食べていいもの・やめたいもの。「ゆるやかな」糖質制限・実践編

特集/糖質制限、ホントのところ

先生/山田悟(北里研究所病院 副院長・糖尿病センター長)

---- 健康のためにも美容のためにも糖質の摂取を減らしたほうがよさそうだ、ということはなんとなくわかっているけれど、食事のたびに糖質量をチェックするのはなんだか大変そう…。糖質チェックがストレスになったり、長続きしない原因になったりしては、元も子もありません。そこで、「食を楽しむ」ことを大前提にしている「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」の提唱者、山田悟先生に、具体的な食事のとり方を教えていただきます。

食べていいもの・やめたいもの。「ゆるやかな糖質制限」実践編

注意するべきは食事をした後の血糖値

前回、「日本人は体質的に糖質過多になりやすい」とお伝えしましたが、そこで質問です。皆さんが、ご自身の血糖値がどのくらいか、把握しているでしょうか?

「健康診断で引っかからなかったから大丈夫だろう」と思った人も多いでしょう。しかし、日本の健康診断はたいてい当日の食事を抜いてのぞみますから、測っているのはほとんどが「空腹時血糖値」、おなかが空いた状態での血糖値です。これは、70〜100mg/dlが正常とされています。

しかし、健康のために注目していただきたいのは、食事をした後の「食後血糖値」です。人は誰でも食事をすると、血糖値が上がります。それは糖質が消化吸収されてグルコースになり、血液中に入って全身に運ばれていくからですが、このとき、血糖値を下げる働きをするインスリンというホルモンが出にくい体質の人だと、血糖値が140mg/dl以上になる。これが、「食後高血糖」の状態です。そして、日本人は諸外国の人に比べると、体質的にインスリンが出にくく、食後高血糖を起こす人が多いのです。

食後高血糖の方であっても、早朝であれば、血糖値が上がったことですい臓からインスリンが遅れて分泌されて、食後3時間ほどずれば血糖値は平常に戻ります。しかし、戻ればいいというものではなく、その振れ幅が問題なのです。70〜100mg/dlだったものが食事によって140mg/dl以上になるのが食後高血糖であり、この乱高下が、血管を、全身を傷つけていくのです。そして、それを繰り返していくうちに、糖尿病の診断基準の200mg/dlを超える人が出てきます。

食後血糖値は実際に測定してみないと、なかなか把握できません。ごはんの後に眠くなるとか、集中力がなくなる、といった症状は血糖値の乱高下によるものの可能性がありますが、まったく無症状の人もいます。一見、健康そうに見えても、食後高血糖の人は案外多いんです。最近、健康系の雑誌の編集部で食後血糖値を測ったことがあったのですが、毎日走りまくっている編集者さん12人のうち8人が140mg/dl超えの食後高血糖でした。しかも、うち3人は、糖尿病の診断基準を満たしていました。

食後血糖値を測るには専用の機器が必要です。腕に500円玉くらいの大きさのシールを貼り付け、携帯のアプリと連動させて測る機器なども出ていますが、大手薬局で、500円ほどで測ってくれるところもあります。コロナ禍で休止しているところも多いようですが、「検体測定室」を併設している薬局なら調べることが可能です。たとえば、おにぎり2個と野菜ジュース1本飲んで、1時間〜1時間半後くらいに血糖値を測ってみると、びっくりするくらい上がっているという方もいらっしゃるはず。ぜひ、測定してみてください。

かくいう私も、体質的に食後高血糖で、ふつうに市販のお弁当を食べたりすると、200mg/dlを超えてしまいます。私も隠れ糖尿病なんです。だからこそ、その乱高下をゆるやかにする、血糖値を急激に上げない、あるいは上げすぎない食事、「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」を実践しているのです。

ご飯は半分、おかずはたっぷりでOK!

私が提案している「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」で守っていただきたいことはひとつ。「1回の食事での糖質量を20g〜40gに」ということだけです。

わかりやすく例を出すと、おにぎり1個の糖質量は、約40gです。だからそれを半分にする。お茶碗なら半膳、パンなら1/2個。炭水化物を完全に抜く必要はありません。むしろ、糖質量が20gを下回らないように、ちゃんととったほうが、食事の満足度が高まるので続けやすくなります。

肉、魚、卵やチーズは糖質がほとんどないので、好きなだけどうぞ。野菜のなかには根菜など糖質が高いものもありますが、そもそも、「1日300gの野菜をとろう」という目標を達成すること自体が難しい時代ですから、まったく気にせず、たっぷり食べてください。ただ、「甘い」「糖度が高い」と宣伝しているような野菜は、控えめに。その意味では、野菜は一種類にかたよることなく、いろいろな種類をまんべんなく楽しむという意識が大切だと思います。また、野菜ジュースは多くが糖質過多になっています。野菜はジュースでなく、野菜として召し上がっていただいたほうがよいでしょう。

脂質もしっかりと。マヨネーズは積極的にOK、ドレッシングもノンオイルであってはいけません。油を摂取することで動脈硬化症が予防できるという論文も出ています。それよりもむしろ気にしていただきたいのは、砂糖やみりん、片栗粉などの糖質系の調味料。ケチャップやとんかつソースも思いのほか糖質量が高くなります。甘みをつけたい場合には、砂糖の代わりに低糖質甘味料を使うのがおすすめです。顆粒タイプだけでなくシロップタイプもありますので、上手に取り入れてみてください。大豆や大豆製品、くるみなどのナッツ類、キノコや海藻類もたくさんとってください。お酒も、糖質を考慮しながら楽しむべしです。

カロリーはまったく気にする必要はありません。おなかいっぱい食べてください。こうお伝えすると皆さん驚かれるのですが、大丈夫です。よく「腹8分目で」なんて言いますが、そもそもは「おなかいっぱい」が食事の適正な量なんです。満腹中枢というのは本来、体重を“適正に保つため”に働くもの。つまり満腹中枢に委ねてさえおけば、体重は安定するはずなんですね。しかし、糖質過多の状態が続くと、満腹感の設定ポイントがどんどん上がっていってしまい、結果、満腹中枢がうまく体重をコントロールできなくなる。そういう意味でも、糖質量を適正に保つことが、プロポーションを整えることにもつながるのです。

まずは、気軽に、ゆるやかに糖質制限食を実践してみてください。気合を入れてストイックにやろうとすると続きません。ゆるやかな糖質制限食のほうがストイックな糖質制限食より体重減量効果が大きかったという論文もあります。ゆるやかであっても、数週間のうちにからだに変化を感じられるようになるはずです。

----自分の体内のことでありながら、なかなか知ることのできない食後の血糖値。まずはからだの中でどんなことが起こっているのか把握しつつ、無理なくコントロールできるようになりたいものです。次回は、「ゆるやかな糖質制限・ロカボ」を実践することで、からだがどう変わっていくのか、年代別のメリットについて教えていただきます。

取材・文/剣持亜弥
イラスト/坂田優子
  • 山田悟
  • 山田悟 北里研究所病院 副院長・糖尿病センター長。1994年慶應義塾大学医学部卒業。医学博士。日本糖尿病学会指導医。日本糖尿病学会学術評議員、日本糖尿病療養指導士認定機構広報委員などを務める。『糖質制限食のススメ』『外でいただく“糖質制限食” 奇跡の美食レストラン』『カロリー制限の大罪』『挫折しない緩やかな糖質宣言ダイエット』『運動をしなくても血糖値がみるみる下がる食べ方大全』など多くの著書がある。雑誌やレシピ本の監修も多数手がけている。