2023.10.11

美容エディター・毛髪診断士 伊熊奈美さんインタビュー<後編>「美しい年齢の重ね方」

OTONA BODY BOOK 編集部

女性のヘアケアについて広く深い知識をもち、健康な髪の育て方について、さまざまな場所で発信している伊熊さん。ワコールボディブック掲載の<前編>では、幼少期に感じた「女の子という縛り」について、さらにそれをはねのけ、どうやって今の立場を確立していったのか、お話を伺いました。続く<後編>は、おとなボディブックでお楽しみください。これからの生き方、そして未来の誇れる自分について、深掘りしていきます。

もっと持続可能な美容を
あたり前の常識にしたい

美容エディターとしてスキンケアやメイクなどビューティ全般の誌面づくりに力を注ぎながら、今ではヘアケアのエキスパートとして自著を上梓し、テレビ、ラジオ、さらに講演会ほか、各方面で活躍する伊熊さん。自分の知りたいこと、やりたいことを専門分野にした今、さらにこれからの未来をどう見据えているのでしょうか。

「美容業界におけるサステナブルについて、もっとみんなで考えていきたいと思っています。化粧品はボトルも中身もプラスチックをたくさん使用します。髪を洗った排水はやがて海や川に流れていき、そこには環境への影響もあります。これは一周まわって私たちに戻ってくる問題です。オーガニックとうたっていても具体的な成分がわかりにくい場合もあるし、植物由来の天然成分は必ずしもからだに優しいわけではない。

でも20年前と今を比べると、たとえばヘアカラー剤は頭皮と髪に負担が少なく、生分解性(物質が微生物などの生物の作用により分解する性質)も高いものが増えてきたり、植物性のヘナ染めが改めて注目されるようになったり、売り場でボトルのリサイクルが行われたりと、少しずつではあるけれど、ちゃんと前進しています。何より私たちの意識自体が大きく変わりましたよね。今後はさらなるスピード感をもって、もっと持続性のある美容を、あたり前の常識にしたい。本来の美しさとは、自らと社会の健康という土台があってこそ、成り立つものだと思うのです」

好きなことを
お金に換える方法を考える

さらに5年後、10年後の「誇れる自分」を考えたとき、伊熊さんにはあるテーマがあるのだそう。

「それこそが『女性をエンカレッジできる人になること』です。私自身、『女の子は』と言われて育ち、『女性であること』に縛られてきました。子育てから介護まで女性は抱えるものが多すぎるから、どうしても生き方や働き方に限界が出てきてしまう。自らそのラインを引いてしまう人もいるはずです。その枠や思い込みを外すことで女性たちを励まし、一緒に可能性を探っていきたいんです」

そのために自分自身が実践し、かつ多くの女性に伝えていきたいと考えているのが「経済的に自立することの重要性」なのだとか。

「身も蓋もないことかもしれませんが、それがあればある程度のことは解決できるのではと思うのです。毎日忙しいけれど、一度立ち止まって『好きなことをやってお金に換える。そのためにどうすればいいのかを考える』時間をつくることが大切。たとえばお花が好きなら、庭の花でアレンジメントをつくる方法を、友人に教える講座を開いてみるとか。あるいは、SNSやYouTubeでの発信が何かにつながることもあると思うんです。

意識したいのは『遠い未来ではなく、近い明日を見ること』。現状の一歩先、二歩先を見て、今の自分ができることや気になる課題を洗い出してみる。私だって、自分のために深めていったヘアケアや白髪ケアの知識が、ここまで世の中に必要とされるなんて思ってもいませんでした。ほかの人よりほんの少し好きなこと、詳しいこと。それが意外と必要とされていて、誰かの人生を明るく照らすかもしれません。『誇れる自分』を育てることを、女性ひとりひとりが始めてみたら、世界は変わるのではないか。そんなふうに考えているのです」

  • 伊熊奈美(いくま・なみ) 美容エディター・ジャーナリスト。公益社団法人 日本毛髪科学協会 毛髪診断士 認定指導講師、社団法人 国際毛髪皮膚科学研究所 毛髪技能士。 20年以上にわたり、美容分野の記事を編集、執筆、監修。特にヘアケアに精通し、毛髪科学に基づいた知見を生活に取り入れるメソッドに定評がある。著書に『頭皮がしみる、かゆいは危険信号! いい白髪ケア、やばい白髪ケア』(小学館)、『脱白髪染めのはじめかた でもいきなりグレイヘアは無理!』(グラフィック社)。 Instagram:「namiikuma_hairista
構成・文/本庄真穂
撮影/高木亜麗
ヘア&メーク/コンイルミ
デザイン/日比野まり子