ストレス、感じてませんか? 口からのシグナルとは

特集/ニューノーマル時代のマウスケア

先生/池渕 剛(銀座池渕歯科院長)

---- ニューノーマル時代を象徴するマスク生活で、口まわりのケアがいっそう求められるようになっています。隠れて見えないからこそ気をつけたいものですが、では、たとえば家で過ごすときなど、マスクをしていない状況でも、気をつけるべきことはあるのでしょうか。歯科医の池渕剛先生に、日々、患者さんに接するなかで気にかかることも含めて、うかがいました。

ストレス、感じてませんか? 口からのシグナルとは

ステイホームのストレスは口腔内環境にも影響

新しい生活様式が求められるようになって1年以上が経ち、マスク、手洗い、除菌といった習慣も浸透してきました。しかし、たとえば電車の中でマスクをしていない人を見ると気持ちがざわざわするといった、日常生活での些細な出来事に、心理的不安を感じている人も多いと思います。

公私にわたるステイホームでも、ストレスは生じます。慣れないリモートワークで、自分だけでなく、家族もイライラしてしまって…という話も、いまだによく聞きます。こうしたストレスは、口腔内の環境にも影響します。前回、マスク着用によるドライマウスについてお話ししましたが、ストレスや心理的不安も、それ自体がドライマウスの原因となるのです。

ストレスを感じて緊張している状態のとき、私たちのからだは交感神経優位、いわゆる戦闘態勢になっています。反対にリラックスしているときは、副交感神経が優位です。そして、唾液腺をコントロールしているのは、副交感神経のほうなんです。寝ている間に、よだれを垂らすことがありますよね? あれは、副交感神経によって、唾液の分泌が活発になっているからです。

また、スマホを見ているときなど、頭を少し前傾させた姿勢は、唾液腺を物理的に圧迫して、唾液の循環を悪くするともいわれています。ネットでコロナ関連のニュースばかり見てしまう、という人は、唾液腺も圧迫され、さらに交感神経も刺激されて、ドライマウスに拍車をかけることになりかねません。

唾液は、殺菌成分や静菌成分を持ち、人体にとって有害な微生物から身を守ってくれます。つまり、唾液の分泌が減るということは、口の中が無防備になるということ。歯周病や虫歯、口内炎などの粘膜疾患、味覚異常、嚥下(えんげ)障害などの症状も生じやすくなります。

口だけじゃない! 口臭の原因は全身にあり

口腔内の環境が悪くなってくると、口臭にも注意が必要です。マスクをしていることによって、相手の口臭が気になりにくくなった…ということは、自分の口臭にも気づきにくくなっているはず。しかし、口臭は、WHO(国際保健機構)の国際疾患分類にも「口臭症」として正式に登録されている疾病です(日本においては口臭自体は健康保険の対象になる疾病には含まれません)。エチケット、という観点からだけでなく、口腔の、ひいては全身の健康にも関わることですので、ぜひ、気にかけていただきたいですね。

口臭の原因の多くは、口の中にあります。「舌苔(ぜったい)」と呼ばれる、舌の表面に付着して白くなった汚れ、歯の表面に付着した歯垢(プラーク)、そしてプラークが蓄積することによって起こる歯周病、ドライマウスも、悪臭物質を生成し、口臭の原因となります。

腎臓や肝臓、胃などの内臓疾患も、口臭を発生させます。疾患までいかずとも、体調不良やダイエットのしすぎなども口臭を引き起こします。

口臭には、日常の習慣が大きく関係します。気になることがあれば、歯科医に相談してみてください。

----新しい生活様式によって、私たちの心とからだは、思った以上にストレスを強いられているのかもしれません。マウスケアをきっかけに、ゆったりと過ごすなど、意識して自分自身の緊張を解いてあげられるといいですね。次回は、さまざまな疾患を引き起こす歯周病について教えていただきます。

取材・文/剣持亜弥
イラスト/坂田優子
  • 池渕 剛
  • 池渕 剛 銀座池渕歯科院長。1998年に大阪大学歯学部歯学科を卒業。医療法人での勤務医を経て、厚誠会歯科代々木上原 院長、医療法人社団厚誠会理事を歴任。2001年7月、患者のための高度で良質な、理想の歯科医療の実現を志し、東京・銀座中央通り、銀座4丁目交差点から徒歩30秒の場所に銀座池渕歯科を開院。365日無休の歯科医院として注目を集める。メディアへの出演も多数。著書に『今日も銀座は診療日和。ぼくが1年365日歯科治療を続けるわけ』(世界文化社)がある。