう動脈が枝分かれして脇の下から乳房に流れるものがあります。母乳を作るときにたくさん水分が必要になるので、血流を確保できるよう、さまざまな方向から乳房に動脈が分布しています。

乳房にはリンパ管もあります(図1の緑の線)。リンパには、"組織の中の水分などを吸収する"という性質があるのです。母乳をつくるとき、乳房には水分が多く含まれるのですが、その水分が過剰になった時に取り除く経路としてリンパ管が発達しているのです。リンパの流れは基本的に動脈に沿っています。つまり、図1の緑の矢印に沿って胸骨の近くや脇の下のほうに流れていきます。こうして水分を運ぶ役目から見ても、バストから脇の下へのつながりは重要なのです。

今、増えている乳がんは、多くは乳頭と脇の下の間の領域にできるといわれています。また、乳房に豊富に分布するリンパに沿って転移することも知られています。つまり、乳がんは脇の下のリンパ節に転移することがとても多いのです。乳がんの自己検診でも乳房全体をチェックすると同時に特に脇の下も入念にチェックしてください。 Image

乳房に脂肪が多いワケとは...?!

続いて乳腺を見てみましょう(図1の赤い線)。驚くかもしれませんが、そもそも乳腺は、汗腺、なかでもアポクリン汗腺から派生したものと言われています。汗腺が特殊な目的をもって変化した腺、それが乳腺です。特殊な目的とは...もちろん乳汁を出すことです。

乳腺は、乳頭の周りに放射状に並んでいます(図2A参照)。授乳以外のときには腺として発達していませんが、いざ授乳のときには、乳腺の形や細胞自体にも変化が起き、さらに乳腺の水の含有量も増えます(図2B参照)。授乳時に乳腺が発達できるよう、そのふくらみを邪魔しないために乳腺のまわりには"やわらかい"脂肪が取り捲いているのです。もしも乳腺が皮膚と大胸筋と密着していたら、乳腺が膨らむ余地がありませんから...。 Image そして、乳房の大部分は"大胸筋"の上に乗っています(図3参照)。ほかにも胸郭の外側にある前鋸筋、腹部の外側の外腹斜筋にかかる場合もありますが、メインは大胸筋です。

大胸筋などバスト周りの筋肉を鍛えることで胸に厚みが出れば、その分乳房は前に突出して、ボリュームが出たように見えるかもしれません。ただし、大きくなるのは筋肉で、バストそのものではありません。

そしてもし、大胸筋を鍛えるなら、背中の筋肉を鍛えないと、 胸側だけ鍛えて、外側に筋肉がついていない状態では、前側の筋肉に引っ張られてしまい、猫背になるので姿勢も悪く、バストも美しく見えません。ある箇所だけに偏らず、バランスよくエクササイズをしてください」

大胸筋を鍛えるなら、背中側も...! これは盲点でした。せっかくバストアップしても背中を丸めていたのではバストも隠れてしまいます。さて次回は、バストの形を支える肝、「クーパー靭帯」にまつわる目から鱗話をお届けします!

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山口久美子 東京医科歯科大学 医歯学融合教育支援センター 講師、医師・医学博士。2000年東京医科歯科大学医学部医学科卒業、2004年同大学院 医歯学総合研究科臨床解剖学分野 修了(医学博士)、2005年より同分野助教を経て2010年より現職に。

イラスト/190