汗は美と健康のバロメーター!

特集/いい汗悪い汗

先生/上田由紀子(ニュー上田クリニック 院長)

汗は美と健康のバロメーター!

お肌も筋肉も良好に...汗が起こすプラスのスパイラル

適切な量の水分を取り、汗をきちんと出すことは、健康にも美容にも不可欠。前回は、汗のトラブルのひとつである汗管に汗がつまって起こる"あせも"について、教えていただきました。汗を上手に出すために気をつけたいことやポイントなど、今回もニュー上田クリニックの院長、上田由紀子先生にご登場いただきます。

「皮膚科が関係する汗のトラブルは大きく3つに分類されます。前回までにお話したニオイ、汗が出すぎる、に続いて3つ目は、汗が出ない"無汗症"、または汗の量が極端に少ないという症状。

これは、先天的に甲状腺に問題がある方や、また神経系に問題がある場合も脳からの"汗をかけ"という指令が伝達できず、汗がかけない、もしくは汗の出る量が少なくなることがあります。汗がかけないと、汗の大きな役割である"放熱"ができないので、体温調節がうまくいかず、結果、熱中症になりやすくなることも。糖尿病、アトピーの方にも多く見られたり、やけどで皮膚が深く失われると、その部分だけ汗が出ないこともあります。

汗は健康だけでなく、肌を若々しく、美しさを保つためにも欠かせません。その成分は、99%が水で、残り1%のなかに乳酸や尿酸など、肌に保湿作用のある成分が含まれているのは以前にもお話した通り。汗をきちんと出すことで、しっとりと潤いのある肌になる、汗が天然の良質な美容液と呼ばれる所以ですね。

汗によって皮膚表面がいい状態になれば、影響はお肌だけにとどまりません。皮膚は、浅い筋肉との相関性が強く、肌がしっとりとしていると、その下の筋肉も、やわらかく、伸びがよくなり、筋肉の状態が良好だと肌にハリも生まれ...とプラスのスパイラルがまわり出します。汗をきちんとかいて、保湿された肌は、からだ全体にもいい影響を与えています。

汗腺を開くトレーニングで汗美人に!

今は暑くてもエアコンで快適に過ごせるなど、夏でも汗をかかずに過ごせる環境が整っていますが、たまには意識的に汗をかくことも大切です。たとえば、サウナや岩盤浴。最初は思うように汗が出なくても、しだいに汗腺も開いてきますので、だんだんと汗をかきやすくなります。

全身にあるエクリン腺から出る汗は、粘稠性(ねんちゅうせい)がないサラサラとした汗ですが、短時間で繰り返し汗を出す際には、より汗はサラサラになります。運動や岩盤浴などで体温が過度に上がり、放熱のためにたくさんの汗をかく必要が出てくると、汗に含まれる水以外の成分が失われすぎないよう、からだがそれらの成分を再吸収します。

そうすると、通常99%水からなる汗の成分のうち、さらに水の割合が増えるため、サラサラ度もアップ。そこに理想的な量の水分が補充されていれば、血液の循環もよくなります。

水分補給にもポイントがあって、なるべく汗をかく前に水分を摂取することを心がけてください。体液はできるだけ濃くならないよう保つのが理想ですから。「水が飲みたいな」と感じる前に、こまめに補うクセをつけておくのがいいでしょう。これから暑い夏を迎えるにあたって、習慣にしたいことです。

汗として水分が出たら、水分を飲みたくなるのが人間の本能ですから、ふだんの生活であまり水分を欲しない、水を飲まないという方は、きちんと汗が出ていないのかもしれませんよ。水を多く飲めないという方は、イオン水などで補うなども対策のひとつです。

汗が出ないと感じたり、逆に出すぎだと感じるならば、何らかの病気が進行している可能性もありますので、健康診断を受けることをおすすめします。汗が適切な量、きちんと出ているか否かは健康のバロメーターなのです」

毎日何気なく出ている汗が、健康にも美容にも大きな役割を果たしていたことがよくわかりました。汗をかいたあとのすっきり感を最近感じていないなという方...汗腺を開くトレーニングを始めてみませんか? 汗を上手に出して、夏を乗り切りたいですね。
上田由紀子

上田由紀子 ニュー上田クリニック院長、医学博士。日本皮膚科学会認定皮膚科専門医。日本体育協会公認スポーツドクター。
東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部皮膚科教室にて診療、研究、教育に携わった後、千葉県浦安市にて「ニュー上田クリニック」を開業。01年、国立スポーツ科学センターのオープンに伴い、医学研究部皮膚科を兼任。著書に『スポーツと皮膚』(文光堂)、『ようこそ、これからのSkin Careへ』。野際陽子著『70からはやけっぱち』(KADOKAWA/メディアファクトリー)には、野際氏との対談も収録されている。

取材・文/大庭典子(ライター)
イラスト/190